第134話 復活②

 二人は演習場を後にすると食事を取り部屋へと戻った。部屋に戻り暫し雑談した後、明日からの作戦に備えて二人は早めに就寝する。


 翌日の早朝、フェリクスが目を覚ますと既にセシルは支度を済ませ椅子に腰掛けながらタブレットを見つめていた。


「早いな」


「あ、おはよう。なんか早くに目覚めちゃってさ。少し緊張してるのかな?」


「かもしれないな。重要な仕事頼んどいてなんだけどあまり無理しないでくれよ」


「ははは、了解。でも多少の無理は付き物でしょ」


 少し心配そうに声を掛けるフェリクスに対してセシルが笑って答えていた。二人は少し会話した後、食堂に向かい朝食を済ませ食堂を出るとそこで若い将校に声を掛けられた。


「失礼します。フェリクス特務大尉でお間違いないでしょうか?」


 突然声を掛けてきて、横で綺麗な敬礼をしている将校は自分と歳はそれ程変わらないだろう。その眼差しからは強い意志と気高さが見て取れる。少し驚いたフェリクスだったがすぐに敬礼をし「確かに自分がフェリクス特務大尉です」と答えると若い将校の表情が少し崩れた。


「やはりそうでしたか。自分はワンドリー・ダビリオン少佐です。今回の作戦で兵二千人を率いてフェリクス特務大尉の指揮下に入るよう言われています。階級は自分の方が上ですが今回の作戦の指揮官は貴方です。どうぞ自分の事は部下としてお使い下さい」


「よろしくワンドリー少佐。そう言ってもらえると非常に助かる。貴方のように若く優秀な人間が下についてくれて嬉しいよ」


 そう言ってフェリクスが右手を差し出すとワンドリーも右手を出し、しっかりと握手を交わす。


「早速だが少佐、他の兵達は今どうしてる?」


「はい、兵達も食事を終え、間もなく出撃準備も完了するかと思います」


「よし、予定通り一時間後には出撃したい。よろしく頼むぞ」


「はっ、了解しました」


 固い握手の後、ワンドリーはすぐに戻り、フェリクス達も準備を急いだ。フェリクスの元にはセシルだけではなくリオやライデル達も集結し出撃準備は整った。


「よし、作戦開始だ。ラブカを攻めてる連中を撃破し世界連合の布陣に穴を開ける」


 フェリクスの号令と共におよそ二千の兵士が出撃して行く。フェリクス率いる二千人からなる一個旅団は巨大輸送車両数十台に乗り込み陸路でラブカを目指す。

 数時間後、ラブカに到着したフェリクスはすぐに防衛にあたっていた指揮官と連絡を取り状況を確認する。


「想定より少し押し込まれてるな。まぁでも許容範囲だ、予定通り作戦を開始する。半分は俺についてきてくれ。残りはワンドリー少佐と共に命令があるまで待機。リオ状況を見て指示を頼む」


「お任せを。貴方の眼となり全てを伝えます」


 リオが自信に満ちた笑みを見せるとフェリクスも笑顔で頷きセシルと共に出撃して行く。

 フェリクスとセシルが先陣を切って世界連合軍とぶつかると、戦場は大きく動いた。予想していなかった増援にフェリクスとセシルという巨大な戦力に世界連合軍は面食らい、体勢を立て直す為に少し下がらざるえなかった。


「大尉、予想通り相手は後方に下げて谷の手前で踏みとどまって体勢を整えるつもりのようです」


 リオからの通信にフェリクスがニヤリと笑う。


 作戦前、フェリクスがラブカを守りやすいと言った理由。それはラブカに至るまでの地形にあった。今世界連合軍が攻めて来ている方向からすればラブカを攻める為には陸路なら渓谷を通らねばならなかった。無論そんな場所は待ち伏せや罠を張るには持ってこいな場所であり、実際世界連合軍はかなりの損害を出しながら渓谷を抜けラブカに迫っていた。

 そんな渓谷に押し戻されまいと世界連合軍は谷の前で集まり陣形を整えようとしていた。


「いい感じに集まってくれてるみたいだな。いけるかセシル?」


「八割は削ってみせるわ、ちゃんと守っててよ」


 フェリクスの問い掛けにセシルは力強く答えると目を閉じ詠唱に入る。詠唱が進むにつれて辺りの空には分厚い雲がかかり始め、風が吹き荒れる。


『……シルフの名のもとに我は求める。古き契約を今この時成し遂げよ』


 詠唱を完成させ、セシルが目を見開くと既に辺りは真っ黒な雲に覆われ、暴風に襲われていた。


「皆巻き込まれないでね。四精霊天聖暴風龍ブラストサイクロン


 セシルが唱えると巨大な雹が辺りを襲う。


 突如空から降ってくる巨大な雹に世界連合軍は混乱した。


「何が起こった!? 天候を操る魔法だとでも言うのか?」

「わかりません! ただこの急激な天候の変化は魔法による物と思われます」


 混乱する世界連合軍だったが更に追い討ちをかけるように四精霊天聖暴風龍ブラストサイクロンの本体の竜巻が襲いかかった。


「た、大変です! 次は巨大な竜巻が向かって来ています。既に前線にいた部隊は巻き込まれ――」


「な!? 早く魔法防御シールドを張れ」


「……無理です、間に合いません」


 世界連合軍の通信兵がそう言って諦めたかのような笑顔を浮かべた次の瞬間、ラブカ攻略にあたっていた指揮官は巨大な竜巻に飲み込まれてしまう。そのまま巨大な竜巻は数分間猛威を振るい続けた。


「何が八割よ、壊滅に追い込んでるじゃない」


 少し離れた地でリオが鷹の目ビジョンズで覗きながら呟いた。リオの言葉通り世界連合軍がいた場所は木々も根こそぎ倒され、岸壁は削られ、世界連合軍の兵士達は散り散りに飛ばされ倒れており、竜巻の強烈な爪痕だけが残されていた。


「よしワンドリー少佐、部隊を投入して残存兵力の殲滅に当たってくれ。リオは鷹の目ビジョンズで誘導を頼む」


 フェリクスの素早い指示に従い各々の任務を完了していく。前情報のない不意打ちであったとはいえ、ラブカに押し寄せていた世界連合軍を僅か一日でフェリクス達は撃破する事に成功した。

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