第124話 動き出した運命⑯
同じ頃。ルカニードとセントラルボーデンの前線から少し離れた場所に陣取る
「ほほう、ならばセシルとフェリクスを貴様らが討ったと言うのだな?」
「はい。セシル少尉が敵であるフェリクス・シーガーと密会していたのでセシル少尉の裏切り行為と判断し我々が始末しました」
椅子に深く腰掛けアンドレの報告を受けると、アイリーンは少し考え込んだ。
「それで、二人の死に様はどうだった? 最後まで足掻いたか?」
「いやそれが最期は呆気ない物で、最期は二人して滝つぼに身を投げて終了でした」
アンドレが得意げに身振り手振りを加えて説明するが、アイリーンの表情は曇り、どんどん険しさを増して行く。
「貴様、それでは二人の死体は確認してないのか?」
「あ、いや、まぁその、あの高さから落ちたらまず助かりませんし、何より滝つぼに落ちたのをどうやって確認すればいいのか――」
「貴様はそんな中途半端な報告を私にするのか!? 奴らが滝つぼに落ちたのなら貴様らも滝つぼに降りて二人の死体を確認すればよかろう!! 二人の死体を確認するまで二度と私に中途半端な報告を上げるな! 下がれ馬鹿共!!」
烈火の如く怒るアイリーンに気圧され、アンドレ達は逃げる様に部屋を出て行った。怒りのままに叫んだアイリーンは少し荒れた呼吸を整えると、思慮深く考え込む。
『あの馬鹿共は詰めが甘い。セシルに付けた監視もいまだ戻らぬ。下手すればあの二人は何処かで生き延びている可能性もあるな……しかしセシルも結局男を選んだか……惜しい才能だったが、若さ故の過ちか』
アイリーンが一人で考え込んでいると、兵士が一人慌てて部屋に入って来た。
「アイリーン大佐、通信が入っています」
「騒がしいな。私は今静かに考え事をしているんだが」
アイリーンが不機嫌そうに兵士を窘めると、兵士はたじろぎ、膝を着いてひれ伏した。
「も、申し訳ありません。ただルーシェル元帥から緊急の通信が入っておりまして」
「ルーシェル元帥から? 馬鹿者、早くそれを言え。回線を直ぐにこちらに回せ」
アイリーンの指示に兵士は頷き、直ぐに回線を繋いだ。アイリーンの前にあるモニターには眉根を寄せて難しい顔をしたルーシェル元帥が映し出された。
「お待たせ致しました、元帥」
「うむ」
アイリーンが軽く会釈をするが、ルーシェル元帥は表情を崩す事なく短い言葉で返す。
直接自ら通信してくるとは一体如何程の要件なのか? アイリーンが少し困惑しているとルーシェル元帥が口を開く。
「アイリーン大佐。ルカニード攻略の進捗具合はどうなっている? どれぐらいの時間を要しそうだ?」
「はい、現在は国境付近から一段階入った所までは侵攻しております。そろそろ次のステージに進んで、もう少し奥まで前線を押し上げようかと思っております。順調に行けば一ヶ月後にはルカニードの王都に迫れるかと」
報告を聞いたルーシェル元帥は頷き、目を閉じると少し押し黙る。数秒間の沈黙の後、ルーシェル元帥が目を見開き鋭い眼光を向けた。
「なるほど……戦力を更に投入しても構わん。あと一週間で王都まで迫るのだ」
「い、一週間ですか? かなりの侵攻速度で進まなければならないので相当な戦力を投入しなければいけなくなります。それにスケジュールをかなり見直さなくてはならなくなりますが?」
「増援は送る。貴様以下のナンバーズを使っても構わん、ルカニードを必ず堕とせ」
「はっ必ず!!」
アイリーンが力強く敬礼をすると、画面の向こうのルーシェル元帥も敬礼をし、通信は途切れた。
『何をそんなに急ぐ? ナンバーズの使用許可も出ているという事は長老達の意思なのか?』
通信の切れた静かな部屋でアイリーンが顎に手を当てながら一人思慮を巡らせる。
「ふっ、私があれこれ考える事でもないか。面白い、与えられた使命に全力で挑もうではないか」
立ち上がったアイリーンは不敵に笑うと威風堂々、しっかりとした足取りで部屋を後にした。
――
同時刻。リオは捜索隊を率いてシヴァの大滝でフェリクス達の捜索を続けていた。
「これだけ探して手掛かり一つ見つからないなんて……何処行ってんのよ?」
リオが滝つぼを重点的に
「お前の
共に探していた男がリオに軽い口調で問い掛けていた。それを聞き、傍らに立つリオが眉根を寄せて不快感を露わにする。
「
「そんな言い方しなくてもいいだろ。大佐が見つからないからって苛立つのもわかるけどよ」
「大尉よ。迂闊に間違わないで」
鋭い視線を送り、リオが強い口調で相手を窘めると、言われた相手は肩をすくめて口を噤んだ。
男の名はライデル・ランプ。かつてザクスの下でリオと共にラフィン戦争を戦い抜いた男だ。
リオはセントラルボーデンが侵攻して来た時点でフェリクスと共に無事ルカニードを脱出出来るようにライデルをルカニードへ潜入させていた。ライデルの助けを得て国外へ脱出すれば、後はヴェルザードの協力でなんとかなる手筈だったのだ。しかし自分と合流する前にフェリクスは行方不明となり、結局は全て水の泡となってしまった。今は脱出の為に協力を仰いだライデルにボランティアとしてフェリクス捜索に協力してもらっているのだ。
「あの二人が簡単にくたばるとは思えない。人の気も知らないで何処かでいい事してんじゃないでしょうね」
リオが恨めしそうに空を見上げて一人呟く。
――
離れたコーネルの街にあるホテルの一室でフェリクスとセシルが二人ベッドで横になっていた。
「本当にいいのフェリクス?」
「ああ、セシルが傍にいてくれるなら大丈夫な気がするんだ。セシルも本当にいいんだよな?」
「そっか。大丈夫、私はもう貴方の傍を離れたりしないから」
それぞれの想いを抱きながら、それぞれが歩き出す。
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