第117話 動き出した運命⑨
フェリクスとの電話を切ったリオはその日、幾つかある戦闘の前線近くの街に行っては
「ふぅ、私の
遠くの空で銃声が響く中、リオが軽く文句を言いながら再び車に乗り込んだ。
『もう少し奥まで踏み込まないと戦場全体は見渡せないかな』
そんな事を考えながらハンドルを握っていた時、上空を舞う一人の兵士の存在に気が付いた。
「ちょっと待ってよ。空を飛ぶのは無しでしょ」
リオが見上げながら呆れる様に呟く。そこには赤い軍服に身を包み、自らに風の魔法を使う事で正に空を舞う様に駆け巡っていたセシルがいた。
リオは車のホーンを鳴らしながらセシルを追うとセシルも気付き地上に降り立つ。
リオはセシルの前に車を停めると笑みを浮かべながら車から降りる。
「久し振りね。まさか空まで飛べるとは思わなかったけど」
「……リオさん。お久し振りです。こんな形で再会するとは思ってなかったんですけどね」
笑みを見せながら軽口を叩くリオとは裏腹にセシルは神妙な面持ちで頭を下げた。
「色々黙ってて悪かったとは思うけどまさかこんなに大勢引き連れて乗り込んで来るなんて思わなかったわ。そんなに怒んないでよ」
「ははは、相変わらずですね。まぁ初めは怒ってたけど今は怒ってないですよ。こんな時に何なんですが、フェリクスに会いたいんですけど何処にいるか知りませんか?」
「ああ、彼ね……貴女がドタキャンするから凹んで塞ぎ込んじゃってるのよねぇ」
「……リオさん、時間があんまりないんでふざけてると本気で怒りますよ」
笑ってはぐらかすリオにセシルが語気を強めて迫る。
リオも笑ってはぐらかしてはいたが実際は頭の中で思考を巡らせていた。果たしてフェリクスとセシルを本当に引き合わせてもいいのか? フェリクスと会ってセシルは何をするつもりなのか? もしセシルが暗殺の任務を負っていたら?
ここが恐らく
「……リオさん……?」
笑みを浮かべたまま微動だにしないリオを不思議に思ったセシルが一歩近付く。
「セシル、貴女が大尉の事何処まで知ったのかは分からないけどこれ以上踏み込めば後には引けなくなるわよ。最悪私は貴女を――」
「ふふふ、人に紹介しといて次は会うなですか? フェリクスの秘密は知ったつもりです。その上で会って話がしたいんです」
笑みが消え、真剣な表情になったリオとは反対に次はセシルが笑みを浮かべながら語り掛ける。しかし笑って柔和な表情を見せるセシルだったが、その眼差しは強くしっかりとした物だった。
「……いいわ、教えてあげる。大尉は滝にいるわ。貴女一緒に行ったでしょ?」
「滝……あの初めて会った時に行った大滝ね。ありがとうリオさん」
「ちょっと待って」
満面の笑みを見せた後、その場を去ろうとするセシルをリオが制する。
「貴女まだ魔力が回復してないんでしょ? こんな所から風の魔法使って大滝まで行ってたら途中でバテるわよ。ほら
そう言ってリオは車の鍵をポケットから取り出しセシルに示した。
「あ、ありがとうございます。え、でもリオさんはここからどうするんですか?」
「私はどうにでもなるわよ。それと私の身分証も貸しといてあげる。貴女のその赤い軍服目立つからもしルカニードの兵士に止めらたらそれを示して『コードレッド402の作戦行動中』って言えば大抵の場合見逃してくれるはずだから」
セシルはリオから車の鍵と身分証を受け取ると改めて深く一礼をする。
「何から何までありがとうございます。あの、私が言う事じゃないかもしれないけど気を付けて下さいね」
「ふふ、攻めて来てる側の兵士が言う事じゃないわね。まぁありがとう、貴女も気を付けてね。じゃあ私は他にする事あるから片付いたら連絡するって大尉に伝えといてくれる?」
「はい、わかりました」
セシルは頭に手を添えて、軽く敬礼した後車を発信させた。遠ざかって行く車を見つめながらリオが微笑む。
「貴女に賭けるわセシル・ローリエ……さてと、それで貴方達はセシルのストーカーか何か?」
リオが微笑んだまま振り返ると、後ろの物陰から数人の男達が姿を現す。
「へっ、気付いてやがったか。気付かないフリしてりゃ見逃してやったのに」
「人の恋路を邪魔する奴にろくな奴はいないってね。冷静ならセシルも気付いたかもしれないけど、ちょっと焦ってたのかしら? まぁ私の
「確かに貴重な能力かもしれないが、
男はそう言うと右手に炎を灯し、後ろに控える男達も剣や銃を手にし臨戦態勢を取る。笑みさえ浮かべながらじりじりとにじり寄る男達を前にリオは覚悟を決めた様に男達と正面から対峙する。
「簡単に行けると思ってんの? 身の程知れよ三下」
何時もの笑ってる様な細い目を見開き鋭い視線を飛ばすと僅かに口角を上げて微かに不敵な笑みを見せた。
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