第130話 再会⑥

「ちょっと大声出し過ぎました……時間がないんで単刀直入に言います。ルカニードを脱出するならこの二日が勝負です。時間が経てば脱出はどんどん困難になります。下準備は整えてありますので、すぐに準備を――」


「リオ、ありがとう。だが逃げ出すつもりは無い。今まで良くしてくれたルカニードの人達を見捨てて行く訳にはいかないし、何より君も暫くは動けないだろう?」


「私はなんとでもなります。今脱出しないと間違い無く戦いに巻き込まれるんですよ。皆も待ってます」


「皆? ヴェルザード達か? 彼らは大丈夫だろ。もう少し待っててもらおう。ルカニードで受けた恩は返さなきゃならないし、何よりリオを置いては行けない」


「ふぅ……あんまりそんな事ばかり言ってたらセシルに勘違いされて私トドメ刺されませんかね? 私、今結構弱ってるんで簡単にやられますよ」


 何度言っても譲ろうとしないフェリクスに、最後はリオも諦めていつも通りの軽口を叩いて、呆れた様に笑った。


「私の器ってそんなに小さそうですか?」


 セシルも笑ってリオに問い掛けた時、向こうからユウナが駆け寄って来た。


「応急処置出来そうな物持って来ました! 早くリオさんの治療を」


 そう言ってユウナが小さめのリュックを持って来ると、セシルが受け取りすぐに中身を確認する。


「……本当に応急処置ぐらいしか出来なさそうね。男性陣は絶対こっち見ないでよ。リオさんちょっとキツいかもしれないけど我慢して下さいね」


 セシルがフェリクス達に向かってきつい口調で言った後、リオに優しく語り掛ける。リオはウインクをして、精一杯の笑顔を見せた。

 セシルも笑顔で頷き、リュックから取り出したガーゼに消毒液をたっぷりと染み込ませる。


「いきますよ」


 セシルが消毒液をたっぷり含んだガーゼをリオの脇腹にあてるとリオが身をよじりながら声にならない悲鳴にも似た叫びを上げた。


「……!! いっ!……うぐぐぅぅ……」


 身をよじりながら耐えるリオがセシルの腕を握り締める。リオに爪を立てられながら、セシルはしっかりとリオの傷口を押さえていた。苦悶の表情を浮かべるリオだったが暫くすると少し落ち着きを見せる。それでもリオの顔色は血色を失い、汗だくになりセシルに抱えられたままぐったりとしていた。


「確かユウナさん……だったかな? 私とリオさんの体を包帯で結んで。フェリクス、そのまま聞いて。リオさんの怪我はかなり酷い。早く大きな病院で治療を受けさせたいけど車じゃ時間も負担もかかる。私が魔法使いながらリオさんを病院まで連れて行くから、一番大きな病院は何処?」


「俺達が住んでた街が一番近いが前線が近いから怪我人が沢山運び込まれてる可能性があるしな、初めから王都の病院を目指した方がいいかもな。連絡はこっちから入れておく。ただここからだと車でも二時間以上はかかるぞ」


「方向だけ教えて。最速で辿り着くから」


 セシルが力強く微笑むと、リオを抱えたまま宙を舞う。二人に風の魔法をかけて空を舞う。そんな事をほとんどした事など無かった為、初めこそ手間取っていた様だがすぐに要領を得たセシルはリオを抱えて王都を目指した。


「大尉、あの人大丈夫なんですよね?」


 ユウナがフェリクスの傍らに立ち、首を傾げながら問い掛ける。


「セシルか? 大丈夫だ。ユウナもよく耐えてくたな。君があの時走って俺達の元へ来てくれなかったら、もう一歩到着が遅れていたよ」


「あの時はリオさんが走れって言ったから、ひとまず出口に向かって走って行ったら大尉がいたんです。逆方向に走り出さなくて良かったですよ」


 ユウナの問い掛けにフェリクスが優しく答えていると、ユウナも安心したかの様に笑顔を見せる。


「さぁ、他の怪我人達も集めて俺達もセシルとリオの後を追おう」


「はい」


 フェリクスの号令と共に皆が集まり、王都に向かって車を走らせる。

 途中、戦場へと向かう軍の車両と戦場から避難する人々の車両による渋滞等にも巻き込まれ、結局フェリクス達が王都に着いたのは四時間後だった。


 王都に到着するとフェリクスは怪我人を連れて病院へと直行した。ライデル達を病院関係者に任せた後、フェリクスはセシルと連絡を取り、すぐにセシルの元へと駆け付けた。


「すまない、遅くなった。リオの状態は?」


 病室の前で腰かけていたセシルに遅れた事を詫びた後、少し不安そうにフェリクスが問い掛けると、セシルが目を細めて微笑する。


「結構時間かかったね。リオさんは麻酔が効いて今は中で眠ってる。ひとまず命は大丈夫らしいけど内臓の損傷が酷いらしくて絶対安静だって。面会は明日以降にしろってさ」


「そうか、じゃあ今日はひとまずおいとまして明日また出直すか」


 リオの事は病院に任せ、フェリクスとセシルは病院を後にした。


 翌日、フェリクスとセシルが二人してリオの病室を訪れると、先にユウナとライデルがリオを見舞っていた。


「思ったよりリオは元気そうだな。ユウナとライデルも大丈夫なのか?」


「私は大丈夫ですよ、ほとんど身を潜めてましたし」

「自分は頑丈さも売りなんで大丈夫です。なんなら今日にでも戦場に行けますよ」


 リオがベッドで横になったまま笑顔を見せると、ユウナも傍らの椅子に腰掛けたまま笑顔を見せ、ライデルは軍人らしく立ち上がって敬礼をしつつ、少しおどけて見せた。

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