第71話 ルカニード王国での出会い④

 レストランで暫く歓談を楽しんだ後、セシルが今日宿泊するホテルの前までフェリクスが送っていた。


「今日はありがとう。本当に楽しかったよ」


「俺も久しぶりに楽しかったよ。また明日、朝十時に迎えに来るから」


「じゃあ待ってるね」


 そう言って手を振り二人は別れた。セシルはフェリクスの車が見えなくなるぐらいまで見送ってホテルへと入って行く。


 その後フェリクスは自宅に帰ってくると、そのままソファに倒れ込む様に横になる。


「……ふう、俺にどうしろと……」


 横になったままポツリと呟き天井を見上げて一人物思いにふけていた。


――翌日

 フェリクスは電話の音で目を覚ました。『しまった、寝過ごしたか!?』そう思い慌てて電話のディスプレイを見ると『着信 リオ』の文字。そのまま時計に目をやるとまだ八時半を回った辺りだった。少し安堵し、電話に出る。


「おはようございます。まだ寝てましたか? 昨日はどうでした?」


「ああ、今起きたよ。おはよう。昨日は楽しんでたよ」


「まぁ、楽しんでたんですね。あっ、それでまだ眠ってたんですか」


 少し笑いながら何処となく含みを持たす言い方をするリオにフェリクスは呆れながら言い直す。


「普通にデートを楽しんでただけだ。変な言い方するな」


「あら、そうなんですか? 勿体ない」


「……それで? 朝からどうした?」


 尚も少しからかうかの様に笑っているリオに呆れながら用件を聞く。


「怒らないで下さいよ。それで国王が今日、時間作れないか、と。出来れば十三時頃がいいとの事でしたが?」


「時間作れないか、とか聞いときながら時間指定しやがって。今日は駄目だと言っといてくれ。先約がある」


「……国王のお誘い、邪険に断るの大尉ぐらいですよ? 先約ってひょっとしてセシル・ローリエですか?」


「ああ、まぁそういう事だ。国王側には上手く伝えといてくれ」


「先方が納得してくれるかはわかりませんが全力は尽くします」


「ああ、すまないがよろしく頼む」


「はい……大尉。楽しんで来て下さいね」


「……お前今、絶対ニヤニヤしてるだろ?」


 フェリクスは最後まで呆れた様な表情を浮かべ電話を切った。

 その後フェリクスは身支度を整えるとセシルに今から向かう旨をメッセージで送り、自宅を出てセシルが宿泊しているホテルへと向かう。


 フェリクスがホテルに到着すると既にセシルはロビーで待っていた。フェリクスを見つけたセシルはすぐに笑顔で駆け寄って来る。


「ひょっとして待たせたかな?」


「帰りの時間は決まってるから時間を有意義に使いたいだけ。約束の時間より早いんだから気にしないで」


 少し申し訳なさそうに笑ったフェリクスだったがセシルは明るく笑って返す。

 その後二人は街へと繰り出して行く。


「今日何か食べた?」


 セシルが覗き込むように尋ねる。恐らく本人からしたら普通の行為なのかもしれないが、その容姿で上目遣いで見つめられると世の男性は思わず意識してしまうだろう。それはフェリクスも例外ではない。


「いや、実は起きたら結構いい時間でさ。支度してすぐに出てきたから何も食べてないんだ」


 実は少し心臓が高鳴っていたがフェリクスは平静を装って笑みを浮かべる。


「そうなんだ。実は私も起きてからコップ一杯の水しか口にしてなくてさ、今日は早めのランチにしよっか」


 そう言って二人は昨日とは違う、近くのレストランへと入って行った。その店で出てきた『海鮮ランチコース』を食べてセシルは満面の笑みを見せていた。


「ちょっと凄くない? 私、あんな香ばしく焼いたプリップリの海老食べたの初めてかも。ああ、あの海老だけおかわりしたいかも」


「それだけ感動してくれたら連れて来た甲斐があるよ。それにそこまで褒めてもらえたら海老も本望だと思うよ」


 名産の海鮮に舌鼓を打ちご満悦のセシルを見てフェリクスもつられるように楽しげな気分になっていた。


 二人はその後店を出ると街へ繰り出し予定通りショッピングを始めた。

 ショッピングとなれば自然と主導権はセシルへと移る。店頭でディスプレイされたマネキンを見て気になれば店内へ入り「これいいなぁ」「この色どう思う?」と次々と手に取ってはセシルのファッションショーが繰り広げられていく。楽しそうに笑って店を巡るセシルを見て、傍らに立つフェリクスも自然と笑みがこぼれていた。


「ふふふ、久し振りに買い物来たから楽しくなっちゃった。ごめんね、振り回して」


 街中のベンチに腰掛け先程買ったドリンクに口を付けた後、無邪気な笑みを見せていた。


「全然大丈夫だから気にしなくていいよ。でもまだ何も買ってないけど品定め中?」


 確かに幾つもの店に入っては商品を手に試着を繰り返すが買った物といえば先程口にしていたドリンクぐらいだ。


「う~ん店先のマネキン見て、こういうのいいなぁ、って思って入るんだけど、私背が低いからさ、実際着るとなんかイメージと違うのよ。まぁそれも含めて私は楽しいんだけどフェリクスは大丈夫かなって」


「俺もセシルのファッションショー見て楽しんでるよ。二つ前の店で試着してた白の短パン良かったけどな」


「あのショートパンツてしょ? 私も気になってたの。早く言ってよ。さぁ買いに行こう」


 急いで立ち上がるとセシルはフェリクスの手を取り少し急ぎ足で店の方へと歩いて行く。

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