第103話 N.G397年 最終決戦ケセラン・ハルト④

 敵地の懐に飛び込み激戦の中に身を置くザクス達と後方に位置するヴェルザード達の丁度中間ぐらいにいたリオは鷹の目ビジョンズで戦場全体を見渡し戦況を正確に伝え続ける。


「ヴェルザード少佐、ちょっとまずいよ。大佐と姉さん達は敵の懐で足止めされてる。しかも大佐と姉さんは本隊から徐々に切り離されて行ってるみたいだ。そして敵の本隊が突っ込んで来てる。ウチの部隊や他の部隊も応戦してるけど先頭きってる奴がやばい。あれは多分向こうの隊長アイリーン・テイラー中佐だ」


 リオの報告通りアイリーンを先頭に魔法兵団は一気に襲いかかって来ていた。応戦するラフィン共和国軍だったが先頭に立つアイリーンにまったく歯が立たず、セントラルボーデン軍の進撃を止める事が出来ていない。


「まずいまずい、このまま行ったらそっちに行くぞヴェルザード少佐! そっちに残ってる戦力じゃ話にならない。回避行動を!」


「了解した。しかし強大な敵が来たからといって逃げる訳にはいかない。お前がもたらしてくれた情報を元に戦術を考えるのが私の使命だ」


「戦術云々でなんとかなる戦力差じゃないだろうに! それにアイリーン中佐はやばいって!」


 リオが必死に呼び掛けるがヴェルザードは頑として譲ろうとはしなかった。埒が明かないと思ったリオは意を決してR.R隊に呼び掛ける。


「くそっ、わからず屋! R.R隊、私達で敵の足を止める!」


「了解した。お前の護衛ばっかりで飽き飽きしてたんだ。エース部隊の実力見せてやる」


 リオの言葉に呼応し力強く笑いながらライデル達がリオの四方を囲み駆け出し、リオの鷹の目ビジョンズを駆使しながらアイリーン率いる先頭の部隊まで最短距離を突き進んで行く。

 やがて進撃を続けるセントラルボーデン軍の側面に辿り着くと即座に一斉射撃を浴びせた。突然の側面からの攻撃に慌てた様子のセントラルボーデン軍だったがすぐに立て直しシールドを張り、冷静に状況を見極める。


「とりあえず足止めはした。でも戦力が足りなさ過ぎる。何処かから援軍を呼ばないと時間稼ぎにもならない」


 リオが状況を整理するように一人呟くが確かにリオの言う通り戦力はまったく足りていなかった。足止めしたセントラルボーデン軍も僅かな部隊をリオ達に向けた後、本隊は再び進軍を開始し始める。

 向かって来る部隊はR.R隊の活躍により難なく退ける事が出来たが、かと言ってR.R隊だけではセントラルボーデンの進軍を止める事などは出来なかった。


「くそっ、何かないかな?」


 リオが鷹の目ビジョンズを駆使しながらも手をこまねいていると予想外の事態が起こった。

 セントラルボーデンの本隊から離れ、アイリーンが単独でリオ達の元へと向かって来ていたのだ。


「な、なんでだよ! ライデル隊長まずいぞ! 臨戦態勢を!」


 リオの呼び掛けでR.R隊の隊員達も即座に態勢を整える。しかし、それとほぼ同時にアイリーンの雷がリオ達を襲った。ほとばしる雷をなんとか躱したリオだったがR.R隊の隊員数名は躱しきれずにその場に倒れ込んだ。


「くくく、貴様らはそれなりの手練と見える。私が直々に相手をしてやろう」


 アイリーンが余裕たっぷりの笑みを見せてゆっくりと歩み寄って来る。


『まずいまずい、何か探せ。何か手はないか? こんな時に姉さんや大佐がいればなんとかなるかもしれないけどさすがに離れすぎてる』


 リオは鷹の目ビジョンズを使いながら必死に思慮を巡らせる。するとリオは遠く離れた位置に友軍の部隊を一つ確認した。


「あれに賭けるか……」


 そう呟くとリオは必死に通信を試みる。

 そんなリオの作戦を知ってか知らずか、ライデル達はリオを中心に残った隊員達で展開を始める。


「ライデル隊長、もっと右側に展開してくれないかな」


 ライデル達の行動を見てリオが静かに指示を出す。ライデル達は指示に従いゆっくりと右側に移動を始めた。


「来るか? どう仕掛けてくるかな?」


 アイリーンが片手を前に突き出し構えるとアイリーンの周りにバチバチと音を立てながら電撃が巻き起こる。アイリーンの強さは対峙するR.R隊の隊員達にはひしひしと伝わって来ていた。それ故に歴戦の戦士達である隊員達も動けずに場が膠着していく。


「張り詰めた緊張感も悪くないが、私は気が短い方なんだよ」


 そう言うとアイリーンが突然前に突き出した掌を握り締める。


『その身を焦がし地に伏せよ、雷槍撃ライオス


 アイリーンの開かれた掌から一筋の雷が走ると突然枝分かれしR.R隊の隊員達を襲った。

「ぐあっ」「ぎゃっ」

 雷に貫かれた隊員達が叫び声を上げ地に伏すとその体は黒く焦げ、煙を上げていた。肉の焦げたような匂いが辺りに立ちこめる。


「……俺の部下達がこうも簡単に……」


 なんとか雷を躱したライデルが冷や汗を垂らしながら呟く。現状無事立つ事が出来ているのはライデルとリオの二人だけだった。

 二人の眼前で冷たい笑みを浮かべながら佇むアイリーンはまさに魔女そのものに見えた。


 武器を手にしていないリオが咄嗟に倒れた隊員の元へ飛び込むと落ちていた銃に手を伸ばす。


「熱っ!!」


 倒れた隊員の持っていた銃を手にしたリオが思わず叫び、手放してしまう。アイリーンが放った雷槍撃ライオスの熱がまだ残っていたのだ。


「はっはっは、随分間抜けだな。人が焦げる程の熱を受けたんだぞ」


 アイリーンが笑いながらリオの方へとにじり寄る。


「ええ、本当に間抜けかもね。こんな方法しか思いつかなかったなんて。……もうちょっと上げて、あと少し……あとちょっと右へ」


 リオが苦笑いを浮かべて一人ブツブツと呟いていた。少し会話が噛み合わない事を不審に思ったアイリーンが怪訝な表情を見せた。


「……さっきから何をぶつくさ一人で言っている?」


「ふふ……撃て!!」


 リオが一人ブツブツと呟いていたのは勿論離れた位置にいた友軍と通信していた為であり、自ら飛び込んだのは射撃線上にアイリーンをおびき寄せる為であった。空気を切り裂き銃声が鳴り響くより早く銃弾はアイリーンの背後から迫っていた。

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