第63話 長老会

 ジョン・ハワード将軍を先頭に三人の将軍達は長老達が待つ最高のセキュリティレベルを誇る最奥の部屋へと入室して行く。


 そこで待つのは五人の長老達。

 薄いベールのような物で遮られ、その表情をうかがい知る事は出来ないが奥で悠々と余裕を持って鎮座している。


「お待たせしまして申し訳ございませんでした」


「ふっ、まぁ良かろう。今日は我々も気分が良いのだ」


 到着するやいなや三人の将軍が声を揃えて頭を垂れたが長老の一人は尊大な態度のまま笑っていた。

 セントラルボーデンの中でも最高権力者であり、それは世界連合の中でも最高権力者である事を意味する。

 たとえ軍トップの将軍達でさえおいそれと、簡単に会話を交わす事も許されないのが五人の長老達であった。


 そんな長老達と将軍達との間に一人の青年が姿を現した。端正な顔立ちで綺麗な銀髪に緋色の瞳が特徴的で小柄で華奢な体躯を見ていると、寧ろ少年と呼ぶ方がしっくりくる。


「私の名前はサリアス・オーソライズ。長老達はお忙しく、出来るだけ手短に評議会を終えたいと仰られたので私サリアスが進行役に抜擢されました。どうかご了承ください」


 そう言ってサリアスは丁寧に深々と頭を下げる。


「ほほう、ではサリアス氏は何と呼べばいいかな? 階級があれば呼びやすいがそうでもなさそうだが?」


「私の呼称は今のようにサリアス氏でも呼び捨てでも構いませんよ。ただ私を敬ったりする必要はありませんが、私の言葉は長老会の言葉と思っていただきたい」


 ジョン・ハワード将軍が自慢の顎髭を撫でながら問い掛けると、サリアスは笑みを浮かべながらそう説明し、再び深々と頭を下げた。


「それでは納得していただけたのなら本題に移りたいのですがよろしいですか?」


 頭を上げ、将軍達の方へと向き直ったサリアスが笑顔で問い掛けると、将軍達は静かに頷いた。


「では、今回のテロ事件は本国にまで攻め入られ百名近い犠牲者を出す等、未曾有の被害となったがそれを迅速に対処出来た事は賞賛に値する。そして今回、テロリスト殲滅にあたりジョン・ハワード将軍が開発を推し進めた新型バトルスーツが威力を発揮したとの報告を受けてますが、一方で何処から情報を得て開発に至ったのか疑問を呈する声も上がってます。ハワード将軍これについて何かありますか?」


 サリアスが掌を向けてジョン将軍に発言を促すと、途中までご満悦な表情を浮かべていたジョン将軍はウー将軍を一瞥した後、少し口角を上げ説明を始める。


「今回の作戦で私が推し進めた新型バトルスーツが多大な貢献をした事は非常に嬉しく思っておりますが、その開発に至った経緯に致しましては内密にするよう取り決めがなされておりまして出来ればご勘弁を。もちろん長老会の方から開示せよ、とご命令があればそうしますがソルジャー達が魔法を使える様になれば我が軍の軍事力は格段に上がります。今回はまず結果が大事かと」


 ジョン将軍が自らの成果を饒舌に述べると長老達も特に異論は無いようでサリアスもニコニコとした笑みを浮かべ、ジョン将軍の話を聞いていた。


「なるほど、確かに結果は大事ですね。それと今回の件で長老会としても迅速な対応は今後も必要との考えで三人の将軍の中から一人、元帥に就いてもらう事で一致しました」


 サリアスがそう言うと、ウー将軍は眉根を寄せて静かに拳を握り締め、ルーシェル将軍は静かに目を伏せたまま動かず、ジョン将軍は満面の笑みを浮かべていた。


「今回素晴らしい活躍となったハワード将軍ですが、そう言えば秘書官の方も今回重要な役割を担っていたと聞きましたが秘書官の方とはお会い出来ますか?」


「ひ、秘書官ですか? 今秘書官は休暇中でして今は別の物が代理を務めてますが?」


 ジョン将軍は自分が褒められ称えられるとは思っていたが何故か秘書官にまでその話が及ぶとは思っておらず、思わず困惑の表情を浮かべてしまう。


「あぁ、今は休暇中でしたか。優秀な秘書官の方なら私も何か学ばせて頂こうかと思いまして個人的には少しお話させて頂きたかったんですが残念です」


 そう言ってサリアスは変わらない笑顔をジョン将軍に向けていた。


「ただ今回の件。未だに多くの謎がまだ残されています。その一つが襲撃した獣人達がこちらの動きを把握していた点です。これは潜入していたシエラ・モスという人物が関与していた疑いが強いのですがこのシエラ・モス、軍の動きを何故正確に把握していたのか? という疑問が残るのです。これについてハワード将軍の意見をお聞きしたいのですが」


「確かにシエラ・モスにスパイ容疑が掛かってますが軍内部に協力者がいたのでは、と聞いています。ただ恥ずかしい事にその協力者が今回新型バトルスーツの開発を担っていたジョシュア・ゼフ少尉の可能性があると聞かされた時にはもう……なんとも言えない気持ちになりました」


 サリアスから今回のテロ事件の核心に迫るような質問をぶつけられたが、それさえもわかっていたかのように更に饒舌にジョン将軍は語ってみせた。

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