第141話 復活⑨

 上空に留まるセシルに火球が襲いかかる。それをなんとか躱しながら追撃の魔法を放ちたいセシルだったが火球は矢継ぎ早に襲いかかって来る為、躱しきるのに精一杯になっていた。

 そんな中、水竜の一撃がセシルに迫る。火球を躱す事に気を取られていたセシルは気付くのが遅れてしまい、身を翻しなんとか直撃は避けたが水竜の一撃が右肩をかすめ、弾き飛ばされた衝撃で手にしていた剣を落としてしまった。


「くそっ、風の切り裂き魔ウインドリッパー


「ふん、氷の壁アイスウォール


 即座に体勢を立て直し風の切り裂き魔ウインドリッパーで反撃を試みたセシルだったが、ゲルト少佐は簡単に防いで不敵な笑みを見せる。


「セシル、そろそろ終わりにしようか。我々を裏切った事、悔いるがいい」


 ゲルト少佐が叫び、右手を掲げると更に幾つもの火球を作り出した。


「くそ、ここまで来て」


「ふん、もう遅いわ」


 ゲルト少佐が右手を振ると、項垂れるセシルに多数の火球が一斉に襲いかかった。


 しかし次の瞬間、微かに口角を上げて笑みを浮かべているようなセシルの表情が垣間見えた。不審に思い、すぐさま周りを警戒したゲルト少佐の目に飛び込んできたのは少し離れた場所からこちらに手を掲げ、幾つもの光を出現させているフェリクスの姿だった。


「セシル、微笑むのは少し早いぞ。殲滅光焔矢メギド


「まずい! 水竜!!」


 フェリクスから光弾が放たれると僅かに遅れて水竜が渾身の一撃を放つ。放たれた殲滅光焔矢メギドの光弾に水竜が放った水がぶつかると、すぐさま激しい爆発を起こした。

 近くにいたゲルト少佐に凄まじい熱と爆風が襲いかかる。


「くっ、氷の壁アイスウォール


 ゲルト少佐が爆風の直撃を防ぐ様に氷の壁アイスウォールを出すと、水煙と砂埃で覆われて視界は一瞬で遮られる。


 ゲルト少佐が視界の利かない中、氷の壁アイスウォールで身を守り防御体勢を取っていると急速に砂埃が晴れていく。何事かと思ったが晴れていく砂埃が舞い上がるのを見て、すぐにそれは竜巻が迫って来ているからだと気付いた。


「今回は詠唱を唱える時間は十分にありましたよ」


 砂塵の中を突き進む竜巻をセシルは微笑みを浮かべて見つめていた。


 セシルの放った竜巻が進路上にある全ての物を飲み込みゲルト少佐に迫ると、氷の壁アイスウォールを簡単に砕き水竜もろともゲルト少佐を飲み込んだ。

 竜巻の中でゲルト少佐は一瞬で体が舞い上がり、砕かれた氷の壁アイスウォールの破片が凄まじい速度で襲いかかる。舞い上げられ天地がどちらかも分からない様な不安定な体勢のまま砕かれた氷の破片を体中に受けて、ゲルト少佐は最後、叩きつけられる様に地面に落下した。


「ぐ、まだだ……こんな事で私は……」


 全身血だらけになりながらも、ゲルト少佐は片膝をつきながらなんとか立ち上がろうとする。

 だがそれを見過ごす程、フェリクスは甘くはなかった。


「その状態で立ち上がるのは凄いが、残念ながらもう終わりだよ」


 素早くゲルト少佐の懐に入ったフェリクスが剣を横一閃に振り抜く。ガードする魔法さえ唱える事も出来なかったゲルト少佐は義手である右腕で咄嗟に身を守る。

 次の瞬間、鈍い金属音が響き、義手は無惨にも砕け粉々になったクリスタルも一緒に破片が宙を舞う。


「終わりだ」


 振り抜いた剣を再び振り下ろし、フェリクスの剣がゲルト少佐の首に迫ったその時、激しい金属音を立ててフェリクスの剣が止まった。


「ギリギリ間に合った」


 フェリクスの剣を受け止め、間一髪ゲルト少佐を救ったジョシュアが得意気に笑う。


「ゲルト少佐をここまで追い込むとは相当出来る奴だろうが、ここからは俺達も加わらせてもらう」


「ちっ、最後に思わず剣で討ちに行ったのがあだとなったか」


 ジョシュアに横槍を入れられフェリクスは飛び退き距離を取った。そんなフェリクスにセシルが静かに歩み寄る。


「フェリクス、あいつはジョシュア・ゼフ。一応ソルジャーとして士官学校を首席で出てるぐらいの実力はあるわよ」


「なるほどな。あのタイミングで俺の剣を止めたぐらいだからそれなりとは思ったが……元彼じゃないよな?」


「違うわよ。何? 妬いてんの?」


「……」


 真剣な表情のまま、日常の様な会話をする二人をジョシュアは唖然とした顔で見つめていた。


「セ、セシル!? お前何してんだよ」


「久しぶりねジョシュ。見てわからない? 貴方達の侵略行為を止めてるの」


「……お前、そっちにいる意味わかってるんだよな?」


「当然」


 ジョシュアの問い掛けにセシルが不敵な笑みを浮かべて短い言葉で答えると二人は静かに剣を構えた。両者の間に緊張が張り詰めていくと、更にジョシュアの後ろから増援が駆け付ける。


「え? セシルちゃん? 何してるんだよ?」

「セシル貴女……」


 駆け付けたマーカスは状況を飲み込めずに狼狽するがボーラは全てを察し、セシルを見つめた。

 それを見てセシルは冷たい視線を送り、静かに微笑む。

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