第133話 復活
受け取ったバトルスーツをセシルが装着して感覚を確かめるように指先を動かしてみる。
「思ったよりしっくり来るわね。ただあんまり着ないから締め付けられる様な感覚はやっぱりあるかな」
「まぁそれは慣れなきゃどうしようもないだろうな。それより演習場に行って動きを試そう」
もう少し二人の時間を楽しみたいセシルだったが、フェリクスの言葉に仕方なく従い演習場に向かう。演習場に向かいながらフェリクスがバトルスーツについての説明をする。
「そのバトルスーツの特徴、まず一つ目は背中に埋め込まれた二つのクリスタルだ。一つは今まで通りの魔力を貯める事が出来るクリスタル。そしてもう一つが魔力を増幅させる事が出来る珍しいクリスタルだ」
「増幅? それって私の魔力が更に強まるって訳?」
「まぁ簡単に言えばそういう事だ。とは言ってもこのクリスタルを試したウィザードによると何倍にもなる訳じゃなくてよくて二割増しぐらいだそうだが」
「それでも私の魔法が二割増しになるなら十分よ」
歩きながらセシルが拳で自らの掌をバンバンと叩き力強い笑みを見せる。先程まで見せていた優しい女性の顔から戦う女の顔へと変わっていた。
「ああ、元が強力なセシルが使えば効果てきめんだと俺も思うんだ。そしてもう一つの特徴が装着者の魔力を動きの補助に使える事だ」
「魔力を動きの補助に? それって私が風の魔法で自分の動きを加速させてる感じ?」
「さすが理解が早いな。そう言う事だ。本来は動きが悪いウィザード用にって思ってたんだが開発が遅れててね。セシルが風の魔法で空を舞ってたのを見て普段からそういう戦い方をしてるセシルならぶっつけ本番でも上手くやってくれるんじゃないかと思ってるんだ」
少年の様な笑みを浮かべ期待の眼差しを向けてくるフェリクスを見てセシルの顔も
「まぁご期待に添えれるように頑張りますかね。ひとまずやってみよう、ダミーの的出して」
演習場に着くなりセシルが元気良く駆け出して行く。的となる人形が設置されるとセシルはおもむろに右手を振り上げる。
「ひとまず初級でいいか。『風の刃に切り刻まれよ
セシルが振り上げた腕を振り下ろすと風の刃が唸りを上げて人形に向かって襲いかかる。セシルの腕より放たれた風の刃を受けた人形が真っ二つに両断されて跳ね飛ばされる。
「はは、何これ? 軽く唱えただけなのに鋭さが全然違う」
セシルが無惨な姿となった人形を見つめて呆れたように笑っていた。
「次は接近戦ね。次の的お願い」
セシルが腰から剣を抜き構えると、すぐに次の人形が用意された。セシルは一度息を吐くと一気に人形に飛びかかった。凄まじい速さで人形との距離を詰めると剣を真横に振り抜く。次の瞬間、人形の頭部が宙に舞った。そのままかえす刀で人形に更に斬撃を加えると残された人形の腕や胴が刻まれていく。
「ふぅ」
セシルが一息ついた頃には人形は原型を留めない程に刻まれていた。
「セシル、その人形に何か恨みでもあったのか?」
「はは、まさか。想像以上に動き易かったからついやり過ぎちゃったのよ」
少し戸惑いながらフェリクスが問い掛けたがセシルは笑って返していた。セシルは剣を鞘に収めるとゆっくりとフェリクスの方へと歩んで来る。
「凄いわねこのバトルスーツ。風の魔法で加速させるよりずっとやりやすかったわ。こんなバトルスーツが量産されて一般兵にまで行き渡ったら圧倒出来るんじゃない?」
少し興奮気味に言うセシルを見て、フェリクスも満足そうに頷いていた。実際セシルの動きは凄まじく、一流のソルジャーと比べてもその動きに遜色は無かった。だがフェリクスの見解はセシルとは少し違っていた。
「確かにセシルの動きは凄かったが全員があんな動きが出来るとは思えないよ。それにそのバトルスーツに使ってるクリスタルもありふれた物でもないし、今セシルが着てるバトルスーツはあくまでもデータを取る為の試作型さ。今得られたデータを元にして一般的なウィザードでも使い易いように改良するから寧ろ性能的には落ちていくしな」
「へぇ、そういう物なんだ。大変ね技術職も」
フェリクスの説明を聞きながらセシルも頷いていた。実際ここまでの動きが出来たのはセシルの天性のセンスによる所が大きい。慣れない一般兵が魔力を身体能力に転換出来るとはいえ、セシルの様なスピードで動けばその速さに目や体はついていけず、制御出来ないまま目標の人形や周りにある木々、もしくは岩場や下手すれば地面等に体当たりする様な形になり自滅する可能性すらある。
「まぁそれはそうと、少しだけ手合わせ願いたいんだがいいかな?」
そう言ってフェリクスがバトルスーツに右手、左手と腕を通すと、掌を握ったり開いたりを繰り返し感触を確かめていた。
「バトルスーツ着ても大丈夫なわけ? あんまり無理しないでよ」
「ああわかってるよ。その為のリハビリみたいなもんさ」
セシルからの問い掛けに答えながらフェリクスは目を瞑り、ゆっくりと息を吸い込むと静かに吐き出した。少しの沈黙の後、ゆっくりと目を開けるとセシルを見つめる。
「さてと、じゃあ始めるか」
「お手柔らかにね」
二人で微笑むとフェリクスが飛びかかり、一気に距離を詰める。慌てたセシルは距離を取ろうと後ろに飛び退いたがフェリクスが更に加速する。仕方なく迎撃体勢を取るセシルにフェリクスが詰め寄った。フェリクスが手刀で突きにいくがセシルは受け流す様に片手で軽くいなし躱してみせると、フェリクスはそのままの勢いで体を回転させて振り返りざまに手刀を振り抜く。セシルは躱せずに片手でしっかりと受け止め防御すると笑って見せた。
「鋭いじゃん。何? 復活?」
「まだもう少し付き合ってくれるか? もうちょっと動かしときたいんだ」
「ええいいわよ」
お互いゼロ距離で手を止めたまま微笑むと、再び激しく動き出す。まるで流れが決められた組手の様に互いが攻防入れ替わりながら激しい動きを見せていた。そのまま二人の手合わせは数十分続いた。
「はぁ、はぁ、ちょっと待った。少し休憩にしよう」
その場にへたり込むようにフェリクスがしゃかみこみ肩で息をしながら片手でセシルを制した。
「ふふ、どうしたの? もうギブアップ?」
セシルが笑いながら覗き込むが、実はセシルもかなり息が上がっていた。
「動きはだいぶ戻ったが体力はまだ駄目だな。ブランクが長過ぎたのか、それともただ単に歳なのか?」
「まだ老け込む様な歳じゃないでしょ。まぁまだ無理しちゃ駄目ね」
フェリクスが自虐的に笑うとセシルは否定しながらも笑っていた。二人の笑い声が演習場に響いていた。
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