第129話 再会⑤

「あれがフェリクスの本来の力? 寒気がする程ね」


 少し離れた位置で見守っていたセシルが思わず呟いた。


「今の動きで八割ぐらいじゃない? 私達の目でも追えたもの。全盛期なら気が付いたらあんな奴細切れになってるわよ。貴女と引き合わせたのは正解だったみたいね」


 セシルに抱かれながら笑みを浮かべて、リオが得意げに話していた。


 「お前が俺の大事な仲間を、リオ達を傷付けたんだよな?」


 鬼気迫る様な表情でもなく、寧ろ落ち着いた冷静な態度で迫るフェリクスにゲイグールは恐怖した。ゆっくりと近付いて来るフェリクスに畏怖の念を抱いたゲイグールは耐えきれずにリオを抱えるセシルの方へと飛びかかる。


「あんた結局女ばかり狙ってるよね? リオさんを傷付けたのはその手? その足?『風の切り裂き魔ウィンドリッパー』」


 怯える様にセシル達に飛びかかろうとしたゲイグールに風の刃が襲いかかった。以前よりも魔力が回復しつつあるセシルの風の切り裂き魔ウィンドリッパーは鋭さを増しており、セシルの眼前より放たれた風の刃がいとも簡単にゲイグールの四肢を切断する。四肢を失ったゲイグールはバランスを崩してセシル達の前に転がった。


「い、痛ぇぇ、痛ぇぇよー」


 叫びながら地面をのたうち回るゲイグールをセシルが冷たい目をして見下していた。


「戦場に出て来て情けなく叫ばないでくれる。あんたの事は初めから気に入らなかったのよ。とりあえず謝罪の言葉ぐらい述べたら?」


「す、すまない。二度とあんたには逆らわねぇ、だから助けてくれ」


 涙を流しながら命乞いするゲイグールに対してセシルが冷淡な笑みを浮かべる。


「そう……まず謝る相手が違う。なんで私に謝ってんのよ? 何より女性をいたぶったり、乱暴しようとする奴を私は許すつもりもない」


「ひっ、そんな……」


風の切り裂き魔ウィンドリッパー


 再びセシルの眼前より放たれた風の刃がゲイグールを襲う。いくつもの風の刃に襲われて断末魔を上げながらゲイグールは切り刻まれて絶命した。

 結局リオを抱えたまま、セシルは一歩も動かずにゲイグールを圧倒した。


「貴女も十分寒気するわよ」


 リオがセシルの腕の中で笑って語り掛けると、セシルは苦笑いで返す。


「リオ、大丈夫なのか!?」


 先程までの冷静な態度とは打って変わって、フェリクスが少し慌てて駆け寄る。


「ふっ、どう見たら大丈夫に見えますか? 向こうで懐かしい顔も倒れてますよ。向こうにも声掛けてあげて下さい」


 リオがセシルに抱えられたまま、血だらけになった脇腹を手で押えて苦笑いを浮かべてライデルが倒れている方向をフェリクスに伝える。フェリクスがライデルの方へ向かうとリオが少し苦しそうに息をついた。


「リオさん、ちょっと失礼しますよ」


 セシルがゆっくりとリオを地面に寝かせると、素早くリオの着ていたシャツのボタンを外していく。リオの傷口があらわになるとセシルは思わず絶句した。リオの脇腹周辺は酷い内出血で赤黒く変色し、直撃された箇所は裂けた肉からおびただしい量の血が流れ出ていた。砕かれた肋骨部分は、リオが華奢なせいもあり左右明らかに形が違っているのがすぐにわかる程変形している。


「……酷い」


「へへ、そんな顔しないでよ……これでもなんとか生きてるんだから」


 セシルが眉根を寄せて困惑していたがリオはそんなセシルに笑いかけていたが、リオの顔からは大量の汗が滴り落ち、痩せ我慢しているのは誰の目から見ても明らかだった。


 そんな二人の位置から少し離れた所で倒れていたライデルの元にフェリクスが歩み寄る。


「ライデル、久し振りだな。大丈夫か?」


「大佐……いや、今は特務大尉でしたか。お久し振りです。いつもこんな姿で情けないですが、リオよりかは大丈夫ですよ」


 敬礼しながら顔をしかめるライデルの口元に血が付着しているのを見てフェリクスが少し申し訳なさそうに目を伏せた。


「それでも君も血を吐くまで身を犠牲にしていたのか」


「あっ、これは自分の血じゃなくてリオとキ――」


「フェリクス大尉ー! 今すぐこっちに来て下さい!!」


 フェリクスの問い掛けにライデルが少し得意げに返そうとした時、リオが突然割って入る様に叫んだ。驚いたフェリクスが慌ててリオ達の元へと駆け寄って来る。


「どうしたリオ?」


 フェリクスが焦って声を掛けるが、リオは少し苦しそうに咳き込み、着ていたシャツの前を開け下着姿になっていた為、セシルが覆い被さるよう庇いながら叫んだ。


「ちょっと何覗き込んでんのよ! 向こう向いて会話して。リオさんもそんな状態で叫んじゃ駄目です」


「はぁ、はぁ、ちょっと緊急事態だったのよ」


 セシルに注意されながらもリオは一息つくと、口から流れる血を拭って微笑んでいた。


「えっ、あっ、すまない。いや呼ばれたからつい」


 慌てて明後日の方向を見つめながらフェリクスが呟く様に弁明していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る