第139話 復活⑦

 数時間後。

 フェリクス達はラブカまであと少しという所まで戻って来ていた。ラブカから寄せられた情報では、既に世界連合軍が侵攻して来ており再び防衛戦が繰り広げられているとの事。敵の侵攻して来た位置や、フェリクス達が今いる位置を考えても初めの作戦は使えそうもなく、次はまともにかち合うしかなかった。

 それ故に戦闘を開始するタイミングは大事であり、フェリクス達は戦場の様子を伺いながらそのタイミングを見計らう。


「ねぇフェリクス。戦闘開始までまだ少しあるかな?」


 フェリクスが準備をしているとセシルが突然問い掛けてきた。珍しいタイミングではあったが今すぐ戦闘が始まる訳ではないと思い「まぁすぐではないだろうな」と返すとセシルは笑顔で駆け出して行った。

 何かあったのか? と思ったフェリクスだったが特に気に止める事なく準備を進めていく。


 一人駆け出して行ったセシルはそのままヴェルザード達がいる移動基地ベースの司令室へと駆け込んだ。戦闘前の僅かな休憩の時に勢い良く駆け込んできたセシルに皆の視線が集まる。

 セシルは注目が集まっている事を確認し一度大きく息を吐くと、前を向き司令室内を見渡した。


「大きな戦闘前に有耶無耶なまま、皆に隠し事をしたまま戦場に出たくないので皆に少し聞いてほしい。私はこの前までセントラルボーデン軍魔法兵団特別遊撃隊に所属していたセシル・ローリエです」


 セシルの突然の告白に司令室内は一気にざわついた。呆気に取られた者、驚きの表情を浮かべる者、眉根を寄せて怪訝な表情を見せる者、様々な反応だった。


「皆さんの中にはセントラルボーデンというだけで嫌悪感を抱く方もいるとは思う。だけど私は自分の事を隠したまま、しれっと一緒に戦いたくなかった。これから共に戦い、背中を預ける人達に隠し事はしたくなかったの」


 静まり返った司令室内で一人の兵士が静寂を破り投げかけた。


「もし俺があんたの昔の仲間に殺られそうになったらあんたはちゃんと助けてくれるのかい?」


「勿論即助けに入るわよ」


 即座にセシルが答えると、別の兵士が更に尋ねる。


「じゃあ俺が殺られたら泣いてくれるのか?」


「まだ泣ける程の関係性は貴方とは築けてないけど、貴方の想いを背負って代わりに戦い抜く事は出来るかな」


 セシルが少し笑みを浮かべて答えると、ちらほらと笑い声も聞こえた。そんな中、エルザが静かに立ち上がると笑みを浮かべたままセシルの前に立つ。


「セシル貴女の戦う理由は?」


「戦う理由か……シンプルにフェリクスが戦うって決めたからかな。私はフェリクスの傍にいたいから共に戦うって決めたの。彼の為に、自分の為にもね」


 セシルは顎に手を添えて少し考えた後、明るく笑って答える。


「それが聞けたら私は十分。ようこそセシル。私は貴女を歓迎するから」


 エルザが満面の笑みを浮かべて手を差し出すと、セシルも笑顔てエルザの手を握り返した。二人が固く握手を交わすと司令室内は歓声に包まれた。全員とは言わずとも、その場にいたほとんどの者がセシルを認めた瞬間だった。


「セシル・ローリエそろそろ戦闘準備に戻ってくれ。恐らく間もなく戦闘が始まる」


 一連の流れを腕を組んで見つめていたヴェルザードが声を掛けると、セシルは笑顔で敬礼した後、ウインクをして司令室を後にした。あまりにも予想外の反応だったのか、ヴェルザードも一瞬少し戸惑った表情になったがすぐにいつも通りの重々しい、生真面目な表情に戻った。


「あれ? 今一瞬、緩みました? セシル可愛いけどフェリクス大尉のものですよ?」


 エルザがニヤリと笑って覗き込んだが、ヴェルザードの表情は変わる事無く、寧ろ冷たくエルザを見下ろす。


「戦闘が始まるぞ。早く席に着けエルザ・アンダーソン」


 冷たく言い放つヴェルザードの言葉を受け、エルザは少し大袈裟に自らの両腕をさする様にして体を小刻みにふるわして震えるような素振りで席に戻って行った。


 暫くして待機場に戻って来たセシルに懐かしい漆黒のバトルスーツに身を包んだフェリクスが微笑む。


「おかえり、何処か体調でも悪いのか?」


「まさか。ちょっとした野暮用よ。それももう済んだし、体調は万全よ」


「なら良かった。間もなく出撃だ。ここからは奇襲なんかじゃない戦闘になる。敵のレベルなんかも一気に上がるかもな」


「上等よ、覚悟は出来てるわ」


 真剣な表情で語るフェリクスに対して、セシルはそれでも笑って見せた。勿論舐めてる訳でも、ふざけてる訳でもない。やるべき事はやり、全ての準備を整えた上での笑顔だった。


 それから程なくして戦闘が始まった。先遣隊が出撃し二番手としてフェリクスとセシルが出撃して行く。戦場に出たセシルは一瞬その光景に圧倒された。そこは今までのやや不意打ち気味の初戦や奇襲に近いフィリップとの戦いと違い、怒号と衝撃音が響き、銃弾が飛び交い様々な魔法が交差しては兵士達が倒れていく。


「セシル大丈夫か?」


 セシルの気配を察したフェリクスが声を掛けるとセシルは気丈な笑顔を見せ頷くと、エルザから通信が入った。


「フェリクス大尉、そこから九時方向に移動した所で敵ウィザード隊が猛威を振るってます。こじ開けれますか?」


「了解した。やってみる」


「お願いします。個別のサポートにはリオについてもらいます。セシル、無事帰ってきてね。今度は私の話も聞いてよ」


「OK、今度美味しい物でも食べながらゆっくり話そうか」


 エルザとの軽快なやり取りの後、フェリクスとセシルは移動を開始する。予定の地点に着くとそこではセントラルボーデン軍が一気呵成に攻め立てていた。

 そんな中、その中心に巨大な水竜の姿をセシルは確認する。


「はは、まさかいきなりとはね」


 困った様に呟いたセシルだったが、次の瞬間には真剣な眼差しへと変わっていた。

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