第153話 第三章 プロローグ③

――N.G400年(現代) ルカニード王国


 突然シャリアを名乗る男が現れ、ルカニード王国に侵攻していた世界連合軍を退けてから二日後、フェリクスはルカニードの王都にある軍司令部に招集されていた。

 フェリクスが到着し、司令部の扉を開けると高官達の声が既に飛び交っている。


「奴は本当にシャリアなのか?」

「いや、今はまず我が国の被害状況をまとめるのが先だ」

「またいつ奴らが攻めて来るかも分からんのだぞ。現在、我が国の戦力はどれ程残っているのだ?」


 集められた高官達がそれぞれ思った事を口にする為、議論がまとまる様子など全くなかった。


 そんな様子をフェリクスは壁にもたれ、呆れた表情で少し離れた場所から静かに見守っていた。


 すると傍らに立つセシルが眉根を寄せて覗き込んで来る。


「ねぇ、何これ? これでまともな議会開けるの?」


「議会が始まれば少しは意見もまとまるだろ。暫くは見守っとく事にしよう」


 フェリクスが諦めた様に言うと、セシルも仕方なく頷く。二人が暫く見守っていると突然部屋の奥から声が響いた。


「諸君静粛に! 好き勝手話されてはまとまる物もまとまらんではないか」


 その声を聞き、皆一瞬静まり返ると共に、フェリクスとセシルは唖然とした表情を浮かべる。

 この騒がしさも、議会が始まるまでのもの。議会が始まればもう少し冷静に議論されるものだと思っていた。しかし今の声を聞き、議会は既に始まっていたのだと気が付いたのだ。


「それとフェリクス・シーガー特務大尉、招集が掛かればもっと迅速に対応してもらいたいな。君には聞きたい事が山ほどあるんだ。とりあえずそんな奥に突っ立っていないで前に出てきてもらおうか」


 議長を務める大臣がやや高圧的な物言いをすると、フェリクスは渋々前に踏み出した。


「遅れた事、誠に申し訳ございません。何せ最前線はかなり混乱しており、何より負傷した部下も多数いました。人員の配置等に手間取りまして……」


「言い訳はもういい! そういった緊急の配備も含めて貴様、指揮官の仕事だ」


「……はい、おっしゃる通りです。自分の至らなさを痛感してます」


 フェリクスの説明を遮り、尚も高圧的に物を言う大臣を黙らす為、フェリクスはあえて平身低頭で対応する。

 そうしなければ横にいるセシルが拳を握り締めながら、今にも大臣に飛び掛からんと拳を震わしているからだった。


 フェリクスが傍らに立つセシルに目をやると凄まじい形相で大臣を睨んでいた。

 幸いセシルの身長が低かったせいか、他のもの達が壁になり大臣はセシルの様子には気付いていない。

 フェリクスはゆっくりとセシルの前に立ち、大臣への視界を遮ると自ら切り出す。


「それで? 自分に聞きたい事とはやはり突然現れ、シャリアを名乗った男の事でしょうか?」


 フェリクスの質問にその場が一気に静まり返る。周りの反応を見てフェリクスが微かに笑みを見せた。


「まぁそうですよね。はっきり申し上げてその男がシャリアであったかどうかは分かりませんが、かなりの使い手である事は確かです。自惚れている訳ではありませんが、自分はかなりやれる方だと自覚しています。横にいるセシル・ローリエもはっきり言って最上級のウィザードです。そこにセントラルボーデンのナンバー三、アイリーン・テイラーも参戦し臨時の共同戦線で挑んだものの、あの男は簡単にあしらいました。四百年前に死んだシャリアが復活するなど、にわかには信じがたいですが、あの男の力は本物です」


 フェリクスの報告に静まり返っていた議会が再びざわめきだす。

 一線を退きずっと隠居のような生活を送っていたフェリクスや新参者のセシルの実力こそ知る者は少ないが、セントラルボーデン軍アイリーン・テイラーの実力は周知のものだった。そのアイリーンを軽くあしらったとあれば、その男の実力は少なくともアイリーンを軽く凌駕していると考えられる。


 議会のざわめきが波打ち、全体に広がって行った時、奥にいた軍人が声を上げた。


「おい、ちょっといいか!? さっきから聞いてたら物差しがお前や、アイリーンじゃねぇか。俺は王都守護の為にずっとここにいてアイリーンやその男ともやりあってねぇから、いまいちぴんと来ねえんだよ」


 ゆっくりと前に出て薄ら笑いを浮かべる男は背丈二メートルはあり筋骨隆々の大男だ。そんな男をフェリクスはじっと見つめる。


「……なるほど、今ある情報だけでは貴方の乏しい想像力では理解出来ない訳か。それは申し訳なかった。子供でも分かる様に説明するべきだったな」


「物差しのお前がどれ程のもんかって言ってんだよ」


 見下しているかの様に笑みを見せるフェリクスに対して男が目を釣り上げ叫ぶと、議会室内は一気に色めき立つ。


「お、おい、貴様らここは議会室だぞ!」


「はっ、十秒で終わらせますから」


 焦る大臣だったが男は構う様子もなく鼻で笑う。


「降りかかる火の粉は払わなきゃな」


 フェリクスが笑みを浮かべて静かに呟いた。

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