第138話 復活⑥

「お待ちしておりました。大佐」


「だから大尉だと何度も言ってるだろ。今の立場もあるんだぞ」


「ええわかってます。ですが我々にとって貴方はザクス・グルーバー大佐なんです」


 まっすぐ見つめたまま敬礼を崩さないヴェルザードを見てフェリクスは諦めたように笑い、そして固く握手を交わす。


「よく来てくれた。感謝する」


「何をおっしゃられますか。我々は三年待ったのです。長かった……我々が耐え忍んだ時間は無駄ではなかった」


 再び感極まりそうになるヴェルザードを見てフェリクスが苦笑いを浮かべていると、ワンドリーが神妙な面持ちで駆け寄って来た。


「失礼します。自分はルカニード王国軍ワンドリー・ダビリオン少佐です。ご支援感謝したいのですが、我々ルカニード王国は中立国です。表立ってラフィン共和国と共闘する訳にはいきません」


「ワンドリー少佐、自分は元ラフィン共和国軍のヴェルザード少佐です。ご心配なく。我々はこの時の為にラフィン共和国軍を抜けてきました。言うなれば傭兵や愚連隊みたいな物です。元上官である方から要請があり個人的に参戦したまで。これからも個人的に我々は勝手に参戦するだけです」


 ヴェルザードの受け答えにワンドリーは思わず唸った。国として介入されれば中立国として受け入れる訳にはいかなかったが、個人的に参戦すると言われれば断りづらい。何より今、戦力は一人でも多く欲しい状況なのは間違いなかった。


「ワンドリー少佐の言い分はわかるが、彼らは俺の古い友人だ。俺の要請に彼らは全てを投げ捨てて参戦してくれた。少々強引かもしれないがあくまで個人的な参戦だし大目に見てくれないか?」


「……わかりました。確かに大尉のご友人で個人的な参戦ならば、我々が拒否する理由はありません。何よりそれ程の戦力は大歓迎です。あらためてよろしくお願いしますヴェルザード少佐。これ以上セントラルボーデンの奴らに好き勝手やらせる訳にはいきませんので」


「ええ、こちらこそよろしくお願いします。我々もセントラルボーデンの連中には様々な恨みや遺恨もありますからね」


 差し出されたワンドリーの手を強く握り締め、ヴェルザードが深く頷く。


 こうしてフェリクス達は二つの戦地で勝利し、ヴェルザード達を加えた部隊を率いて再び激戦の中央を目指して移動を開始する。フィリップ達を打ち破ったフェリクス達はすぐに移動を開始しラブカを目指した。

 フェリクスは再びラブカを落とそうと世界連合軍が侵攻してきていると予想していたからだ。


 ラブカに戻る最中、移動と連戦を繰り返し兵士達の疲労も相当だろうと予想し数時間だけだが休憩を入れる。その間にフェリクス、ヴェルザード、ワンドリーが集まり今後予想される戦いに向けての作戦会議を行った。


「ここまでは地の利をいかした戦いに、相手の隙をついた奇襲、それに向こうの予想になかったヴェルザード達の参戦もあって上手くここまでは来れた。だがここからがきついだろうな」


「ええ、ここからは向こうも我々の事は警戒してくるだろうし、何より中央の方から本隊が向けられるでしょう。敵のレベルが格段に上がります」


 フェリクスの言葉にワンドリーが返すと暫しの沈黙が訪れた。やや重い空気の中、ヴェルザードが口を開く。


「強敵が来ようとも打ち砕くまで。過去もそうやって我々は戦い抜いて来ました。それに大佐専用のバトルスーツもお持ちしました。これで黒い死神が復活となれば再び我々に流れが来ます。我々が起こした流れにルカニードの本隊が乗ってくれれば世界連合の連中を押し戻せるのでは?」


「いい加減ザクス大佐は辞めてくれないかヴェルザード少佐。俺は今はフェリクス特務大尉だ。よくよく考えてみたら俺が一番階級が低いな」


 フェリクスが自虐的に笑うが二人は苦笑いを浮かべているだけだった。仕方なくフェリクスはもう一度二人に向き合う。


「結局はまた我々は無茶な戦いを強いられる事になる。今まで以上の激戦になるかもしれないが俺達の戦いがこの戦争の分岐点になるかもしれない。厳しい戦いになると思うがもう一度ついてきてくれ」


 そう言うフェリクスに対して二人は敬礼をしたまま力強く頷いていた。

 結局細かな作戦は決められないまま三人は解散し、それぞれ休む事にした。


 フェリクスはヴェルザードが用意していた移動基地ベースの一室に通されるとそこにはセシルが椅子に腰掛け休んでいた。


「あ、お疲れ様。どう? 作戦は決まった?」


 部屋に入ってきたフェリクスに気付いたセシルが振り向き、笑顔で声を掛けてきた。


「いや、そんなに細かい所までは決まらなかったよ。結局はいつも通りの力押しの出たとこ勝負かな」


 少し笑って報告すると、セシルは穏やかな笑みを見せた。


「しかしリオ達と一緒にいるかと思ってたが、先に部屋に戻ってたんだな」


 リオやエルザと軽く挨拶を交わして移動基地ベース内に入って行くセシルを見て、暫くは三人でいるんだろうと思っていたフェリクスが不意に問い掛ける。


「ええ少し疲れたしね。リオさんとエルザだっけ? オペレーターの子。二人がこの部屋に案内してくれてさ、昔貴方が使ってた部屋なんでしょ?」


 そう言って微笑むセシルは本当に疲れている様にも見えたし、少しぎこちなくも見えた。


「さて、この後も戦いが控えてるんだからしっかり休まなきゃ」


 そう言ってセシルはフェリクスの肩に手を掛けて艶のある笑みを浮かべると、笑みを浮かべたままフェリクスとセシルは二人で寝室へと消えて行った。

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