第135話 復活③

 ラブカに侵攻していた敵を退け、フェリクスはすぐに次の指示を出す。


「よしいいか、敵の残存勢力は元の防衛部隊に任せて俺達は次の作戦に移る。敵が態勢を整える前に討って出るぞ」


「了解!」


 フェリクスの命令に皆が応える。リオの指示の元、フェリクス達は素早く態勢を整え、次の作戦に備えて移動を開始する。


 一方ラブカに侵攻していた部隊壊滅の知らせは後方で指揮を執るアイリーンの元へも伝わっていた。


「ラブカ攻略に向かっていた部隊が全滅だと? たった一日でか?」


「はい。先程入った通信によりますと敵防衛隊に増援が来た為、引いた所に巨大な竜巻に襲われ隊が壊滅したとの事でした」


 怪訝な表情をしたアイリーンに部下が緊張した面持ちで報告すると、アイリーンは目を閉じて眉をひそめた。


「巨大な竜巻か……ふっ、面白い。一日でこちらの部隊を壊滅させた手並みといい、あの二人やはり生きていたか?」


 味方部隊が壊滅したにも関わらず楽しそうな表情を見せたアイリーンに、部下の男は戸惑い不思議そうな表情を浮かべる。


「なるほど、だとしたら有り得るな。いいか、ラブカの両隣の部隊に挟撃するよう伝えろ。その為の包囲網だろう。あと例の部隊も向かわせろ」


「はっ、すぐに手配します」


「よし、いいか? 私のバトルスーツが用意でき次第私も出るぞ」


「た、大佐自らが出撃なさるのですか? 何もそこまでしなくても」


「ふん、いつまでもこんな後方にいたら体が鈍るのだ。それに久々の戦場に最高の相手かもしれんしな」


 部下が止めるのも聞かずにアイリーンは口端から歯を覗かせて不敵な笑みを見せていた。




――

 ラブカの東側、侵攻している世界連合軍の最東側では司令部より連絡が入り慌ただしくなっていた。


「目の前のルカニード軍もまだ残っているのにラブカにいる奴らも攻撃しろだと? 何故我々がラブカ攻略を失敗した奴らの尻拭いをしなければならんのだ!?」


「しかしアイリーン大佐、直々の命令ですので従わなければまずいのでは?」


「そんな事はわかっている。こちらの三分の一程の兵を回せばいいだろ」


「しかし兵力半分を投入して反対側のゲルト少佐と連携して挟撃せよとの命令ですがいいのですか?」


「こっちは兵力が元々少ないのだ。半分もさけるか。ゲルトの所は兵力が多いんだ、頑張ってもらえばいい」


 不安気な表情で命令通り兵の半分を派遣するよう進言する部下を尻目にフィリップは自らの方針を曲げようとはしなかった。他所の動向を気にしながら自らは最も安全な策を取るのがフィリップのやり方である。


―数時間後―

 渋々三分の一程の兵を派遣したフィリップはゆるりと部隊を動かし目の前の軍事施設『ラッカス』を時間をかけて攻略しようとしていた。


「フィリップ中佐、そろそろラッカスに突入すれば落とせるかと思いますが」


「いや、まだだ。今攻めている部隊を一度下げて待機している部隊で更に削れ」


「……了解しました。ではそのようにさせます」


 やや不満気な表情を見せた部下だったがすぐに頭を下げてフィリップの命令を部隊に伝えるが、その直後に緊急の通信が入った。


「中佐! 隊の左後方から敵が急襲!」


「左後方だと!? 何処から現れた? すぐに防御ラインを張れ」


 通信兵からの報告にフィリップは慌てて指示を出していた。

 左後方より現れた部隊。それこそがラブカより即移動してきたフェリクス達だった。


 ラブカの敵部隊を退けたフェリクス達は世界連合がすぐラブカに部隊を差し向けると読み、休む事なくすぐに移動を開始した。あえて最短距離ではなく少し迂回するように移動する事でフィリップが派遣した部隊とはかち合わずにフィリップ達の部隊の後方を取る事が出来たのだ。


「大尉、タイミング良く敵部隊は前線と入れ替え時だったみたいで混乱しているようです」


 リオが鷹の目ビジョンズで確認してフェリクスに報告すると、フェリクスはニヤリと笑った。


「今しかないな。あいつらも合わせられるか?」


「ちょっと微妙ですね。少し待ちますか?」


「それは悪手だろ。先手必勝、突っ込むなら今だ。あいつなら頑張って合わせて来るだろ」


 そう言ってフェリクスは何人かの部下を引き連れて先陣を切る。そんなフェリクスを見てセシルが呆れた様な表情を見せてリオに問い掛けた。


「あの人無茶し過ぎじゃない?」


「それをなんとかするのも貴女の役目よセシル。まぁ今回はユウナ達と上手くやってね」


「了解。今回はよろしくねユウナ」


「ええよろしく。期待してるからセシル」


 力強く頷き飛び出して行くセシルを先頭にユウナ達がついて行く。

 先に敵部隊と戦闘になっていたフェリクスの後方にセシルがたどり着くと、戦闘には加わらずにその場で構えて詠唱を唱え始めた。セシルから敵部隊に向かって強風が吹き荒れる。


「OK、準備出来たよ。指示をお願い」


 吹き荒れる暴風の中、髪を乱しながら冷たい笑みを浮かべセシルが佇んでいた。


「こちらも何時でも、リオさんお願いします」


 物陰から銃を構えてスコープを覗き、ユウナはライフルの引き金に指をかけた。


「狙撃隊は左十度に構えて……撃て」


『風よ舞え、敵を退けよ暴風乱舞バーストウィンドウ


 リオの合図でユウナ率いる狙撃隊が引き金を引くと、それと同時にセシルが暴風乱舞バーストウィンドウを唱えた。

 本来、敵部隊に対して暴風を当てて吹き飛ばす暴風乱舞バーストウィンドウにユウナ達が放った銃弾が乗る。

 敵部隊は風の魔法で加速された銃弾に襲われ、次々に倒れていった。


「はは、セシルの風の魔法とユウナ達の狙撃のコラボがここまで相性が良いとはね」


 リオが鷹の目ビジョンズで見つめながら上機嫌に微笑んだ。

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