第65話 第一章 エピローグ
ジョン・ハワード将軍失脚のニュースは数日の内にセントラルボーデン国内でも広く伝わり、暫くはその話題で持ち切りとなった。
そんな中、ジョシュアのスパイ容疑も晴れ、めでたく釈放となったのだが当の本人の顔色は晴れず、「暫くそっとしといてくれ」そう言い残し一人塞ぎ込んでしまう。
「まぁ仕方ないっちゃ、仕方ないか。さすがに色々あり過ぎたもんね」
「まぁそうだな。しかし折角企画したのに結局中止になった時、『折角あんたの為に企画したのになんなのよ!!』とか言って怒り出すかと思ってたんだけど何も言わずにすんなり折れたよな?」
休日の昼下がり、セシルはアデルと共に軍施設内にあるカフェで紅茶を嗜んでいた。
ジョシュアが釈放された時、セシルやアデル、それにカストロ中隊の仲間達も誘って食事会を企画したのだがジョシュアが塞ぎ込んだ為、中止となってしまったのだ。
「なんなの? 私は鬼ですか? 人の心が無いとでも? さすがにジョシュアの今の状況考えたら、ああなるのもわかるでしょ。自分は傷付き、仲間も傷付き、仲間の仇だと追ってた奴には自害され、恋人には裏切られた挙句逃げられる……ここまで不幸が続く事なんか中々ないって」
セシルはアデルに対して苦笑いを浮かべた後、空を見つめながらそう嘆いてみせる。
「まぁ確かにそうだな……それで頼まれてたコレ返しとくぞ」
そう言ってアデルはシルバーのクロスチェーンを取り出し机の上に置くと、すっとセシルの方へと指で滑らせる。
「ああ、ありがとう。もっとかかるかと思ったけど案外早かったのね」
セシルは机の上のクロスチェーンを素早く手に握るとすぐにポケットへとしまい込んだ。
「急げって言ったの誰だよ? 実際一人で調べるからもっと苦戦するかと思ったけどホログラフィーの中に写真屋の名前があったから助かったよ。ここからは大分遠いけどどうするんだ?」
「この前の作戦での活躍が認められて、特別に長めの休暇貰えたし、暇だから行ってみようかなってね。私がコレ持ってても仕方ないし」
そう言ってセシルはどこか寂しげな笑顔を見せると席を立った。
「まぁ、ありがとうね。お礼にここは奢っとくわね」
「ふん、足らねぇよ」
伝票を手に取り笑顔を見せたセシルに対してアデルが憎まれ口を叩いたが、セシルは振り返る事なく片手を上げてその場を去って行った。
翌日。
セシルは高速鉄道に揺られながら外の景色を眺めていた。高速鉄道はセントラルボーデン国内を網羅しており、最も代表的な移動手段の一つだ。普段自分達が暮らす中心都市付近は背の高い建物も多く、普段自分が目にする景色だったが、離れるにつれその景色は緑の木々が溢れる自然豊かな森林となり、そこから更に離れれば次は砂漠や荒野が続く少し寂しげな景色へと変わっていった。
『さすがにこれぐらいまで来ると一人旅感が出てきたなぁ』
セシルがそんな事を考えながらぼんやりと窓の外を見つめて揺られているとようやく目的の駅へと到着する。
折れた右腕を
『さてと、ここからが大変かな』
そう思いながら街で聞き込みを開始する。
「シュタットさんという女性、ご存知ないですか?」
「ミアさんという女性、ご存知ないですか?」
古くからやってそうなお店に入っては店主や店員の人達に聞いていると、すぐに情報を掴む事が出来た。
「……? ミア・シュタットかい? それなら一本裏の筋を右にずっと奥まで行った所で喫茶店をやっているよ。味は良いんだがちょっと気性が荒いから気を付けた方いいかもな」
聞いた情報の通り裏の筋に入るとまだ夕方だというのにシャッターが閉まったままの店や人が住まなくなって数年は経つと思われる建物が立ち並んでいた。その間をゆっくりとセシルは歩いて行く。
『一本裏に入るだけで廃れた感が増すなぁ。外れの小さな街だとそんなもんなのかな?』
そんな事を考えながら歩いていると突き当たりまで辿り着いた。
そこには喫茶店があり、その店先には綺麗な花が飾られている。それまでが寂しい風景だったせいか、その一画だけは華やいで見えた。
少し店の前で立ち止まり一瞬躊躇したが、意を決したかのようにセシルは店のドアを開け店内へと入って行く。
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