第94話 N.G397年 ラフィン戦争⑮
捕虜達を車両に押し込んだクリスは周りに視線をやる。他の兵士達は特にクリスの事を疑う事もなく普段通りに見回り等に従事していた。
『さて、勢いでこうなったけどどうするかな? 悩んでる時間はあまり無いよね』
クリスが捕虜達を乗せた車両の近くで悩んでいると突然目の前にリオが姿を現した。
「ね、姉さん。準備は整ったぜ。さぁ作戦開始しよう」
「リ、リオ貴女……」
「さぁ早く出発しないと作戦に遅れちまう」
戸惑いをみせるクリスをリオが無理やり車両へと押し込んだ。すかさずリオは運転席へ乗り込むと見張りの兵に「機密作戦中だからそっとしといてくれよ」と声を掛けると兵士も「ああ、気を付けてな」と言って手を上げて応えていた。
兵士からしてみれば機密作戦が始まるのは通達されていた為、特に疑う事なく通してしまったのだ。
「リオ貴女
「ああ、そしたら姉さんがあのハゲ殴って拘束したからただ事じゃないと思って部屋を飛び出したんだよ。後はとりあえず適当に合わせたつもりなんだけど、これ合ってるよね?」
戸惑いながら問い詰めるクリスに対してリオは眉尻を下げて笑いながら逆に問い掛けた。
「はぁ、辻褄は合ってるけど後戻り出来ないのよ? 貴女まで私に付き合う事なんかないのに」
「何言ってんだよ? 姉さんがいなきゃあんな所にいる意味ないんだから、ついて行くに決まってんだろ……で? 何処に向かえばいいんだい?」
「ははは、とりあえずサリアの街に向かって。後の事は後で考えましょうか」
後先考えないリオの行動を少し咎めようとしたが、後先考えずに動いたのは自分も同じだと気付きクリスは思わず笑ってしまった。
そのまま二人はサリアの街の近くまで来ると車を止めた。そして後に押し込んだ捕虜の一人にクリスはモドリアットがしようとしていた事を話しだす。捕虜やリオは驚きながら嫌悪感を露にしていた。
「今伝えたような事を私は許せなかった。だから今私は貴方達を連れ出しここにいる訳なんだけど、貴方達はここから少し離れた所にいるザクス大佐の部隊と合流して今の事を報告してほしい。私は今からサリアの街に入ってザクス大佐に今の事を伝えるから」
「クリスティーナ中尉、我々を連れ出し命を救ってくれた事は感謝する。だが敵である貴女を我々は何処まで信用すればいいのか正直迷っている」
「てめぇら姉さんが身の危険をかえりみずにここまでしてるのに……」
「リオ止めなさい。少尉、貴方の言う事はわかります。しかし私はモドリアットの非人道的な作戦が許せなかったんです。疑うならこの音声を聞いて下さい」
そう言ってクリスは小型のレコーダーを取り出した。
クリスはモドリアットが非人道的な作戦を話し出した時に何かあった時の為にと、隠し持っていたレコーダーでモドリアットとのやり取りを録音していたのだ。
その音声を聞いた少尉は「申し訳ない」と言って頭を下げた後、車両に乗り込み走り去って行った。
残されたクリスとリオはサリアの街に入っていく。街の入口にある検疫所で武器の有無を確認された後、クリスは録音していたレコーダーを取り出した。
「これを上の方へ渡して下さい。馬鹿共が動き出す前に」
そう言うとクリスとリオは警備兵が止めるのも聞かずにザクスが宿泊しているホテルへ向けて走り出した。
「姉さん、結局私達強行突破してませんか?」
「緊急事態なんだし仕方ないでしょ。もっと飛ばすわよ、頑張ってついてきて」
そう言うとクリスは更に加速しリオは必死に喰らいついていく。
クリスは移動しながらザクスに電話をかけ続けていると途中でザクスが少し寝ぼけながら電話に出た。
「クリスか……どうし――」
「ザクス! すぐにホテルの下まで来て! 事情は後で話すから」
電話に出るなりいきなり捲し立てられザクスは面食らったが、クリスのただならぬ様子に素直に従い、素早くベッドから飛び起きた。
クリスがホテルの正面に辿り着くと丁度ザクスも支度を整え下まで降りて来た所だった。
「リオ軍曹も一緒か。一体何事だ?」
「とりあえずすぐに街を出るわよ。車ある? あるなら早く出ましょう」
ザクスの問い掛けに答える事なくクリスは急かしていた。自分の質問には答えてもらえないばかりか一方的に捲し立ててくるクリスに少し文句も言いたいザクスだったがひとまず今は従う事にし、車がある場所まで三人で駆け出して行く。
三人はザクスの車に乗り込むと即座に街の出口に向かって車を走らせる。
「おい、そろそろ何があったか教えてくれてもいいだろ?」
突然叩き起こされ、何も教えてもらえないままやれ車を出せ、街を出ろ、と捲し立てられてザクスは少し不機嫌そうに尋ねる。
「まぁいいわ。教えるからそのまま貴方の仲間の所まで全力でとばしてくれる?」
そう言ってクリスはこれまでの顛末を話しだした。車を走らせながら話を聞いたザクスは思わず軽く舌打ちをする。
「気持ちはわかるけどあまり舌打ちしないで。この前もしてたでしょ? 良くないよその癖」
「ふぅ、申し訳ない。気を付けるよ」
クリスがザクスの方へ顔を向け注意するとザクスは素直に謝っていた。そんな二人を見ていたリオが不思議そうに問い掛ける。
「なぁ、なんでそんなに親しげに喋ってんの? それに姉さんはなんでザクス大佐の宿泊先や電話番号知ってたんだ?」
「え? あ、いや、それは私の情報網とかがあるのよ」
「……へぇ、今度
「な、やめなさい! 人のプライベート覗く為にある能力じゃないでしょ!」
慌てるクリスを見ながらリオは楽しそうにニヤニヤと薄ら笑いを浮かべていた。
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