第96話 N.G397年 ラフィン戦争⑰

「大佐、よくぞご無事で……そちらの二人は?」


 無事合流を果たしたザクス達をヴェルザードが力強い敬礼で迎えた後、見慣れない二人について問い掛けた。


「ああ、二人はクリスティーナ少尉とリオ軍曹だ。訳あって今は行動を共にしている」


「クリスティーナ少尉です。よければクリスって呼んでくれた方がいいかも」


「リオ軍曹だ。私もリオでいいよ」


 ザクスが二人をヴェルザードに紹介すると二人は一応敬礼をした後、砕けた笑顔を見せて軽い自己紹介をしていた。しかしそんな二人を前にしてもヴェルザードは終始堅い表情を崩さずにいた。


「私はヴェルザード少佐だ。ザクス大佐の補佐、及びこの隊の副官を務めている。先程辿り着いた捕虜になっていたという仲間から少しは聞いているが、ご協力には感謝する。しかし君達二人の身柄をどうするか、これから慎重に協議しなくては――」


「ああ、エルザ二人を応接室に案内してくれ。すまないがそのまま二人の世話を頼みたいのだが」


「はい、お任せ下さい。さぁクリスさん、リオさんこちらへ。私はエルザ・アンダーソンです。お二人をご案内させていただきます」


 毅然とした態度で接していたヴェルザードの話を遮りザクスがヴェルザードの後ろで眉間にしわを寄せて少々呆れた表情を見せていたエルザにクリスとリオの事を頼むとエルザは笑顔で二人を連れて移動基地ベースの中を案内し始めた。


「俺の友人であり恩人でもある。問題無いだろ?」


「……まぁ大佐がそう仰られるなら問題はありませんが、私は警戒はさせていただきます」


 ザクスが微かに笑みをみせてヴェルザードに問いかけたがヴェルザードは一瞬目をふせた後ため息混じりにそう言って再び敬礼をする。


 その後敵部隊の動きを注視していたザクス達だったが動きはないと判断し、警戒態勢のまま数日その場に留まる事にした。


 数日後、サリアで応急処置を終え少し回復したR.R隊の隊員達を迎え入れザクス達の部隊はラフィン共和国領域内のグランディアスという場所まで撤退する事になる。


 前線基地グランディアス。

 そこはラフィン共和国の最新の研究所等も擁する重要軍事施設であり攻防の要でもあった。

 元々セントラルボーデンがある大陸の北東に位置する島国がラフィン共和国の本土であり海を渡り大陸の一部までがラフィン共和国の領域である。大陸にあるグランディアスと要塞都市サダハラ。この二箇所が前線にあるラフィン共和国の防衛ラインであり、もしここを突破されれば最終防衛ライン、ケセラン・ハルトを残すのみになってしまう。

 近くこの防衛ライン、グランディアスかサダハラどちらかにセントラルボーデン率いる世界連合軍が攻撃を仕掛けて来るのではないかと言われていた。

 その為ラフィン共和国軍はこの二箇所に重点的に振り分けられ、ザクスの部隊もグランディアスへと向かうよう命令が下されていたのだった。


 グランディアスへ到着したザクスはヴェルザードとクリスとリオ、それにR.R隊のライデル大尉を呼び今後についての話し合いを始めた。


「さてと、集まってもらったのは他でもない君達の意思を確認したかったからだ。まずはクリスそれにリオ、君達の元上官が暴走し条約違反を犯そうとしていた事を伝えれば今ならまだセントラルボーデンに戻る事も出来る。このままこちらにいれば故郷に帰る事もままならなくなるかもしれないがどうする?」


「あらお気遣いありがとうね。でも私は貴方と一緒にいる事を選んだんだから今更何言われても帰るつもりはないわよ。それに元々孤児だし帰る故郷なんてないしね」


「まぁ私も帰る気なんて無いかな。ロクな人生歩んでなかった私を助けてくれた姉さんと一緒にいるに決まってる。それになんだかんだ言いながらこっちの方が居心地も良いし」


 正直な所、二人の事を考えれば劣勢になりつつあるラフィン側にいるよりかはセントラルボーデン側にいた方がまだ安全ではないかと思っていたザクスだったが、ザクスの心配など他所にクリスとリオは当然とばかりに笑ってラフィン側にいる事を選んだ。


「そうか、負けられない理由がまた一つ増えたな。ライデル大尉、君の部隊は本来独立した部隊だったが隊員が減った為、我々の部隊に合流という事でいいんだな?」


「はい。本部に我々の現状を伝えた所、ザクス大佐の下に入れとの事でしたのでこれからはよろしくお願いします」


 ライデルが力強い敬礼をするとザクスも敬礼を返し、静かに頷く。結局ザクスの周りからは誰一人離脱する事なく戦局は終盤へと突入して行く事になる。


 皆の意見を確認したザクスは今後に備えてグランディアスにある研究施設へと籠る事にした。本来技術士官として軍に所属していたザクスが研究施設へ入れば暫く篭もりっぱなしになるのはいつも通りの事だった。


「ふぅ、どうしてもクリスタルの力に負けてしまうな。使う方が慣れるしかないのか?」


 自らの漆黒のバトルスーツに内蔵されたクリスタルを見ながらザクスはため息をついていた。

 クリスタルの力を使い魔法を使えばちょっと加減を間違っただけでバトルスーツがショートしてしまうのだ。


「あらあら開発者ともあろうザクス大佐がクリスタルの力を持て余してるんですか?」


 煙を上げるバトルスーツを前に頭を抱えていたザクスの元に白衣に身を包んだ小柄な女性が笑いながら姿を現す。

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