第131話 再会⑦

 フェリクスがベッドの横まで来ると、リオが少し顔をしかめつつ体を起こした。


「寝たままでいいぞ」


「大丈夫ですよ、ちょっとぐらい」


 フェリクスが慌てて止めようとしたが、リオは笑ってそれを制し、そして少し真面目な表情をして更に続ける。


「大尉、私がこんな状態で申し訳ないんですが、セントラルボーデンが攻勢を強めてます。この数日の間にどんどん増援して、一気にこの王都まで迫る勢いです。うかうかしていると一瞬で飲み込まれてしまいます」


「ああ、俺も情勢は気にしている。この後、国王に会って少し作戦を練るつもりだ。ちょっと試したいバトルスーツもあるしな」


 リオの話を聞きながらゆっくりと頷き優しい笑みを見せると、リオの表情も少し綻んだ。


「その試したいバトルスーツってこの前まで篭って調整してたやつですか? ぶっつけ本番になるんじゃないですか?」


「まぁそうだが、使う人次第だが大丈夫だろ、天才だから」


 フェリクスがそう言ってセシルに視線をやると、視線に気付いたセシルが苦笑いを見せる。


「何? 私に言ってるの?」


「セシルに是非試してほしいバトルスーツなんだ。協力してくれるだろ?」


 少し戸惑いながら、おどけて問い掛けるセシルに対してフェリクスが目を輝かせて頼み込む。そんなフェリクスの姿を見て、セシルが呆れた様な笑顔を見せた。


「まぁいいわよ、協力してあげる。その前にリオさんと話がしたいの。あの、出来れば二人で」


 そう言ってセシルが上目遣いで皆に視線を向けると、少し戸惑いながらも皆軽く頷いて部屋を後にする。病室にはリオとセシルだけとなり、僅かな沈黙が訪れた。


「……人払いしてどうする気? 話って? それとも私にとどめ刺すのかしら?」


 笑みを浮かべながらリオが問い掛けると、セシルも愛想笑いで返す。


「だったら私が確実に殺人犯になるじゃないですか。やるならもうちょっと上手くやりますよ。話というか、私はリオさんに謝りたいだけです」


 そう言ってセシルは神妙な面持ちになり綺麗に頭を下げた。


「本当にすいませんでした。リオさんや他の人達がフェリクスの事待ってるのわかってたのに、私フェリクスにこのまま二人で姿をくらまそう、ずっと二人で過ごそうって言ったんです」


 そう言ってずっと頭を下げたままのセシルにリオが少し戸惑う様な笑みを見せて語り掛ける。


「……そっか。でもあなた達はちゃんと帰って来てくれたじゃない」


「それはフェリクスがリオさん達の元へ戻る事を選択したからです。フェリクスが悩んだままなら私はそのまま二人で何処かへ行く事を選んでました。もしそうなってたらあの場面で駆け付ける事なんて出来てなかった」


 ようやく顔を上げたセシルだったがリオとは目を合わせず少し唇を噛み、神妙な面持ちをしていた。そんなセシルを見てリオは目を伏せて鼻で笑う。


「ふふ、まぁあの場面で来てくれなかったら私達はかなりやばかったでしょうね。でもあなた達は来てくれた。それも絶妙なタイミングで」


「だからそれは結果フェリクスが戻る事を選んだからで――」


「そう結果あなた達は戻って来てくれた。そしてそれは最高の結果を産んだ。それで良くない?」


 食い下がろうとするセシルをリオが笑顔で諭す。


「昔の偉人の言葉で『人生は選択の連続だ』ってあるの知ってる? 本当にその通りだと思うの。私は貴女に賭けて大尉と引き合わせたし、貴女は大尉と一緒にいる事を選んだ。これから先も選択を迫られるでしょうし、どれが正解かもわからない。今選んだ選択も含めてね。きっと今際いまわの際になった時にどれが正解だったかわかるんじゃない? だからその時に後悔したくないから今選んだ選択が正解になる様に全力を尽くせばいいんじゃない?」


 そう言って穏やかな笑みを見せるリオに対してセシルは目を丸くさせ、キョトンとした表情を見せる。


「……リオさんが偉人の言葉を出してくるとは意外でした」


「……えっ? 何? 私の事馬鹿にしてるのかな?」


 少し間を空け、首を傾げながら笑顔で問い掛けるリオにセシルが苦笑いを浮かべて慌てて否定する。ようやく二人の間に笑い声が響く。




 その頃フェリクスは国王をまじえた本部で今後について議論を重ねていた。


「ですからこの包囲網を破る為、一個大隊千人程を私に預けて下さい」


 将校達を前にフェリクスが熱く訴えるが皆眉根を寄せ、難しい表情のまま押し黙り、首を縦に振る者などいなかった。


「フェリクス特務大尉は簡単に兵士千人貸せと言ってくるが今は国中が戦火に包まれている。残念ながらフェリクス特務大尉に託せる兵士など何処にも余ってはいないのだ」


 一人の年老いた将校が嫌味を含めながら見下したかのような表情を浮かべていた。


「先程チラッと見ましたがこの王都にはまだ十分に戦える兵が数万はいるように思いましたが?」


 フェリクスは苛立ちを押し殺しながら鋭い視線を将校達に向ける。少し気圧された将校達だったがすぐに異議を唱える。


「ここは王都だぞ! 王を護る為、国を護る為に兵士を備えておかねばなるまい。ここが堕ちれば終わるのだぞ!」


「それでここで手をこまねいて攻め込まれるのを待つおつもりで? 相手は世界連合数十万。しかも相当な使い手達も投入してきているようですよ。そんな奴らが一気に攻めて来て今の戦力で凌げるとでも?」


 語気を荒らげる将校に対してフェリクスは冷静に問いただす。言葉を詰まらせた将校は歯を食いしばりフェリクスを睨んでいた。

 そんな中ここまで沈黙していた国王がゆっくりと口を開く。


「まぁ確かにここで議論を重ねているこの時も、敵は侵攻してきている訳だから時間はない。フェリクス特務大尉、そこまで言うなら策はあるのか? 自信は?」


「策と言う程の事ではないんですが、相手の侵攻を止めて包囲網を崩す自信はありますよ」


 国王の問い掛けにフェリクスが自信ありげな表情を見せる。


「ほほう、策はないが自信はあるとはどういう事だ?」


「簡単に言いますと復活した自分とセシル・ローリエがいるという事ですよ」


 自信たっぷりに言ってのけるフェリクスだったが、その場にいた者達は呆気に取られて言葉を失った。

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