第128話 再会④
ひたすら耐えるライデルにここぞとばかりに攻撃を浴びせるゲイグールが仕上げとばかりに少し距離を取り、助走を付けてライデルの背中目掛けて飛び蹴りを見舞った。
強烈な衝撃を受け、ライデルはリオを抱えたまま数メートル吹き飛ばされると、そのまま地面を転がり木にぶつかってようやく止まった。
凄まじい衝撃の後、リオが顔を上げるとライデルはリオを抱えたまま顔を歪めていた。
「……ライデル……隊長……」
「悪い、いつも中途半端だよな」
そっと頬を撫でるとライデルが弱々しく笑ってみせた。そんな時、リオがライデルの首の辺りを持つと突然キスをする。あまりに突然の事にライデルは驚いたが少しだけ舌を絡ませるとリオの方から離れた。
「へへ、血の味がするだろ。こんな礼しか今は出来ないんだ」
「十分だ。頑張った甲斐があったよ」
ライデルが満足そうに笑うとリオが口から流れる血を拭い、立ち上がる。
「ユウナ行け! 走って!!」
突然リオが叫ぶと森の奥で身を潜めていたユウナは戸惑いながら走りだす。ユウナの後を追おうとするゲイグールに、リオが余裕たっぷりに言い放つ。
「来いよ木偶、もう一度アタシが相手してやるよ」
おぼつかない足取りで立つリオがゲイグールを指さし、クイクイっと指を曲げて挑発する。ゲイグールが近付こうと一歩踏み出したその時、リオが弾ける様に飛びかかった。不意をつかれたゲイグールが迎撃体勢を取って身構えるがゲイグールの寸前でリオが横に飛び退いた。
ゲイグールの寸前で飛び退き、方向転換したリオはライデルが先程まで手にしていた剣を拾い、再びゲイグールへ向かって飛びかかる。
リオのスピードは明らかに落ちていたが先手先手で動く事でゲイグールを翻弄する。剣を振り上げ一気に切りかかるリオだったが両手で握り締めた剣は力無く振り下ろされゲイグールに難なく防がれてしまった。ダメージを受けた脇腹が限界を迎えてしまい力無い斬撃になってしまったのだ。
「そんな剣持って振り回せばお前の売りのスピードが落ちる事なんか目に見えてんだろ? 馬鹿なのか?」
「……はは、馬鹿はてめぇだ。タイムアウトだぜ馬鹿野郎」
額に脂汗をたっぷり滲ませながらもリオが悪そうな笑みを見せた。あまりに現状に似つかわしくないその表情にゲイグールが怪訝な表情を浮かべた次の瞬間、突然不可解な衝撃に見舞われゲイグールは吹き飛ばされた。
「リオすまない、遅くなった」
「遅過ぎですよ、おかげでこんなになっちゃったじゃないですか」
リオが両手を広げておどけてみせたが、そのままふらつき倒れそうになる。そこをすかさずフェリクスが抱きかかえて事なきを得た。
「待たせてしまったな、すまない」
「何回謝るんですか? 本当に待ちくたびれましたよ。おかえりなさい大尉」
少し優しい抱擁の後、リオをセシルに預けるとフェリクスが立ち上がった。
「もう少し待っててくれ、直ぐに終わらせる」
「行けますか? それなりに強いですよ」
少し心配したリオだったが、フェリクスが力強い笑顔を見せるとリオも安心した様に笑顔を見せた。
「相当酷い怪我ですけど大丈夫ですかリオさん?」
リオを支えながらセシルが不安そうに尋ねるがリオは明るく笑った。
「結構辛いのよ。だからさっき大尉に抱きついた事は怒らないでね」
「そうですか、まぁ今回は特別に許してあげますよ」
笑顔を見せる二人を背に、剣を手にしたフェリクスの前にアンドレが悠然と立ちはだかった。
「生きてたのかよ。まぁお前らの死を確認して来いって言われたから手間が省けてよかったけどよ」
「そうか、まぁ俺も手間が省けてよかったよ。この前の借りはしっかり返しとかないとな」
アンドレが薄ら笑いを浮かべて右手を前に構えると、フェリクスが低く剣を構えて握り締める。
「一つ聞くがウチのリオに酷い仕打ちをしたのはお前か?」
「はっ、あの女を痛めつけたのはお前がさっき蹴飛ばしたゲイグールの方さ。俺は見てただけだ。まぁお前が邪魔しに来なけりゃ今頃俺も混ざって――」
「ああ、聞いた事だけ答えてくれりゃいいんだ。お前の御託は聞きたくない」
アンドレが得意げに語ろうとしたがフェリクスが途中で割って入り睨みを利かせる。それでも尚、アンドレは笑みを浮かべながら講釈をたれる。
「ははは、なんだよ、そんなに死に急ぎたいのか? まぁ聞けよ。俺達はウィザードの力を持ちながらソルジャーの力も手に入れた。お前みたいに身体能力が高いだけのソルジャーが――」
アンドレが悠然と講釈をたれていた時、突然アンドレの視界からフェリクスが消えた。一瞬何が起こったのか理解出来ない様子のアンドレにフェリクスが後方から声を掛ける。
「お前の能書きはいいって言ったよな? 卑怯だ、不意打ちだとか言うなよ。戦いの場で堂々と油断してるお前が悪い」
フェリクスが冷たい目をして言い放つとアンドレが僅かに生じた自らの異変に気が付いた。腹や腰の辺りから横に一直線に血が滴り落ちる。
「な、何をした? 俺に何した?」
「ソルジャーの力、手に入れたんだろ? わからないのか? 普通に切られたんだよ、お前は」
徐々に流れ出る血と共にアンドレの上半身がズレていく。ズレる体を止めようとアンドレが傷口を手で押さえて叫んだ。
「お、お前ふざけるなよ。この前と動きが違うじゃねぇか」
「ああ、この前はあれだ……お腹が痛かったんだ。まぁ今も絶好調って訳じゃないけどな。これ以上お前の相手するつもりはないから、じゃあな」
焦り、狼狽えるアンドレに背を向けてフェリクスはゆっくりとゲイグールの方へと歩んで行く。
「ま、待て……きさま……お、おれは……」
背後で何か訴えるアンドレを気に止める事なくフェリクスがゲイグールに迫る。フェリクスの後ろではアンドレが血反吐を吐いて上半身が滑る様に地面に落ちて転がると、遅れて下半身が崩れ落ちた。
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