第121話 動き出した運命⑬

 フェリクスとセシルが行方不明になった次の日、フェリクスはロッジの椅子でようやく目を覚ます。


「……ふぅ、座ったまま寝ちまったか。セシルは?」

 

 直ぐにベッドの方に目をやると寝息を立ててセシルはまだ眠っていた。フェリクスは少し安心した様にため息をつくと徐に立ち上がり窓の外を確認する。明るくなり外には他にもロッジがいくつも点在しているのがわかった。窓を開けると爽やかな風が入ってくる。

『静かなもんだな』そんな事を考えながら再びセシルに目をやる。疲れてるだろうから流石に起こす訳にはいかない。少しはゆっくりさせてやりたい。そんな想いから乾かしていた服を着るとメモだけを残してロッジを後にした。


 ロッジを出ると受け付けを兼ねていたログハウスに入って行く。現在、自分のタブレットは戦闘等の度重なる衝撃により画面には亀裂が入り電源すら入らず使い物にはならない。セシルはタブレット等の通信機器は持っていなかった。その為、外とは連絡がとれず情報さえ入手する手立てがなかったのだ。だからログハウスに何かせめて電話でもあればと思い来てみたのだが何処を見ても何もなく、寧ろ受け付けにあったキャンプ場の案内を見て頭を抱えた。


『ようこそ大自然のキャンプ場へ。このキャンプ場では電話も繋がらずタブレット等の通信回線も繋がりません。普段様々な物に追われる皆様も、全てから解放されて大自然を満喫してください』


「なんとまぁご丁寧に。せめて緊急用の回線ぐらい用意しとけよ」


 ひとまずログハウスにあった缶詰めやレトルト食品を手にし再びロッジへと戻って行った。ロッジに帰って来るとベッドのセシルを見つめる。いまだ静かに眠るセシルを確認すると再び椅子に腰掛け、持って帰ってきた缶詰めを一つ開けた。缶詰めの肉を口に放り込みながら外を見つめる。


「まぁ不味くはないけどなぁ……大昔にタイムスリップした気分だな。いっその事狩猟生活でもしてみるか」


 一人呟き自嘲気味に笑うとロッジ内にフェリクスの声だけが虚しく響き渡った。結局その後、特に何もしないまま時間だけが過ぎて行き、何時しか陽は沈み辺りは再び暗くなっていた。


「駄目だ。いくらなんでもする事が無さ過ぎる」


 タブレット端末も無く、読む本等も無い。セシルはいまだ眠り続けフェリクスの独り言も増えていった。あまつさえ煙草も無く、あまりにもの手持ち無沙汰にフェリクスは限界を感じていた。


 ベッドで眠るセシルをフェリクスが見つめる。

 明日になっても目覚めなければどうしたらいい? 流石に起こすべきか? しかし激しい戦闘の後、兵士が二、三日眠り続ける事はある事だ。もう少し様子を見るべきか。だがそうなるとセシルを置いたままあまりここを離れる訳にもいかないし暫く身動きが取れないぞ。恐らく今頃リオが必死になって俺達を探している筈だ。何とかしてリオだけにも連絡を取らなくては。


 フェリクスが椅子に腰掛け、今後についてあれこれと熟慮していた時、ベッドにいたセシルが声を上げた。


「……う~ん、えっ? 何? 何処よ?」


 突然目覚めたセシルは起き上がると状況が分からずにキョロキョロと周りを見渡していた。


「セシル、良かった起きたか」


 フェリクスが安心し喜んで声を掛けるとセシルと目が合い、一瞬間を置いてセシルの顔が綻んだ。


「フェリクス……良かった無事だったんだ。えっ? ちょっと!」


 セシルが起き上がりベッドから出ようとした時、自分が下着姿である事に気付き慌ててベッドに戻りシーツにくるまった。


「おい、勘違いするなよ。俺はただ――」


「酷い! 意識無いからって無理矢理こんな風に」


 慌てるフェリクスに対してセシルが少し笑いながら叫んだ。しかしその表情は怒っている様ではなく、寧ろ笑って楽しんでいる様だった。


「セシル、分かってて言ってるだろ? 濡れてる服乾かす為に仕方なくだったんだ」


「ふふ、何よ仕方なくって。嫌々だった訳? 胸も大きくない貧祖な身体には興味無いって訳?」


「いやそんな事言ってないだろ。それに全然貧祖な身体じゃないだろ」


「なんだやっぱりちゃんと見てんじゃん。えっち」


 必死で取り繕うフェリクスをセシルはからかう様に笑っていた。思わずフェリクスからも笑みがこぼれる。


「分かったよ。確かに見ました。認めるよ」


「まぁフェリクスだからいいけどさ。ちょっとそこのタオル取ってよ」


 セシルは笑いながらフェリクスの横に置いてある大きなタオルを指さす。フェリクスも言われた通りタオルを取るとセシルに渡した。セシルは受け取ると立ち上がり大きなタオルを身体に巻きだした。


「どうした?」


「御手洗よ。下着姿で堂々と目の前歩き回る程まだ親しくないでしょ」


 セシルが悪戯っぽく笑うとフェリクスも照れたように笑った。

 フェリクスがセシルにトイレの場所を教えるとセシルは部屋を後にした。フェリクスはその間にレトルトのスープを温める。セシルが戻って来ると二人スープを飲みながら今の状況を整理する様に話し合った。


「そっかフェリクスのタブレットも壊れちゃったか。私のは車に置いてきちゃったし。ひとまず情報を手に入れる為にも安いタブレットを手に入れなきゃね」


「ああ、その為にも明日は歩いて街の方に出なきゃ」


「まぁ確かにそうだね……ねぇ私に話したい事あるんだよね?」


 突然こちらを覗き込む様にセシルが笑顔で尋ねる。一瞬戸惑ったがフェリクスも直ぐに頷いた。


「ああ、そうなんだ。聞いてくれるかい?」


「私、その為に必死になって来たんだから当然でしょ」


 フェリクスが少し真剣な眼差しで問い掛けるとセシルが満面の笑みで答えた。

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