第151話 第三章 プロローグ
セシルによって遠方へと飛ばされたジョシュアは木々に囲まれた森の中で目を覚ました。
「くそっ、セシルの奴何しやがるんだ。着地したのが木の上だったから良かったものの、硬い地面だったら痛いじゃすまねぇぞ。まぁ森の上に狙って飛ばしてくれたんだろうけどな」
体についた木の枝や葉っぱを払いながらジョシュアが一人呟いていた。勿論セシルが狙って飛ばした訳ではなく、たまたま飛ばされた地が木々に囲まれた場所だったのだが、そんな事はジョシュアが知る由もなく都合よく解釈して笑みを浮かべていた。
「ふぅ、しかし何処だここ?近くに仲間でもいてくれりゃいいんだが」
ジョシュアが周りを見渡しながらゆっくりと歩みを進めて行く。生憎日も落ち、真っ暗な森の中では視界もほぼ効かなかった。
僅かな視界と微かに聞こえる物音に注意を向けながら慎重に進んでいると、僅かに気配を感じジョシュアは足を止めた。
『誰だ?友軍なら有り難いが……』
ジョシュアが周りの気配に集中する。
『……数は十人近くいるか。しかも俺を囲うようにしてやがる。味方じゃないな……だがそれほどの手練でもない。やれるか?……銃は一丁、予備の弾倉は無し。剣は飛ばされた拍子にどっか行ったし、あるのはナイフが一つ……』
ジョシュアの頬を汗が一筋流れて行く。囲っている敵が徐々に距離を詰めて来ているのは分かっていた。
ジョシュアは開き直ったかの様に鼻で笑い、呼びかける。
「おいよー!俺はセントラルボーデン軍所属、ジョシュア・ゼフ中尉だ。俺を囲んでる奴らいるんだろ?俺に簡単に悟られるようじゃまだまだだろうな。あんたらが攻撃して来ないなら俺も攻撃はしない。もし殺り合う気なら俺も全力で抵抗するぜ。出来れば互いに平穏に行きたいんだが……」
森の中でジョシュアの声だけが響く。暫く静寂の時が訪れ、風に揺られた木々が擦れる音だけが響く中、ジョシュアは焦れる気持ちをぐっと抑えていた。
『……どうする。仕掛けるか……くそっ、相手の動きがはっきり分からねぇ』
人数は相手の方が多いのは確実だ。初動を誤れば一気に事態は悪くなり、最悪死を迎える。
焦る気持ちを抑えながら、ジョシュアが必死に考えを巡らせていた。自分を落ち着かせる様にゆっくりと呼吸しながら周辺に神経を集中させる。
そんな中、ジョシュアの目の前に一人の男が姿を現した。
男は口元に髭を蓄え、年齢は四十歳前後に思えた。男は迷彩柄の服に身を包み、しっかりとジョシュアの方へ銃を構えている。
「ようやく姿を現したと思ったら一人かよ。残りの連中はまだ俺を狙ってるな?」
「当然だろ、俺達の方が圧倒的に数的優位なんだからな。中尉、攻撃の意思がないならまずは武器を放棄してもらおうか」
「おいおい、ふざけるなよ。この状況で銃を捨てる程馬鹿じゃないぜ。もし殺り合う気ならあんたが初めに死ぬ事になる。その後何人か仲間もそっちに送ってやるからな」
「穏便に行こうとか言っといて穏やかじゃないな。結局セントラルボーデンの奴となんか話し合いになんかならないって事か」
互いに銃を向け合いながら駆け引きは続く。だが元々ジョシュアは戦闘能力は抜群に高かったが、交渉や駆け引きといった類いはそれ程得意ではなかった為、ジョシュア側に事態が好転する気配は全くなかった。
『くそっ何か良い案はないか?こんな時アデルなら何か閃くだろうし、セシルなら機転を効かせて突破するんだろうが……』
「……俺は自分を信じて突撃あるのみってか」
ジョシュアが呟き、口角を上げ僅かに白い歯を見せ銃の引き金に指を掛けた。
ジョシュアが覚悟を決め、引き金に掛けた指に力を込めようとしたまさにその時、ジョシュアの背後から別の男が叫んだ。
「おい、色男!ゆっくりとこっちを向け。変な気は起こすな、後悔するぞ」
突然響いた声にジョシュアは怪訝な表情を浮かべたが、ひとまず従いゆっくりと振り返る。
『何のつもりだ?振り向いた瞬間ズドンなんて事もあるかもな。だがそんな簡単には殺られないぜ』
そう思いながら最大限の警戒をし振り返ったジョシュアの目に飛び込んで来たのは信じられない光景だった。
「えっ、嘘だろ?そんな……シエラ!」
暗く光もない森の中で表情までははっきりとは分からない。だがそこには男にナイフを突き付けられたシエラが立っていた。
「ジョシュア……ごめんなさい。何時も貴方に迷惑ばかり掛けて」
「おい、勝手に喋るな!」
シエラが謝罪を口にするが、すぐさま男がそれを遮った。状況が理解出来ないジョシュアはただただ立ち尽くしていた。
そんなジョシュアに対して正面の男がシエラを強引に引き寄せナイフをチラつかせる。
「おい、貴様シエラに何しやがる!」
「黙れよ色男。命令出来る立場にあるとでも思ってんのか?ジョシュアって言ったか?武装解除しろよ。従わない場合は分かるよな?」
男はニヤニヤと笑みを浮かべながらナイフをシエラの顔に近付ける。シエラは目を閉じ身を縮こませていた。
「てめぇ、それ以上シエラに何かしたらぶっ殺す」
「はは、おっかねぇな。さぁ早く銃を捨てろ。これ以上待つ気はないからな」
男が語気を強めシエラの喉元に当てられたナイフが光る。シエラの顔が恐怖で歪むとジョシュアは大きくため息をつき、銃を投げ捨てた。
「ほら捨てたぞ。このナイフもくれてやる。早くシエラを解放しろ」
そう言ってジョシュアが腰にあったナイフも投げ捨てると両手を挙げて降伏の意を示した。
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