第100話 N.G397年 最終決戦ケセラン・ハルト

「ザクス大佐、君はクリスタルを使って誰でも魔法が使用出来るバトルスーツを開発したと聞いたが?」


「いえ、それはネルソン博士が開発した物です。私はそれの元になった物を開発したに過ぎません」


「なるほど。私は今から本部に戻りそのクリスタル内蔵バトルスーツを受け取ってくる。君にはその使用方法を教えてもらい、尚且つチューンナップも頼みたいんだがな」


「お言葉ですがクリスタル内蔵バトルスーツを扱うのは一朝一夕では難しく、それに使用者にかかる負担も半端なく――」


「それをなんとかするのが貴様の仕事だ。私は何としてでも力を手に入れあいつらの無念を晴らす」


 そう言い残しイアン将軍はその場を去って行き、残されたザクスは暫く途方に暮れた。


「上官ではありますが好きにはなれませんね」


 物陰に控えていたヴェルザードが姿を見せると珍しく感情的な事を言い出した。ザクスはそれが面白かったのか、笑いをこらえるように下を向き口を押える。


「ふふふ、まぁ彼も気が立ってるんだろう。他の者達はどうしてる?」


「皆いつも通り備えてます。リオがちょっとぐらい休憩させろと悪態ついてましたがクリスが宥めてましたよ」


「まぁいつも通りだな。すぐに世界連合が攻めてくる事もないだろうし交代で休憩を取らせよう。君も休めヴェルザード」


「はい、ありがとうございます。ではローテーションシフトを考えます」


 そうしてザクス達の部隊は最後の休暇を取る事になる。仲間と共に酒を飲む者、家族に連絡し思いを馳せる者、一人静かに己の趣味に没頭する者、そして恋人や想い人と共に過ごす者。僅か十二時間づつではあるがそれぞれが思い思いの休暇を過ごし決戦に備えていく。


 そんな中、ザクスはイアン将軍にクリスタル内蔵のバトルスーツの使用方を指導していた。思いの外イアン将軍の飲み込みは早く三日程で小さな火球を操るぐらいには上達していた。


「将軍流石です。正直ここまで早く火球を操れる程になるとは思いませんでした」


「ふん、私もただふんぞり返っていただけではない。戦いに関するセンスはそれなりに自信はあるわ」


「失礼しました。ただ私が教えれるのはあくまでこのバトルスーツを使用するコツぐらいです。魔法に関してはやはりウィザードに指導してもらった方が良いかと」


「まぁ確かにそうかもしれんな。では魔力を注入してくれるウィザードにそのまま指導も頼むか」


 ザクスとイアン将軍がそんな事を話していた時だった。突然警報が鳴り響き、司令部からの通信が届く。

 先日奪われたサダハラ及びグランディアスからセントラルボーデン率いる世界連合軍がついに動き出したのだ。その数は不明ながらも相当な数の軍勢が向かって来ているであろう事は想像出来た。互いを射程圏内に捉えるのは最短で二十時間後。それまでに迎撃体勢を整えなければならなかった。


「遂に来たか。ザクス大佐、全員を集めろ。私が出撃前に指示を出す」


 嬉々とした表情を浮かべるイアン将軍を見てザクスは気が進まない中、仕方なく全員を集める事にする。


「いいか諸君。時は来た。憎きセントラルボーデン軍はすぐそこまで来ている。今こそ諸君らの力を解き放つ時だ。奴らに思い知らせてやるのだ我々ラフィン共和国の力を」


 イアン将軍の言葉を聞きながらザクスはそれでは指示ではなく将軍の偏見が入った演説だろうに。と心で呟いていた。


「――では私はバトルスーツの用意もある。全員準備を整え配置に着け」


 そう言うとイアン将軍は颯爽とその場を後にする。消費した魔力をウィザードに注入してもらう為だ。残された兵達を前にザクスが手を上げると全員の視線がザクスに向けられた。


「皆すまない。俺から少しだけ伝えたい事がある。将軍はああ言っているが、皆もわかっている通り戦局は極めて厳しく、今回の出撃が最後の戦いになる可能性は高い。本当は俺の口からこんな事は言うべきじゃないのかもしれないが、皆無理はしないでくれ」


 ザクスが落ち着いた口調でそう伝えると全員静かに敬礼をし答えていた。

 その後全員が散り散りに配置に着いていく。


「ザクスちょっといい?」


 配置に着いていく皆を見つめていたザクスにクリスが駆け寄って来る。


「ああどうした?」


「ふふ、『皆無理するな』か。おおよそ隊長が言うセリフじゃないわね」


「まぁそうだよな。わかってるさ言っていいセリフじゃない事ぐらい」


「ま、それが貴方らしいんだけどね。それと――」


 そう言ってクリスが徐に振り返る。


「ヴェルザード少佐、ザクス大佐に何か用? 出来たら少しだけ気を使ってくれたらありがたいんだけど」


「あ、いや、申し訳ない。大佐、一時間後でもいいので今作戦の打ち合わせをしたいと思います。後で声を掛けて下さい。では失礼します」


 二人のやり取りを少し離れて見ていたヴェルザードはそう言うと慌ててその場を走り去って行く。


「一時間て……クリスのせいでヴェルザードが変に気を使ったみたいだぞ」


「まぁいいんじゃない? 一時間あるんだしたまには私の我儘聞いてよ」


 そう言って寄りかかり満面の笑みを見せるクリスの頭をそっとザクスは撫でていた。

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