第142話 復活⑩

 緊張感が高まる中、カストロ中隊の面々が続々と現地に集結してくる。集まった隊員達は対立する様に佇むセシルを見て困惑の表情を見せていた。


「状況を説明しろジョシュア少尉」


 いまいち状況が掴めないでいるカストロが無線でジョシュアに説明を求めた。


「……今我々はゲルト少佐を打ち破った敵二人と対峙しています。敵の一人は恐らく強力なソルジャータイプ。もう一人は飛びっきりのウィザードですよ」


「まさかセシル少尉は敵なのか?」


「ええそのようです」


 ジョシュアの通信を聞き、全員が息を飲んだ。ついこの前まで共に戦い、苦楽を共にしたセシルが今は敵として目の前に立ちはだかっている。この状況を冷静に受け止めてられている者は限られていた。


 そんな中、フェリクスとセシルにもリオから通信が入る。


「大尉、セシル、二人だけ先行し過ぎです。ナビするので指定する地点まで引いて下さい」


「了解」


 含みを持たせた笑みを残してフェリクスとセシルがその場を去ると、慌ててジョシュアが後を追った。


「ジョシュア少尉、迂闊に追うな」


「流石にあいつらの後は追わせて下さい。見逃す訳にはいきません」


 一人飛び出して行ったジョシュアを止めようとカストロが声を張り上げたが聞き入れる様子もなく、すぐに振り返り隊員達を見渡す。


「クソっ、仕方ない。マーカス、ボーラ、バスケス、エイトリッチ、ジョシュアと一緒にセシル少尉を追え」


 名前を呼ばれた者達は一瞬戸惑いを見せる者もいたがすぐに表情を引き締めジョシュアの後を追った。


 一方追われる形となったフェリクスとセシルは少し開けた場所であえてジョシュアを待っていると、程なくしてジョシュアが二人の前に現れる。


「待ってました、って感じだな。なんだパーティーでも開いてくれるのか?」


 周りを見渡しながらジョシュアが軽口を叩く。

『見渡す限り四方八方何処からでも狙撃が出来るポイントだな。何処から来るか分からない狙撃を気にしつつあの二人を相手にするのは流石にまずいぞ』


 余裕を装いながらジョシュアは冷静に状況を分析していた。だがいくら考えても突破口は見い出せず、追い込まれた自分の状況が明確になる一方だった。


「余裕をかましているがさて、その余裕は本物かどうか見せてもらおうか」


 フェリクスが剣を手に、ゆらりと前に出るとジョシュアの顔から笑みは消え、剣を握り締めるとしっかりと構える。


 二人が動かず睨み合いを続けている最中、後続のマーカス達がジョシュアの後方までようやく追い付く。


「邪魔が入るか」

「あっちは任せて」


 後続に気付いたフェリクスが眉をひそめて呟いたが、すぐにセシルが声を掛けて前を向く。


「行くぞ」


 フェリクスの掛け声と共に二人が動く。

 距離を詰めるフェリクスに対してジョシュアは腰を落とし剣を構える。


「まずは純粋な格闘と行こうか」

「受けて立ってやるよ」


 二人のソルジャーが激しく衝突する。


 一方フェリクスの背後に立っていたセシルは横に飛び退き、大きく回り込みながら遅れて到着したボーラ達の横から向かって行く。

 ボーラ達はマーカスとバスケスを前衛に立て、迎撃体勢を取った。


「私が炎で牽制する。マーカスとバスケスはその隙にセシルに取り付いて。エイトリッチは二人の援護」


 ボーラが右手に炎を灯し、指示を出すと三人も頷き近付くセシルを注視する。


「なるほど、ボーラを中心にオーソドックスな陣形ね。四対一だけど数はハンデって所かな……本気で来なよ『風の刃に切り刻まれよ切り裂く風ウィンドカッター』」


 見つめる視線を鋭くし、セシルから風の刃が放たれると更に加速していく。

 切り裂く風ウインドカッターが迫るがボーラ達は寸前で躱しきると、今度は逆にボーラが炎を放つ。

 素早く動くセシルに炎が迫るがセシルは慌てる事なく右手を振り上げ小さな竜巻を起こす。


「今日はやたらと火に炙られる日ね」


 セシルがうんざりした様に呟くとボーラの放った炎は竜巻に巻き上げられて打ち消された。

 しかしその隙にマーカスとバスケスがセシルの両サイドから一気に迫る。


「セシル少尉もらった!」

「セシルちゃん何してんだよ!」


 竜巻を放った直後に二人から挟撃を受けるセシルだったがその表情からは余裕さえ伺えた。


「駄目よマーカス、私情は捨てなきゃ」


 僅かに早く斬りかかったバスケスの刃を躱し、マーカスの剣を己の剣で受け止めセシルは笑みを見せた。


「くそっ、まだだ」


 それでもバスケスが返す刀で再び斬りかかり、マーカスも再び剣を振るう。超ショートレンジでの攻防、尚且つマーカスとバスケスの二人がかりにも関わらずセシルを捉えきれずにいた。


「マーカスとバスケスだってそれなりのソルジャーよ。なのに……何なのあの子」


 遠巻きに見ながらボーラが拳を握り締める。


『これだけ近けりゃボーラもエイトリッチも援護射撃出来ないでしょうね。それよりもこの二人の攻撃をこのまま躱し続けるのもちょっと辛いか』


 二人の剣を寸前で躱し、躱しきれない時は剣を使って受け流して上手く立ち回っていたセシルが突然片膝を着く。


「なんだ?」

「セシルちゃん!?」


 怪訝な顔をしたバスケスとは対照的にマーカスは一瞬動きが止まる。

 次の瞬間、セシルは立ち上がりマーカスとの距離を詰めると左手に持ち替えた剣を振りかぶった。


「マーカス構えろ!」


 バスケスが咄嗟に叫び、セシルに斬りかかるがセシルは読んでいたかの様に振りかぶった剣でバスケスの剣を受け止め笑みを浮かべる。

 そして死角になっていたセシルの右手には風が集まり急速に圧縮されていく。


暴玉風烈弾ライジングバースト


 セシルが右手でマーカスの胸を突き上げると圧縮された風の塊がマーカスの胸部に炸裂する。

 暴玉風烈弾ライジングバーストをまともに胸で受けたマーカスは一瞬で十数メートル吹き飛ばされ、一人地面に転がった。


「くっ、」


 剣を受け止められたバスケスはすぐさま飛び退き距離を取った。見つめるセシルの背後にはピクリとも動かず横たわるマーカスの姿があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る