第104話 N.G397年 最終決戦ケセラン・ハルト⑤

 完全に死角から銃声より先に届く弾丸にアイリーンは気付くはずもなかった。しかし弾丸がアイリーンに届く寸前アイリーンの周りに再び雷が巻き起こった。


 バチッ!


 僅かな電気の光と少し甲高い音を残して狙撃した弾丸は弾かれ消えていく。


「ふふふ、なるほど貴様の鷹の目ビジョンズを使ったスナイパーによる超長距離射撃か。面白い使い方をするな。狙いは悪くなかったがこんな最前線で結界も張らずに突っ立ってる程私も阿呆ではない。しかし鷹の目ビジョンズは貴重な能力だ。一応聞くが私の下につかないか? 無駄に死にたくはないだろう?」


「ははは、中々魅力的なお話だな。確かに死なたくはない……だけど自由気ままに生きるのが私のモットーでね、あんたを倒して生き残らせてもらおうかな」


「はっはっは、やってみせろ」


 リオが笑いながら中指を立てて啖呵を切ると、アイリーンも笑って応戦していた。リオと対峙し高笑いするアイリーンの背後から不意をつきライデルが大剣を振るい一気に斬り掛かる。

 しかしこれもアイリーンの結界によって阻まれてしまう。大剣と共に全身に電撃を喰らうライデルだったがなんとか意識を保ち続けていた。


「くっ……なんとか足止めするから……リオ、逃げろ……」


 ライデルが電撃を喰らいながらもなんとか言葉を絞り出す。


「ふっ、所詮この程度か……つまらんな」


 そう言ってアイリーンは右手をライデルにかざすと掌から更なる電撃を放つ。電撃を受けたライデルは弾き飛ばされ地面を転がった。


「ライデル隊長!」


 思わずリオが駆け寄ったが既にライデルは意識を失っていた。


「終わりだな」


 冷たい視線を送り、アイリーンが手をかざすと、バチバチと音を立ててアイリーンの掌が青白く光を放ち雷が蓄積されていく。


 しかしその時、アイリーンの背後から一人の人影が飛びかかった。


「死ねいウィザード!! 我々の魂の一撃を受けてみよ!」


 振りかざす大剣にアイリーンの結界が反応するが、そんな物など問題なしとばかりに横一閃、剣を振り抜いた。

 これを間一髪躱したアイリーンはリオ達に向けていた掌をその人影に向けて雷撃を放った。直撃は避けたものの、僅かばかり電撃を受けたがその人物は平然とその場に立ち、大剣を構える。

 その人物は横柄な態度で皆の前に立ち、反感を買っていたイアン・コール将軍だった。


「はっはっは、よく我が一撃を躱したな。しかし我が一撃を必死に躱した所を見ると、余程恐ろしいと見える」


「躱せるのにわざわざ敵の一撃を受ける馬鹿がいるか。躱せるから躱したまでよ」


「ふん、次こそはその首をねてくれるわ。そこの女、待たせたな。その死に損ないを連れて早く下がれ。このウィザードは儂が引き受けてやろう」


 自分を庇いながら必死に戦い気を失ったライデルを死に損ないと言われ、流石にカチンときたリオだったがここはグッと堪えて苦笑いを浮かべて受け流す。倒れたライデルの腕を持つと肩にかけ、顔をしかめながら歯を食いしばってリオが立ち上がる。


「じゃあオッサンに任せて私達は下がらせてもらおうかな」


「イアン将軍と呼べ!」


 せめてもの反抗とリオが軽く悪態をつくとイアン将軍が反応していた。


「簡単に行かせると思うか?」


 アイリーンが笑みを浮かべて右手を前に突き出す。それを見たリオの動きが慎重になる。だがイアン将軍が一気にアイリーンとの距離を詰めて行った。


「貴様の相手は儂だと言っておる! 小娘さっさと行け!」


 イアン将軍が大剣を振るいアイリーンに襲いかかるとアイリーンが咄嗟にイアン将軍に向けて雷撃を放つ。それを横目にライデルに肩を貸す様にリオが駆け出して行った。

 雷撃を受けても平然と剣を振るうイアン将軍を見てアイリーンは下がって距離を取った。


「貴様、そのバトルスーツ絶縁処理をほどこしているな?」


 アイリーンが怪訝な表情をして問い掛ける。


「ふはははは、そうだ気付いたか? このバトルスーツは絶縁処理だけではなく耐火耐水処理もしてある。これも全て貴様らウィザードを倒す為、更に――」


 イアン将軍が高笑いをし、腕を振るとその片腕に炎を灯した。


「――こうして魔法の力も手に入れた。貴様らの優位性は既に崩れたぞ」


 イアン将軍が目を見開き狡猾な笑みを見せると、対するアイリーンは静かに笑って見せた。


「ふっ、そんなかりそめの力で私と渡り合えると思っているのか? 舐めるなよ老兵」


 アイリーンが自らの胸の辺りで手を組むと詠唱を唱え始める。イアン将軍は笑みを浮かべたまま剣を構えた。


『――神の怒りをその身に受けよ聖天怒追撃グランサンダー


 空から落ちた巨大な雷がイアン将軍を直撃する。しかしそれでもイアン将軍は笑みを浮かべ立っている。


「貴様の雷なぞ効かんと言っている」


「そうか、ならば出力を上げようか」


 アイリーンがニヤリと笑い力を込めるとイアン将軍を襲う雷が更に巨大な物になる。


「くっ、この程度で儂が――」

「ああ、因みにまだ半分程度も出してないんだがもう少し出力上げてみるか?」


 イアン将軍が苦笑いを浮かべて何かを言おうとした所でアイリーンが口角を上げて問い掛けると、イアン将軍は絶句した。


「調子に乗るなよソルジャー風情が」


 アイリーンが冷たい笑みを見せ、かざした右手に力を込めると雷の出力も更に上がった。不用意にアイリーンの聖天怒追撃グランサンダーを受けてしまったイアン将軍に躱す術などなくそのまま雷を受け続ける事になる。


「ぐ……がっ……」


 絶縁処理能力を超えた電撃を受け、その身を焦がしたイアン将軍は声にならない声を上げてその場に崩れ落ちる。

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