第143話 復活⑪
倒れたマーカスを
咄嗟に身を躱したセシルの横を銃弾はかすめ、セシルの髪を僅かに乱した。銃を構えたエイトリッチがそのまま幾度となく引き金を引くが、セシルは素早い身のこなしと剣さばきで悠々と銃弾を躱し続ける。
「バスケス! 今のうちにマーカスを!!」
ボーラが叫び炎を放つと、離れたセシルの隙をつきバスケスがマーカスの元へと駆け寄った。
「意識は無いが呼吸はあるか。マーカス、聞こえるか? 起きろ」
バスケスがマーカスの体を揺するとマーカスは目を覚まし体を起こす。
「大丈夫か?」
「これが大丈夫に見えるか? とんでもない衝撃だった。完全にアバラが何本かいかれた」
冗談を言いながらもマーカスは胸の辺りを押さえて顔をしかめる。
「立てるか?」
「一人だと立つのがやっとだな」
膝を着き、よろよろと立ち上がるマーカスにバスケスが肩を貸す。なんとか立ち上がったマーカスのベルトを掴んでバスケスが一気に走り出し、ボーラ達の元へと転がり込んだ。
「ボーラ、エイトリッチ、すまない。セシル少尉が攻撃して来なかったから助かったよ」
「あの子はたぶん、わざと攻撃して来なかったんでしょうね。あの子の実力なら私の炎とエイトリッチの銃弾躱しながらでもマーカス抱えて走る貴方に魔法を放つぐらい簡単に出来たはずよ」
視線の先に立つセシルが剣を片手に冷たい視線をこちらに向けて佇んでいた。
「マーカスが離脱してそちらは三人。昔のよしみよ、今ならごめんなさいして退散するって言うなら見逃してあげるわよ」
「ふふ、大した自身ね。まるで私達三人ぐらいなら問題無く倒せるって言ってるみたいに感じるけど?」
「ああ、ごめん。そう言ったつもりだけど?」
両者の間で冷静に交わされる言葉とは裏腹に緊張感はどんどんと増していく。
静まり返りぴんと張り詰めた空気の中、突然ジョシュアの叫びが響き渡った。
驚き、全員が声のした方向を見ると、ジョシュアが吹き飛ばされる様にボーラ達の方へと飛んでいた。
そのままボーラ達の前で背中から地面に叩きつけられる様に落下したジョシュアは、勢いそのままにボーラ達の元まで地面を転がり、そこでようやく止まった。
「ちょっと貴方まで何してんのよ?」
「くそっ。化け物かよ。まったく勝てるビジョンが浮かばねぇぞ」
ボーラが戸惑い問い掛けたが、ジョシュアはフェリクスの方を向いたまま苦笑いを浮かべていた。フェリクスは剣を無造作にぶらんと下げたまま片手で持ち、ゆっくりと歩みを進めてくる。
「流石セントラルボーデンの士官学校を首席で出るぐらいだ。避けるのと受け身は上手いもんだな」
「へへ、嫌味な奴だな。だったらこれはどうだ?
立ち上がったジョシュアが
地を這い迫る
「慌てて躱すとでも思ったか?」
フェリクスが剣を振り下ろし、迫る
フェリクスが左右どちらかに躱すと読んでいたジョシュアは予想が外れ、目の前を覆った砂埃でフェリクスを一瞬見失ってしまう。
焦り、すぐにフェリクスを探そうとしたジョシュアだったがフェリクスの剣は既にジョシュアの胴へと迫っていた。
「やべぇ!」
咄嗟に間に剣を入れ、胴への攻撃は防いだが力強いフェリクスの一撃にジョシュアは再び吹き飛ばされた。
再びボーラ達の元へ吹き飛ばされ、転がされたジョシュアは片膝を着く。
「あら、おかえりなさい。早かったわね」
「ああ、こんなに早く帰ってくる気はなかったんだけどな。あの野郎、追撃せずに見てやがる」
立ち上がり、剣を構えたジョシュアの視線の先には無造作に剣を持つフェリクスが悠然と立ち、こちらを見つめていた。
そんなフェリクスの横にセシルが歩み寄り傍らに立つ。
「どうする? そろそろ決めるか?」
「そうね。さっき最後通告はしたつもりなんだけど聞き入れる気はないみたいだし仕方ないわね」
フェリクスとセシルが剣を持ち、徐ろに一歩踏み出したその時、肌にピリつく様な気配を感じる。
その明らかに普通じゃない気配に二人の表情はどんどんと険しさを増していく。
徐々に強まっていく重圧にジョシュア達も少し遅れて気が付いた。
「これは……援軍だよな?」
ジョシュアが尋ねるが、皆顔を強ばらせて硬直していた。
剣を握り締め、真っ直ぐ見つめたままフェリクスとセシルが立ち尽くしていると、セシルの頬を一筋の汗が流れていく。
「本命のご到着か」
「ちょっと、リオさん教えてくれてもいいんじゃないの?」
流れる汗を拭いながらセシルがリオに通信を入れて訴えるが返答は全くなかった。
「リオさん? ちょっと?」
「貴様らに優秀なビジョンズがいる事はわかっていた。ここら一帯は既に通信機器は使えなくなっているぞセシル」
姿を現したアイリーンが見下した様な笑みを浮かべてセシルに語り掛ける。
「はは、なんとまぁ意外と小心者なんですねアイリーン大佐」
「舐めて痛い目を見るのは間抜けのする事。私は万全を期したまで」
苦笑いを浮かべて剣を構えるフェリクスとセシルに対して、アイリーンは右手をそっと突き出し鼻で笑った。
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