第64話 黒幕
「なるほど、確かに恋は盲目とも言いますしね。恋仲であったジョシュア・ゼフ少尉に嫌疑が掛かるのは仕方のない事ですね……しかしですよ。少なくともこの襲撃の時には、少尉は我が軍の情報をシエラ・モスに伝える事は出来ないんです。何故なら襲撃の陽動と見られるジュランテル襲撃事件が起こった際、少尉は既に仲間達の元に招集されていました。他の隊員達の話からも少尉が外部と連絡を取っていた形跡は無かったようなんです」
「な、なるほど。ではジョシュア少尉の嫌疑は晴れた訳だ。それはよかった」
サリアスが将軍達の目の前をコツコツと音を立てながら歩き回り、やや大袈裟に手を広げてジョシュアのアリバイを説明するとジョン将軍はやや困惑した面持ちで愛想笑いを見せる。
「しかし良くはないんですよ。結局内通者は他にいる事になります……それで我々はシエラ・モスの居住地を探りました。するとですね、出てきたんです。もう一人の内通者との繋がりを示すメモが。誰だと思いますか?」
「だ、誰だ? 我々の知っている誰かなのか?」
「それはもちろん知った名です!!……そのメモに書かれていた名前はメアリー・グラス! ジョン・ハワード将軍、貴方の秘書官ですよね?」
さながらトリックを解き明かす探偵のようにサリアスはオーバーなアクションをしながらジョン将軍に迫ってみせる。
「な、何を馬鹿な……」
「おっと、気を付けてください。私の言葉は長老会の言葉と言いましたよね? それを『馬鹿な』なんて、許されませんよ?」
先程までの余裕は消え失せ焦りに満ちた表情を浮かべるジョン将軍に対してサリアスは終始変わらない笑みを見せ将軍を
「い、いや今のは失言だ、取り消す。だがメアリー・グラスがそんな事をする訳がない。そんな事をしたって彼女に何のメリットが……」
「そう、賊を手引きし招き入れ、彼女に一体どんなメリットが? 例えば、侵入して来た賊が自分とライバル関係にある者の支援者等を次々に葬ってくれるとか?」
「ジョン貴様! 本当か!?」
「ウー将軍落ち着け! ここは長老達の前だ!」
後ろで静かに話を聞いていたウー将軍が怒りに震え立ち上がると、横にいたルーシェル将軍が間に入り必死に宥める。
「な、そ、そんな訳ない!! 私がそんな事……」
「しかも、後から調べてわかった事ですがハワード将軍。貴方の支援者の方々もその日、あのパーティーに出席予定だったようですね? なのに全員当日になって欠席したとか……あまりに偶然が過ぎるんじゃありませんか?」
「そ、そんな……本当にそんなの偶然なんだ」
「我々の見立てでは、貴方はアナベルの後にいた人物からクリスタルを利用したバトルスーツの情報を貰う代わりに我が国の有力者約百名を生け贄に捧げた。しかもそれでライバル関係だったウー将軍の力が衰えるのだから貴方からしたら二度美味しい、といった所でしょう。さぁ後の弁明は取り調べ室でお願いします……衛兵!! ジョン・ハワード将軍をお連れしろ」
サリアスが合図すると衛兵がやって来て即ジョン・ハワード将軍を拘束すると部屋の外へと連行して行った。その時将軍は「違うんだ」「話を聞け」と叫び続けていたが誰もそんな言葉に耳を傾ける者などいるはずもない。
「さてと、これで悪は討たれた訳ですが、先程の元帥の話、ルーシェル・ハイトマン将軍にお願いしたいのですがお二人共よろしいですか?」
「私は漁夫の利のような形になってしまったが指名していただけるならもちろん喜んで」
「私もルーシェル将軍なら異論はありませんな。それに長老会の決定なら我々はそれに従うのみ」
二人の将軍は素直に頷くとベールの向こうにいる長老達に深々と頭を下げる。
その後ウー将軍が軍のNo.2として支えるという事で決着した。
「では今後はルーシェル・ハイトマン元帥の元、軍は運営されていく。そしてサリアス。今回の立ち振る舞い見事であった。今後も任せるとしよう」
長老達が三人にそう声を掛けると三人は合わせたかのように頭を下げた。
その後二人の将軍は部屋を後にすると、それぞれの部屋へと戻って行く。
「お疲れ様でした。どうでした?」
ルーシェル元帥が部屋に戻ると秘書官のマリオン・グラッチが迎える。
「うむ……ジョンの奴が拘束されたよ」
「まぁ……」
ルーシェル元帥が眉間に皺を寄せて難しい顔をして伝えるとマリオンは口に手を当て驚いた様子を見せる。
「……上手くいったんですね」
マリオンが笑みを見せ問い掛けるとルーシェル元帥は何も言わず片方の口角を上げ頷いた。
「ジョンの秘書官はどうなった? 彼女が出て来ると少々厄介だが?」
「彼女は行方不明のままになるでしょう。テロリストの獣人達が派手に暴れてくれたおかげで死体安置所は今もパンク状態です。バラバラの死体が一人分増えたぐらいでは誰も気付かないでしょう」
「ふっふっふ、確かにそうだな……これで秘書官とシエラ・モスが繋がっていなかったと証言できる者はいなくなった訳だな」
「はい。後はメモや状況証拠等からジョン・ハワード将軍の陰謀説が勝手に出来上がっていくでしょう」
ルーシェル元帥が椅子に座り優雅に葉巻を咥えて火をつけ、狡猾な笑みを浮かべると、マリオンは傍らに立ち、冷ややかな笑みを見せていた。
「まぁシエラ・モスが生き残ったのは予定外だったが仕方ない。全てが予定通りに行く訳でもないしな。とりあえず戻って来なければ問題はない」
「はい。ジョシュア・ゼフ少尉と駆け落ち、そこからの諦めて人目の付かぬ所で心中。というのが一番だったのですが途中で邪魔が入ってしまったようです」
「ふん。まぁ気にする程の事でもなかろう。これから世界を動かすのだ。そんな小さな事に構ってられぬ」
「はい、おっしゃる通りです」
二人は人知れず祝杯を上げていた。
この日、セントラルボーデン軍を一人の男が掌握し、数ヶ月後ルーシェル元帥命令の元、セントラルボーデン軍は進軍を開始する事になる。
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