第101話 N.G397年 最終決戦ケセラン・ハルト②

 決戦の時が迫る中ザクスは移動基地ベース内の自室で身支度を整えていた。


「もう時間?」


 ベッドに腰掛けていたクリスが明るい声で問い掛ける。


「まぁそろそろ行った方がいいかと思ってな。あまり待たせても悪いから」


「まぁそれはそうか」


 クリスはそう言うと勢いよく立ち上がりザクスの元へと歩み寄って来た。


「ねぇ、人に言っといて貴方が無茶しないでよ」


 クリスが首に手を回すと軽い口付けを交わす。


「じゃあ私も配置に向かうから」


 そう言って明るい笑顔を残してクリスは部屋を出て行く。ザクスもすぐに部屋を後にし移動基地ベース内の司令室へと赴く。

 司令室に入ると皆慌ただしく機器のチェック等を行っていたが、見渡す限りヴェルザードの姿はどこにも確認出来ない。

 この状況ならいつもそこで難しい顔をしながら立っているはずなのに。

 そんな事を考えながら一人笑みを浮かべてひとまず通信機器のチェックをしているエルザの元へと歩み寄る。


「お疲れ様エルザ。ヴェルザード知らないか?」


「あっ、大佐お疲れ様です。ヴェルザード少佐なら『大佐が来られるまで少し時間があるから部屋で少し休ませてもらう。もし大佐が来られたらすぐに呼びに来てくれ』って言ってました。ちょっと待ってて下さい。すぐに呼んで来ますね」


「あ、いやいや少し待ってくれ」


 急いで席を立とうとするエルザを慌てて制止する。


「ヴェルザードも連戦の疲れがあるんだろう。まだ時間はあるしもう少しゆっくりさせてやろう」


 そう言ってエルザを席に戻すと自分は中央にある椅子にゆっくりと腰掛ける。ゆったりと背もたれに寄りかかって全体を見渡すと皆、変わらず忙しそうに準備や確認をしていた。いつもの見慣れた光景のはずだが、ひょっとしたらこの光景を見れるのも最後かもしれない。そう思うと少し感慨深いものがあった。

 ザクスはその光景をただ暫く眺めていた。


 それから一時間程が経った頃、ヴェルザードが慌てた様子で司令室へと駆け込んで来る。


「も、申し訳ございません。こんな大事な時に私とした事が……」


「気にしなくていい。大事な決戦前だ。寧ろ今は少しでもゆっくりさせてやろうとエルザとも話してたんだ」


 自分の元へ来るなり必死に頭を下げるヴェルザードをザクスは笑って許していた。

 それから暫くヴェルザードと作戦の打ち合わせをした後、ザクスは司令室を後にし自らの配置に着く。


 その後迎撃体勢を維持したまま丸一日が経過した頃、けたたましく警報が鳴り響き同時に一報が入る。


「緊急! 緊急! 南側に多数の世界連合軍を確認。間もなく射程圏内に侵入してくるものと思われる。各個確認次第迎撃に当たれ」


 遂に決戦の時は訪れラフィン共和国軍全体に緊張が走った。勿論ザクスの部隊も次々に小隊を組み出撃して行く。


「大佐、準備が出来次第出撃願います。続いてクリスもお願いします。二人とも無事帰って来て下さいね」


 オペレーターであるエルザが出撃の合図と共に二人に言葉を掛けていた。


「当然帰って来るさ。留守の間頼んだ」

「エルザ帰ったらまたお話しましょう」


 二人はエルザの言葉に応えると勢いよく出撃して行った。


「どうかご無事で」


 移動基地ベースに残されたヴェルザードが静かに戦場を見つめて呟く。


 先に出撃していたリオやR.R隊に追い付いたザクスとクリスは戦況を確認する。先に出撃していた部隊は既に戦闘を始めているようだ。


「リオ戦況はどうなっている?」


「凄い数が来てる。ラフィン軍も今は十分やれてるけど多分今来てるのは先遣隊だと思うし、本隊が本腰いれてきたらと思うとゾッとするよ」


「了解した。リオは少し下がった位置から鷹の目ビジョンズで見た状況を的確に伝えてくれ。R.R隊はリオの護衛だ。俺は劣勢になっている隊のフォローに入る。クリス一緒に来てくれ」


「了解」


 即座に指示を出し、ザクスは戦場へと駆け出して行った。


「リオの護衛にR.R隊就けるなんて過保護ね」


 ザクスの後ろを追走しながらクリスが笑って語り掛ける。


鷹の目ビジョンズは元々貴重な能力だし、それに彼女の鷹の目ビジョンズはその中でも一際優秀だ。彼女を失えば隊としても相当な損失だからな」


 敵からの銃弾や魔法が飛び交う中、二人はまだ余裕を持って駆け巡っていた。劣勢になっていた隊に追いつくとクリスが援護に入りザクスが突っ込んで行く。そうして敵部隊を跳ね返すとリオの指示に従い他の劣勢になっている部隊の元へと移動して行く。暫くザクスとクリスがそうして駆け巡っていた時リオから突然通信が入った。


「大佐、姉さんまずいぞ、遂に本隊が出て来る。しかもこっちに向かって来てるのはセントラルボーデンの魔法兵団だ」


「はは、よりによって最悪だなおい。バラバラに応戦してたら全滅する。各小隊を集めて応戦するぞ」


 ザクスが指示を出すと各小隊も素早く反応し集結を始める。小隊が集まり編隊を組む頃、全員の視線の先にはセントラルボーデンの魔法兵団が迫っていた。互いが互いを視界に捉え歩みを止めると、双方の間で異様な緊張感が支配していく。

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