第120話 動き出した運命⑫
少し時間は遡る。
セシルに車を譲り、見送ったリオはセシルを監視していた男達と交戦になっていた。
「はぁ、はぁ、ふぅ……」
全身を血に染めリオが息を整えて僅かに笑みを見せるが、その笑みは何時もの人を食った様な笑みとはまた微妙に違った。
「ははは、なんだてめぇはさっきから」
セシルを監視していた男が片方の眉を釣り上げて困惑した様に笑っている。
「いや、なぁに滑稽だなと思ってさ。あれだけ自信たっぷりなセリフ吐いといてそのざまじゃあねぇ」
他の男達の死体を前に返り血を浴びたリオが佇み不気味な笑みを浮かべると、最後に残った男が膝を着きながら叫ぶ。
「てめぇが反則過ぎるんだよ!
「女に向かって化け物は失礼だろ? だが優しいリオちゃんはそんなてめぇにチャンスをあげよう。突然のルカニード侵攻に、過剰戦力の投入、てめぇら世界連合は何を焦ってやがる? 答えな、アタシの満足行く答えが聞けりゃあんたはめでたく釈放だ。見逃してやるよ」
リオが不敵な笑みを浮かべたまま、ゆっくりと男に近付くと、男は僅かに引きつった顔を見せた。
「し、知らねぇよ。俺はあの女の監視を命じられただけだ。俺達みたいな下っ端が知る訳ねぇだろ。それよりも今俺を見逃してくれりゃ安全にこの国から出られるルートを――」
そこまで話すと男の首から血飛沫が舞った。一瞬何が起こったか、男は分からなかったが先程まで目の前にいたリオの姿が消え、自らの後ろに剣を振り抜いたリオが立っている事に気付いた時、男はようやく自らの身に何が起こったのかを理解した。
首から噴水の様に噴き出す血を止めようと、男は首を抑えるが勿論そんな事で噴き出す血を止める事なぞ出来る訳もなく、自らの血の海に前のめりになって倒れた。
「聞かれた事以外喋るなよ。約立たず」
返り血を全身に浴びてリオが笑う。
数時間後、ゴーストタウンと化した街のホテルの一室でリオはシャワーを浴びていた。
「はぁ、またやっちまった」
シャワーを浴び終え、椅子に腰掛け頭を抱えてリオがため息をつく。
リオは野盗時代、
「貴女、ちょっと調子乗り過ぎじゃない?」
「なんだてめぇ? めんどくせぇな、軍人かよ」
その時に野盗討伐任務を負っていたクリスと出会い、紆余曲折を経てクリスと行動を共にする事になる。戦闘になるとスイッチが入ったかの様にサディスティックな戦い方をするリオを心配したクリスがリオを指導し、
「貴女にも真っ当な幸せを感じてほしいから」――
「姉さん、私は幸せ感じれますかね?」
リオが空を見上げながら一人呟く。
その後リオは街で車を手に入れると、再びアクセルを踏み込み西に向かって車を走らせる。
「はぁ、服も早く着替えたいな……まぁ自分のせいだけど」
日も落ち、真っ暗になった街にようやくリオは辿り着いた。まだ戦火はここまで来てはいないがそれでも人々は避難を始めており人の気配も
『この時間になっても連絡は無し……あの時、セシルの後を別働隊の二人が追ったのは分かったけど……それほどの使い手だった? だとしたら私の判断ミス』
僅かな胸騒ぎを感じ、まずフェリクスの自宅を訪ねる。だが誰もおらず、リオは次にユウナに指示した研究ラボを目指す事にする。
明かりの消えた真っ暗なラボに着いたリオはゆっくりと扉を開ける。微かに感じる人の気配にリオが呼び掛ける。
「ユウナ! 出てきて! いるんでしょ!?」
リオの声に反応する様に明かりが点くとユウナが飛び出した。
「リオさん! 遅いですよ、待ちくたびれました。えっ!? リオさん血だらけじゃないですか!? 大丈夫なんですか?」
笑顔で飛び出して来たユウナはリオの服を見て驚きの表情を見せていた。
「あっいや、これは私の血じゃなくて、その、血だらけの人の救助とかしてたから血が付いちゃったのよ」
「そんな……そんなに血が付くぐらい出血したらその人助からなかったんじゃないですか?」
「ああ、うんそうかもね。それよりもやっぱりここにもいないか。まさかまだ滝でいちゃついてる訳? ユウナ直ぐに出るわよ」
返り血を適当に誤魔化した後、リオはユウナを連れ研究ラボを後にすると一直線に大滝を目指す。リオがアクセルを踏み込み車は一気に加速して行く。
「リ、リオさん、飛ばし過ぎじゃないですか? 夜道ですよ」
「ユウナ捕まっててね。まだ飛ばすから」
フルアクセルで飛ばしたリオは大滝に着くとフェリクスの車とセシルに貸した車が停まってあるのを直ぐに見つけた。自らの車も停めて直ぐに中を確認するが中には勿論誰もおらず僅かな荷物だけが残されていただけだった。
「車が二台共ここにあるって事は移動してない? いい? 手分けして大尉とセシルを探すわよ」
リオ達が慌てて走り出すと、直ぐにユウナから声を掛けられる。
「リオさん、こっち。ここで戦闘があった様な痕跡が」
慌ててリオが駆け寄るとそこにはへし折られた木々等が散乱していた。セシルの
「何があったのよ? 痴話喧嘩にしちゃちょっとやり過ぎじゃない?」
何時もの様に軽口を叩いて見せるが、その顔は引きつり焦りの色を隠せないでいた。リオは直ぐに軍用の通信機器を取り出すと直ぐに繋ぐ。
「こちらリオ・フレジャー。直ぐにシヴァの大滝へ捜索隊を回して下さい……ええわかってます。ですがこちらも一大事なんです……はい、一部隊でも構いません、お願いします」
リオは通信を切るとそっと夜空を見上げた。
その後捜索隊も到着し必死に捜索したがフェリクスとセシルを発見するには至らなかった。
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