第140話 復活⑧

「フェリクスごめん。ここは先に行かせて」


「大丈夫か? 無理するなよ」


「大丈夫よ。いざとなったらすぐ来てね」


 少し悪戯っぽく微笑み、セシルは一気に戦場へと突っ込んで行った。

 バトルスーツの補助を受けて、魔力を推進力に変え、最前戦にいたウィザード達を飛び越えてその裏に構える水竜の主の正面に降り立つ。


「まさかこんな最前戦にいらっしゃるとは。意外でしたよゲルト少佐」


「……!! セシル・ローリエか? 意外なのはお前の方だろう。自分が何しているかわかってるんだろうな?」


「ええ勿論、自分で選んだ道ですので。少佐達もわかってるんですよね? 自分達が何しているか」


「……我々軍人は任務を遂行するのみ」


「そうですか、では私は軍人失格ですね。こんな惨状を生み出しておいて私は良心の呵責に耐えきれませんから。いいですね軍人て、敵国で好き勝手しても任務っていう免罪符があるんですから」


「好き放題言っているな。私にそんな説教をする為にそっち側にいる訳ではないだろう?」


「当然、実力で排除する為ですよ」


 そう言って剣を抜いたセシルを見てゲルト少佐も左手を突き出し構える。二人の間に風が舞い、冷気が漂う中、セシルが呟く様に魔法を唱える。


「剣よ風をまとえ、風よ、我が剣に力をさずけたまえ」


 手にした剣に風を纏わせ、セシルはやや前傾姿勢になりジリジリとすり足でゆっくり進んで間合いをはかる。

 張り詰める緊張感の中、焦れた様にセシルが飛びかかると一気にゲルト少佐の眼前まで迫った。

 魔力を己の動きの補助に使えるバトルスーツのおかげでセシルの動きは既に一般のソルジャーの動きを軽く凌駕していた。


「ちっ、遮れ! 氷結の壁アイスウォール


 飛び込んで来るセシルの前に氷の壁を瞬時に築いたゲルト少佐だったが、セシルはかまわず剣を振りかぶる。


「そんな物で」


 セシルが叫びながら剣を突きたてると、纏った風が氷の壁を砕き、ゲルト少佐に迫った。

 だが次の瞬間、ゲルト少佐と目が合ったセシルは鋭い殺気を感じ、突きに行った剣はそのままに、身体は半身になり何時でも躱せる体勢を取った。


「業火に焼かれよセシル! 爆裂豪弾フレイムショット


 氷を砕きながら迫る剣をものともせずにゲルト少佐が右腕を振り抜くと、強烈な炎と爆風がセシルを襲った。


 砕け散っていた氷とゲルト少佐が放った爆裂豪弾フレイムショットの熱と爆風で辺りは水蒸気に包まれ一瞬視界は遮られていた。


 しかしすぐに水蒸気が晴れてくると、再び距離を取り対立するセシルとゲルト少佐がそこにはいた。


「いつからソルジャーになったセシル・ローリエ?」


「ふっ、ウィザードも今時動きが良くないと戦場では役に立たないんですよ。それよりその右腕どうしたんですか? 確か前の戦いで失ったと思ったらサイボーグにでもなったんですか?」


 僅かに笑みを見せた後、眉をひそめて不機嫌そうにセシルが尋ねる。実際前の戦いでゲルト少佐は右腕を失い、今は明らかに機械で出来た義手を右腕に装着し、前方に突き出して構えていた。


「ふん、セントラルボーデンの技術を駆使してクリスタル内蔵の義手にしたのさ。今となってはおかげで爆炎系の魔法も使える様になったしな」


 口角を上げて得意気に語るゲルト少佐を見てセシルは苦笑いを浮かべた。


「なら、もう片方の腕も義手にして更に別系統の魔法も使える様にしますか?」


 そう言って再び飛びかかったセシルに対してゲルト少佐は迎え撃つ格好を見せる。


「それはあまりにも迂闊だろセシル。放て水竜!」


 ゲルト少佐の合図と共に背後にいた水竜から一気に水が放たれる。セシルの眼前に丸太の様な水の一撃が迫るが、直前で上空へと飛び退きなんとか逃れた。

 しかしそれを予期していたかの様にゲルト少佐は上空のセシルを見つめて笑ってみせる。


「敵の攻撃が迫ると上空に逃げる癖は今まで通りだなセシル」


 そう言ってゲルト少佐が右手を掲げてセシルに向かって火球を放つ。


「くっ、近付けさせない気ね」


 いくつもの火球がセシルを襲うが上空で器用に体勢を変えながらゲルト少佐の攻撃を躱していた。

 しかし地上に降り立とうとすれば水竜と火球の攻撃にあい、中々地上には降りられず上空を舞い続ける事になる。


『私を上空に留めて魔力を削る作戦ね。理にかなっちゃいるけど、ちょっとせこくない?』


 セシルの思った通り、ゲルト少佐はセシルを上空に留めて魔力を削る作戦に出ていた。更に上空なら盾になりそうな遮蔽物もない為、セシルはひたすら躱すしか方法は無く、空を舞い続けるセシルはいたずらに魔力を消費していく事となる。


「こんな所で手間取ってる場合じゃないのよね。『吹き荒れよ暴風――』」


「させると思ったか?」


 セシルが詠唱を唱え始めたが即座に火球が襲いかかり、セシルは仕方なく詠唱をキャンセルして火球を躱す。


「ちっ」


「詠唱を唱える時間なんか与えると思ったか?」


 苛ついた表情を見せたセシルに対してゲルト少佐が余裕のある笑みを浮かべて問い掛けていた。


「だったら上から見下しながら切り刻んであげるわよ」


 そう言ってセシルは更に上空へと舞い上がる。ゲルト少佐の真上に位置したセシルの周りに、風が不規則に舞い始めた。


「お望み通り、魔力の削り合い始めましょうかゲルト少佐」


「お前は確かに天才だセシル。それは認めるが少々自意識過剰なんじゃないか?」


 セシルが右腕を振り、風の刃が上空からゲルト少佐に向かって放たれる。それとほぼ同時にゲルト少佐が右腕を振り上げると火球がセシルに向かって放出された。

 上空で風の刃と火球は交差し、互いの相手へと向かって襲いかかった。

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