第105話 N.G397年 最終決戦ケセラン・ハルト⑥

「ふっ、遊びが過ぎたな」


 アイリーンが微笑しその場を去ろうとした時、倒れていたイアン将軍が立ち上がる。


「何処へ行く?……お前の相手は儂だと言っておる」


 強気なセリフとは裏腹にイアン将軍の足元はおぼつかず立っているのもやっとというのは明らかであった。


「しつこい男だ。貴様の相手は飽きたのだ老兵」


 アイリーンはイアン将軍を睨むと掌をかざし電撃を放つ。しかしイアン将軍は電撃をその身に浴びながらも大剣を片手にアイリーンに向かって振りかざした。


「この程度の電撃で儂は止められぬ! 託された仲間達の想い、散っていった部下達の想い、その身に受けよ、アイリーン・テイラー!!」


 決死の形相でイアン将軍が大剣を振り下ろす。


『討てよ雷神、雷神槍スピアーボルト


 イアン将軍の斬撃が届く寸前、アイリーンの掌より放たれた雷神槍スピアーボルトがイアン将軍の身体を貫いた。雷神の槍を受けたイアン将軍はそのまま後方へ飛ばされてしまう。


 アイリーンが飛ばされたイアン将軍の元へゆっくりと歩いて行く。


「たいした執念だな。また起き上がってこられても面倒だ。しっかりとどめを刺してやろう」


 アイリーンは歩みを進めながら落ちていた剣を拾い、なんとか立ち上がろうとするイアン将軍の前に立ちはだかった。


「剣技なら儂の方が――」


 イアン将軍が立ち上がり必死に剣を振ろうとした次の瞬間、イアン将軍の腕が宙を舞った。剣を手にしたアイリーンがイアン将軍の腕を切り落としたのだ。


「そんなボロボロの身体でほざくな。だいたい立つ事すらやっとだろうが」


 そう言ってアイリーンは剣の切っ先をイアン将軍の眼前で止めてみせる。片腕を失ったがそれでも強気の姿勢を崩さないイアン将軍は笑ってみせた。


「ふふふ、最早ここまでか。だが儂がここで終わっても我らの想いは終わる事はない。貴様らセントラルボーデンが傲慢な態度でいる限り我々の遺志を継ぐ者達が再び貴様らに牙を剥くであろう。その時までせいぜい――」


「黙れ!」


 アイリーンが苛立つようにイアン将軍の残ったもう片方の腕も切り落とすと、最後はイアン将軍の腹に剣を突き刺す。


「ぐふっ」


「……両腕を失った貴様は剣を抜く事も出来まい。バトルスーツが絶縁処理されてようが、突き刺した剣から雷が流れ身体の内側から焼かれれば流石に耐えれんだろうな。消し炭となれ」


 アイリーンが見下したかのような視線をイアン将軍に向けた後、僅かに距離を取った。


『――神の怒りをその身に受けよ、聖天怒追撃グランサンダー


 巨大な雷がイアン将軍を襲い、その後真っ黒に焼け焦げた遺体がその場に倒れていた。


「ふん、遺志を継ぐ者が牙を剥くか……ならばその時は再びその牙を折ってくれるわ」


 アイリーンは冷笑を浮かべたまま静かにその場を去って行った。


――その頃、ライデルの脇を抱えて引きずるように彷徨いながらリオは歩みを進めていた。


「さっきから向こうで雷が落ちまくってるけど多分あれはアイリーン中佐の魔法かな? あんなもん喰らったら一溜りもない。もっと遠くに逃げないと」


 尚も歯を食いしばって進もうとするとようやくライデルが意識を取り戻した。


「……リオ、すまない。何処だここ? どうなった?」


「やっと起きたか。私、力には自信無いからそろそろ限界だったんだ」


 リオが安心したような表情を見せると一息はいてライデルの腕を離した。すると支えを失ったライデルはふらふらとした後、尻もちをつき座り込んだ。意識を取り戻したとはいえ蓄積されたダメージは大きく、本来の動きが出来る様には見えなかった。


「流石にダメージがデカいみたいだね。ひとまず身を隠して回復に努めようか。仕方ないからその間は私が護衛してあげるよ」


「ははは、リオに守ってもらうとはな、情けない。俺一人ならなんとかなる。お前だけでも移動基地ベースに戻るんだ」


「お心遣い有難いが、今まで護ってくれてた隊長を置いて行ける訳ないだろ。自慢出来る事じゃないけど昔は野盗として暴れ回ってたんだ。力は無いけどスピードには自信も有る。隊長一人ぐらい守りながら戦い抜くなんざ余裕だね」


 リオが力強い笑みを見せるとライデルは少し呆れたように笑った。結局二人は僅かな岩陰に身を潜めながら戦局を見つめる。

 リオが鷹の目ビジョンズで確認すると自分達の移動基地ベースも戦火に呑まれていた。不幸中の幸いだったのは敵主力の本隊からの攻撃は受けておらず分隊との戦闘だった為、いまだ堕とされる事なく戦い続けられていた事だ。


 そんな様子を確認したリオは慌てて移動基地ベースに通信を入れる。


「おい、エルザ! ヴェルザード少佐! 誰でもいいから応答してくれ!」


「こちらエルザ。リオ!? 無事だったの? 急に通信が途絶えたから皆心配してたんだから」


「ああ、ちょっとやばいのに絡まれてたからな。それよりもう他の箇所が突破されてケセラン・ハルトに既に敵は取り付いてるんだ。もうそんな所守っても仕方ない。早く退避行動を」


「こちらヴェルザード少佐だ。リオ無事で何よりだ。敵が既にケセラン・ハルトに取り付いているのも分かっている。だがだからと言って逃げ出す訳にもいかない。我々は与えられた指令を全うする」


「冗談じゃない! 正気かよ!? 私達の帰る場所が無くなっちまうじゃねぇか。いいから早く退避してくれって」


 リオとヴェルザードが不毛な押し問答を続けていた時、突然通信が入る。


「……こちらザクスだ。こちらも今戦闘中だし手短に伝える。戦局ももう終盤、この戦いも恐らくもう終わりを迎えるだろう。俺から最後の命令だ、生きる為に最善の行動を取ってくれ。死ぬなよ、生き残ってくれ。以上だ」


「大佐! 今どちらに!?」


 突然入ったザクスの通信にヴェルザードが前のめりになって呼び掛けたが既に通信は切れ返答は帰って来なかった。


「リオ、大佐の位置は確認出来るか?」


「ちょっと待って、今探してる……いた! 敵部隊の深い所。大佐と姉さんだけだいぶ離されてる。大佐と姉さん二人がかりでやってるのに倒せないとは、相手は相当なやり手だと思う」


「……了解した。我々は大佐の命に従い退避行動に移る。絶対に死ぬ訳にはいかない。リオ、大佐のサポートに向かえるか?」


「私が散々言っても聞かなかったくせに……私も大佐と姉さんの元に駆け付けたいけどライデル隊長が動けないんだ。誰か増援を送ってくれないと私は動けないよ」


 リオが小声で文句を言った後、心配そうにライデルに視線を送った。しかしそんなやり取りを見ていたライデルは力強い笑みを見せる。


「行けリオ、俺は大丈夫だ」


 そんなライデルの言葉に驚いたような表情を見せたリオだったが一瞬目を伏せ、心を落ちつかせると大きく息をついた。


「ライデル隊長すまない。ヴェルザード少佐、隊長の所に誰かやってくれよ。皆また後で会えるの楽しみにしてるからな」


 そう言ってリオは力強く駆け出して行った。

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