第122話 動き出した運命⑭

「さて何処から話すかな。少し長くなるかもしれないから軽く飲みながら話すか」


 そう言ってフェリクスは冷やしてあった缶ビールを取り出し顔の前に持ってきた。


「ふふ、良いわね。用意いいじゃん、何処から持ってきたの?」


「昼間、受け付けのログハウスに行った時に持って来て冷やしておいたんだ。一応お金は置いてきたぞ」


「ははは、真面目ね。まぁその方が気兼ねなくいただけるけどさ」


 セシルも缶ビールを受け取ると笑ってタブを起こし缶ビールを開ける。二人共笑って缶を合わせた。「乾杯」二人はそのままビールを一口飲むと一息つく。


 それからフェリクスは淡々と話し出した。ラフィン共和国で何故軍に入ったか。軍に入り何をしていたか。その後バトルスーツの改良に勤しみ、部隊を率いるまでになった経緯や黒い死神と呼ばれる様になった経緯など。そしてクリスやリオと出会い、様々な事を乗り越えながらクリスと愛し合った事も。

 その辺の話になるとセシルも流石に渋い顔を見せる事もあったが静かに話を聞いていた。


「――戦争が終わり全てがこれからだと思った瞬間、目の前でクリスは銃弾を受け、胸から血を流し倒れたんだ」


 そしてクリスを眼前で失い絶望した事をフェリクスが話し出した。話していてフェリクスは当時を思い出したのか、時折声を詰まらせていた。少し話が一段落した所でセシルが立ち上がりフェリクスに優しく語り掛ける。


「ねぇ、大丈夫?」


「ああ、大丈夫だよ、ありがとう」


「ねぇ、この椅子固くてお尻痛くなるからベッドに腰掛けてもいい?」


「ああ確かに固いな」


 フェリクスが苦笑いを浮かべると、セシルはゆっくりとベッドの方へと歩いて行きベッドに腰掛ける。


「フェリクスもこっち来たら?」


 セシルにそう言われフェリクスもゆっくりとベッドの前に立つとセシルの横に腰掛けた。


「ねぇ、クリスさんの事まだ忘れられないんだね。まぁそんな終わり方じゃ無理ないとは思うけど……だけど今貴方の目の前にいるのは私だからね」


 セシルはそう言ってフェリクスの顔を両手で掴むと自分の方へと向けた。


「私ね、貴方の事がやっぱり好きなの。今一緒にいててそう思った。貴方の気持ちはフェリクス?」


「俺も勿論セシルが好きだ。だから話も全部聞いてほしかったんだ。もし話してから嫌われたら仕方ないかなと。悲しいけど」


 少しおどけて笑うとセシルも笑った。そしてフェリクスの首に腕を回すと唇を重ねる。少し長めのキスを交わすとセシルが上目遣いで見つめていた。


「私なんでいつまでも下着姿にタオル巻いたままだと思う? どうせこの後脱ぐのにわざわざ服着る必要ないでしょ?」


 明るく微笑むセシルをフェリクスはゆっくりとベッドに倒した。


「俺の話まだ続きはあるけど、とりあえずこの後でもいいかな?」


「うん、この後でいいんじゃない。私もそうしたいから」


 笑顔で頷くセシルに優しくキスをするとお互いを確かめ合う様にそのまま二人は身体を重ねる。




 一時間程が経ち上体を起こしたままフェリクスが窓の外を見つめていた。セシルはフェリクスの腰に巻き付く様に腕を回して横になっている。


「どうしたの? 外に何かある?」


「いや、皆今頃必死に俺達の事探してるんじゃないかと思うとここでこうしてていいのかなって」


「はは、なるほどね……ねぇそろそろ話の続き聞かせてくれない?」


「ああそうだな」


 それからフェリクスは再び話しだした。目の前でクリスを失った怒りから我を失いその場にいたセントラルボーデンの兵を全滅させた事。その事により極刑になりかけていた事。そしてその状況からルカニードの国王が助け出してくれた事。


「それから俺はフェリクス・シーガーとして生きる事になった。それでも初めの半年程は俺は廃人の様だった筈だ。よく皆支えてくれたと思うよ」


 廃人の様に半年程過ごしたがなんとか周りに応えようと少しづつ前に進もうと努力した。

 遠く離れた地で自分の復帰を心待ちにしてくれているかつての部下達の為にも、ずっと支援してくれているルカニードの人達の為にも、そしてずっと自分を支えてくれたリオの為にも、自分は前に進まなくてはならない。

 そう思い何とか進もうとしていたが、どんなに進もうとしても心と身体は言う事を聞いてはくれなかった。


「この前の戦いで俺の動きを見てどう思った?」


「正直言うと遅過ぎてびっくりしたかな。噂通りならもっと速いと思ってたから」


「そうなんだ。あの日以来……あの最終決戦以来、動くどころかバトルスーツすら着れなくなったんだ」


 自虐的に笑ってはいたがセシルはフェリクスからは少しもの哀しげな雰囲気を感じていた。


「今じゃバトルスーツを着ただけで当時の事を思い出して体が膠着して最悪嘔吐までしちまう。情けないよ」


 そう言って遠くを見つめるフェリクスの頭をセシルが優しく両手で包み、自分の胸元へと抱きかかえると、フェリクスもセシルの方へと身を寄せた。


「大丈夫よ、バトルスーツなんかなくても。私もほぼ着た事ないんだから」


「はは、まぁセシルはウィザードだしな。俺はソルジャーとしてはもう終わってるのかもな。この前の戦いでも、もっと動ける筈なのに体が言う事を聞かないんだ。ああして、こうして、と思っても全く動けなかった。膠着しそうな体を無理矢理動かしてたんだ……皆こんなポンコツに何を期待してるんだよ」


 ため息混じりに自虐的に語るフェリクスをセシルが突然ベッドに押し倒した。


「セシル?」


「ねぇ、もう無理しなくてもいいよ。貴方と私が今ここにいる事は誰も知らない。このまま戦争の混乱に乗じて姿を消せばきっと二人共、戦時行方不明者として処理される。そうすれば二人で生きて行ける」


 セシルがフェリクスの頭を撫でながら、優しい瞳で語り掛けていた。


「何を馬鹿な事を言ってるんだ? そんな事すれば――」


「馬鹿な事じゃないって。ザクス・グルーバーは死んだ。なんならフェリクス・シーガーも。これからは貴方が好きに生きていいから。私がずっと傍にいてあげる。だからもうザクスの呪いから解放されて、お願い」


 そう言ってセシルは上から覆い被さると目を瞑り唇を重ねる。暫くしてフェリクスが目を開けるとセシルが少し悪戯っぽい笑顔を浮かべてこちらを見つめていた。微笑みながらセシルが手を握る。


「セシル……」


「ね、貴方がさっき私にしてくれたみたいに、今度は私が貴方に優しくしてあげる」


「え、ちょっとセシル」


「何よ、夜はまだ長いんだからね」


 こうして二人っきりの夜は更けていった。

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