第152話 第三章 プロローグ②

 ジョシュアは武装解除し男達に囲まれていた。だがそれでも男の一人はシエラを拘束し続けている。


「おい武装は解いただろ、早くシエラを解放しろ」


「まずはお前を完全に拘束してからだ」


 そう言うと森の中から残りの男達が姿を現し、ジョシュアを跪かせ後ろ手できつく縛り上げた。すると男の一人が銃を手に取りジョシュアの頭に銃口を向ける。


「女一人助けるのに自ら犠牲になるとは中々の色男だな。最後に言い残す事があるなら聞いてやるぜ」


「はっ、なんでてめぇに遺言残さなきゃならねえんだよ。シエラと話させろ」


「ははは、遺言はそれでいいか?」


 男が笑い銃を構えるのをジョシュアが睨みつけていた。

 しかし次の瞬間、構えた男の銃は蹴り上げられ、男はバランスを崩して一歩二歩と後退りする。

 ジョシュアがその蹴り上げた人物を見上げると、そこにはシエラが眉根を寄せ、不快感をあらわにさせて立っていた。


「やり過ぎでしょ。誰がそこまでやれって言ったのよ!?」


「なんだよ、ちょっとじゃれてただけじゃねえか」


 男は悪態をつきながら森の奥へと姿を消したが、状況が飲み込めないジョシュアは困惑していた。


『なんだ?どういう事だ?落ち着け、冷静になれ。目の前にいるのはシエラで間違いないよな』


 ジョシュアが目を走らせながら状況を分析する。だがそんなジョシュアを他所にシエラと男達は会話を進めていく。


「彼は丸腰よ、手の拘束ぐらい解いてあげて」


「冗談じゃない。相手は一流のソルジャーだ。素手でも俺達の何人かは道連れに出来るだろうさ。拘束を解くつもりはない」


「じゃあせめて後ろじゃなくて前で縛ってあげてよ」


 シエラがそう言うと男達はため息混じりにジョシュアの拘束を一旦解き、身体の前で再び両手を拘束した。


「ごめんねジョシュア。今はこれで我慢して」


 眉尻を下げて、申し訳なさそうな表情を浮かべるシエラにジョシュアが笑いかけた。


「シエラで間違いないよな?状況が理解出来ないんだが、説明してくれないか?」


「まぁそうよね。歩きながら説明するからとりあえずついて来て」


 そう言ってシエラの合図と共に男達は移動を開始し、ジョシュアもそれについて行く事になった。

 そしてその最中、シエラはジョシュアと別れてからの事を説明しだした。


 あの後、リオ達に連れられテロリストとして潜伏していた場所を共に訪れた事。その他、潜伏期間や仲間の事を聞かれ、知っていた事は全て素直に話した。

 するとそれから暫くしリオの手引きでラフィン共和国に入り、そこで解放される事になった。


「だけど私には帰る場所も待っててくれる家族もいなかったから私はレジスタンスに参加する事にしたの」


 現在ラフィン共和国ではセントラルボーデン初め、世界連合の監視の目が厳しく表立って反抗運動等が出来ない為、裏でレジスタンスの活動が活発になっていたのだ。


「私達はルカニードに攻め入った世界連合の状況を把握する為に国境を超えて情報収集をしていたんだけど、そこに貴方が突然降ってきたのよ。流石に焦ったわ。貴方いつから空まで飛べる様になったのよ?」


 そう言って悪戯っぽく笑うシエラを見て、ジョシュアは無性に嬉しくなった。状況を見れば武器は失い拘束され、男達に囲まれ窮地に立たされている事には変わりない。だがそれでもシエラにまた出会えた。それだけでジョシュアは前向きになれた。


 そして森の中を歩き続け、少し開けた場所まで来た所で全員の足が止まり、シエラがジョシュアの正面に立った。

 ここに来るまでに少し頭を整理したジョシュアがまずは問い掛ける。


「シエラ、それで君はこいつらと一緒にいても大丈夫なのか?」


「ああ、ごめんなさい。まぁ気付いてるとは思うけどさっきのはお芝居。貴方が警戒してた様だから一番安全に警戒を解いてもらう方法として芝居する事にしたの。もし貴方が私の命を顧みずに反撃して来たらそれはそれで仕方ないかなって思ってさ。だって私は貴方に殺されても仕方ない様な事をした。だけど貴方は私の安全を優先してくれたね、素直に嬉しかったよ」


「ああ、俺の中でもし君に会えたら次は絶対に離さないって決めてたからな。君を優先する事に迷いはなかったさ」


「そうなんだ、ありがとう。ねぇジョシュア、今セントラルボーデンや世界連合に向けられてる目が厳しいのは分かってる?そこにどういう訳か世界中で争いも起きてる。貴方はセントラルボーデンの中にいてどう見えてたの?まだ三年前の戦争はラフィン共和国が難癖つけて開戦したって思ってる?貴方の考えや思いは変わらない?」


 そう言って悲しげな笑みを浮かべるシエラの手には小さなハンドガンが握られていた。周りに男達の姿は無く、いつの間にかシエラとジョシュア二人だけがその場に残されていた。


「……シエラがその銃を俺に撃っても俺は躱して逆に君に反撃する事だって出来る」


「ええ、そんな事分かってるわよ。それでも二人っきりにするよう頼んだの。お願い答えて。貴方は今の世界連合やセントラルボーデンをどう思ってるの?貴方が戦う理由を教えて」


 シエラから問われ、ジョシュアはここ数ヶ月の事を思い返しながら思慮を巡らせた。

 セントラルボーデンの立場や兵士としての務め。失った仲間だけではなく、敵対し対峙して来た者達の言葉。そしてシエラへの想い。

 様々な事を噛み締め、ジョシュアはゆっくりと口を開く。


「俺は……」


ジョシュアの答えをシエラは真剣な眼差しで聞いていた。

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