第106話 N.G397年 最終決戦ケセラン・ハルト⑦

 後方に位置していたヴェルザード達から離れた位置でザクスとクリスはモーリスとの激戦を繰り広げていた。

 距離を詰めたいザクスとクリスだったが近付けば静かなる領域アイスフィールドを展開される為、迂闊に近付く事さえ出来ずにいた。


「どうしたザクス・グルーバー。さっきからちょこまかと逃げ回るばかりだな」


 余裕さえうかがえる笑みを浮かべてモーリスが挑発する。そんな挑発めいた言葉を受け、ザクスが一気に距離を詰めに動く。


「だったらそろそろ決めさせてもらおうか」


 距離を詰めたザクスがハンドガンを手に持ち乱れ撃つ。しかしモーリスも右手を振るい素早く地中より氷の壁を立ち上げザクスの弾丸を弾くと、直後に後ろに回り込んだクリスが銃撃する。だがこれもモーリスは右手を振って氷の壁を出現させて防いでいた。


「この程度か? ザクス・グルーバー」


 モーリスが右手を掲げ、振り下ろすと氷の弾丸がザクス達に向かって放たれる。襲い来る氷の弾丸を躱しながら銃撃して撃ち落としていると再びモーリスとの距離は離れていた。


「……やっぱりその右手だよな? 詠唱を唱えずに魔法を使おうとするとその右手がキーになるみたいだな」


 終始冷静に戦いながらモーリスの動きを見極めていたザクスが笑みを浮かべて問い掛ける。


「ふん、それがどうした? それがわかった所で貴様らにはどうしようもあるまい」


 余裕の笑みを浮かべてモーリスが右手を突き出し構えると、掌の前に数十個の氷の弾丸を作り出す。それを見たザクスが僅かに笑った。


「クリス、頼んだ」

「簡単に言わないでよね」


 再びモーリスの背後に回ったクリスが引き金を引くと、モーリスも反転し氷の弾丸で応戦する。空中で弾丸同士がぶつかり合い氷の欠片を飛ばしながら甲高い衝撃音が辺りに響き渡る。

 互いが放った弾丸が相手に届く事なく地面に落ちていく。そんな中、静かなザクスを不思議に思ったモーリスがザクスの方に目をやると、ザクスは片腕を前に突き出し詠唱を唱えていた。


『――天空より舞い降りて、敵を討て光天烈弾シャインバレッツ


 ザクスの前に幾つもの光の弾丸が現れると一気にモーリスに向かって放たれた。


「魔法だと!?」


 ソルジャーであるザクスが魔法を使うなどと考えもしてなかったモーリスは驚き、僅かに反応が遅れてしまう。慌てて右手を振り上げ静かなる領域アイスフィールドを展開させ、氷の壁も出現させたが、光の弾丸は氷の壁を打ち砕きモーリスを捉えた。

 幾重もの光の弾丸をその身に受け、吹き飛ばされたモーリスは地面を転がる。静かなる領域アイスフィールドと氷の壁のおかげで光天烈弾シャインバレッツの威力を半減さす事は出来たが、それでも生身で受けるにはあまりにも強烈な衝撃だった。


「ぐ……何故、ソルジャーの貴様が光魔法を……」


「今はソルジャーでも魔法を使える時代だぜ」


 被弾した箇所を押さえて、ふらつきながらもなんとか立ち上がるモーリスに対してザクスが一気に距離を詰めに行く。


「くっ、静かなるアイスフィ――」

「遅い!!」


 接近するザクスに対して静かなる領域アイスフィールドを展開しようと慌てて右腕を掲げたモーリスだったが、僅かに早くザクスの大剣がモーリスの右腕を捉えた。ザクスが大剣を横一閃振り切るとモーリスの右腕が宙を舞う。


「ぐあぁ……俺の腕が……」


 とめどなく出血する傷口を押さえながらモーリスがうめいてうずくまると、傍らで立つザクスが冷めた目で見つめていた。


「終わりだ……」


 ポツリと呟きザクスが大剣を振り上げた時、突然銃弾がザクスを襲う。


「ちっ」


 銃弾を躱し後ろに飛び退き銃撃された方向に目をやると銃を構えた数十名の兵達がいた。


「くそっ、援軍かよ。キリがないな」


 現れた援軍はモーリスを囲う様に集まるとザクスに向かって銃を構える。仕方ないとばかりにザクスも片手で大剣を握りながら銃を構える。少し離れた所ではクリスも銃を構えて佇んでいた。


 双方の間で緊張が高まって行く正にその時、突然戦場全体にサイレンが鳴り響くと同時に白い信号弾が空に上がった。


『白い信号弾……まさか、停戦!?』


 白い信号弾は条約により即時停戦が義務付けられている為、全員が空を見上げて困惑していると通信が入る。


「世界連合軍、ラフィン共和国軍、戦場にいる全ての者達に向けて発する。私はセントラルボーデン軍司令官、ルーシェル・ハイトマン将軍である。先程ラフィン共和国軍から停戦受け入れの一報が入った。これによりこの時刻をもって一切の戦闘行為を禁止する。世界連合軍、ラフィン共和国軍共に直ちに戦闘を中止せよ」


 通信を聞いた者達も様々な反応を見せる。武器を捨て涙し喜ぶ者。天を仰ぎ何かを祈る者。突然停戦を言い渡されどうすればいいのか困惑する者。


 そんな中、ザクスはバトルスーツの面部分を取り天を仰いだ。照りつける日差しに眩しさを感じ視線を落とすと、次はクリスの方へと笑顔を向ける。するとクリスも笑ってこちらを見つめていた。


 これでようやく戦いが終わる。これからはクリスと二人で平穏な毎日を過ごして行ける。戦いの無い平和な日々を――。


 ザクスがそんな事を考えていた時だった。一発の銃声が戦場に響いた。

 

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