第95話 N.G397年 ラフィン戦争⑯
サリアの街を出たザクス達は夜明け前の荒野を走り抜けていた。
「ザクス、部隊まではどれくらいで着きそう?」
「このまま車をとばし続けて十五分程かな」
車内でクリスとザクスがそんな会話を重ねていた時だった。後部座席にいたリオが二人の間に割って入る。
「邪魔するようで申し訳ないんだけど、追っ手が迫って来てるよ。足が速い二輪タイプが二台。その後から四輪タイプが来てる。とりあえず二輪とは五分以内に接触しそう」
「対応が早いな。クリスどう見る?」
「私とリオの行動がバレたとしたら早過ぎる。恐らくサリアから連絡が行ったとかじゃない?『ザクスはもう街にはいない』ってね」
二人ともクリスの意見を聞いて頷いていた。
実際クリスの予想は当たっていた。街へのテロ行為を避けたいサリア側からしてみれば当然の行動だ。セントラルボーデン側にザクスは既に街から出た、と伝える事によって無駄な戦闘に巻き込まれずに済むのだから。
「クリスの話からして君の司令官は非戦闘区域を守るタイプとも思えないな。運転頼めるか? ここでひとまず二輪を迎え撃つ」
ザクスが二人に語り掛けるとクリスが微笑んだ。
「元司令官ね。まぁ守る訳ないわね。貴方丸腰でしょ? 私も手伝うわよ。一人一台確実に仕留めましょ。リオ運転お願いね」
そう言ってリオに運転を任せると二人は車から降り夜の闇に身を潜める。あえて速度を落としリオが車を走らせているとすぐに追っ手の二輪が姿を現した。追っ手が車との距離を詰め銃を構えた時、潜んでいたザクスとクリスが一気に襲いかかる。丸腰で素手ではあったが共に優れたソルジャーである二人からしてみれば、不意をついた相手を制圧する事はさほど難しい事ではなかった。
追っ手から銃を奪い再びザクス達は車に乗り込み仲間達の元へ車を走らせる。
ここにきてザクスは漸く仲間に連絡を入れる事にする。
「こちらザクスだ。今敵から追われている。ここらはまだ非戦闘区域だしなんとかそこまで辿り着くから迎撃準備をしておいてくれ」
「こちらエルザです。大佐大丈夫ですか? まさか奴らもう非戦闘区域で仕掛けて来てるんですか!?」
「エルザか、こんな夜明けに当番に当たったのか? まぁそういう事だ。あと色々と事情も混み合っててな……ややこしい事になってる」
「先程解放されたとか言う仲間が来て叩き起されたんですよ! あの人……ヴェルザード少佐がやきもきしてますよ。早く帰って来て下さい」
「ははは、何時もすまない。頑張るよ」
ザクスが仲間との会話を終えバックミラーに目をやる。まだ追っ手の姿や光等は確認出来なかった。
「このまま逃げ切れるか? リオ軍曹ビジョンズで追って来てる部隊を確認してもらいたいんだが」
「運転しろだとか、ビジョンズ使えだとか人使いが荒いな。まぁ前のハゲに使われるよりかはよっぽどいいけどさ。それと私の事はリオでいいよ。軍曹って呼ばれ慣れてないからしっくりこなくてさ」
そう言ってリオは笑いかけた後、ビジョンズで追っ手の動向を探る。
「旦那、四輪タイプが一台まだ追って来てる。恐らく六人乗ってるかな? もうすぐさっきやった二輪の所に差し掛かるから仲間がやられた事に気付くはずだよ」
「そこからどうでるかだな。更に追って来るのか? それとも一旦引くのか? あと旦那はやめてくれ。まだザクスと呼ばれる方がいい」
ザクスがハンドルを握りながら真顔でリオに頼むとクリスも眉根を寄せて苦笑いを浮かべていた。
「ザクスの旦那でも駄目かい? じゃあ大佐って呼ばせてもらおうかな」
「リオ、言葉遣いには気を付けなさいっていつも言ってるでしょ」
「ふぅ……リオとりあえず敵がどう動くか見ていてくれないか? それ次第で動きが変わってくる」
「了解!!」
二人のやや緊張感のない会話に少し呆れる様にザクスがリオに語り掛けるとリオは笑顔と力強い敬礼で返していた。
やがて追っ手の車両が仲間の二輪がやられている事に気付くと暫くその場で動かなくなる。
「大佐、奴らさっきの所で止まって動かなくなった。恐らく本隊からの指示を待ってるんじゃないかな?」
「了解した。ならばこちらは今のうちに本隊との合流を急がせてもらおう。クリス、リオお疲れさん。暫くゆっくりしてくれ。まぁすぐに着くけどな」
ザクスがそう言って二人に視線をやるとクリスとリオも微笑み背もたれに軽く身を預けた。
それから数分後にザクスの言う通り、三人はヴェルザード達が待つ本隊と無事合流を果たす事が出来た。
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