第62話 セシルの帰還

「アデル!! ちょっとアデル!! どうなってるの!?」


 軍本部に帰ってくるなりセシルはアデルの部屋を急襲していた。


「な、何度も呼ばなくたって聞こえてるよ! 少しは落ち着け!」


 セシルは突然烈火の如く迫り、今にも掴みかかって来そうな勢いだ。それをなんとかアデルは落ち着けようとしていたが苦戦を強いられる。


「セシル少尉困ります!! まずは帰還の報告をお願いします! 我々まで処罰されてしまいます」


 セシルの後を追うように迎えに来た兵達までも押し掛けて来た。その兵達に宥められ、ようやく落ち着きを取り戻したセシルは「ふぅ、後で来るからちゃんと説明してよね」そんな捨て台詞を吐き、部屋を後にして行く。

 俺は何も悪い事なんかしてないのに何でこんな目に。アデルはそう思い、一人残された自室で頭を抱えていた。


 アデルの部屋で一悶着起こしたセシルは所属するセントラルボーデン魔法兵団特別遊撃隊の隊舎を訪れていた。


「セシル・ローリエ只今帰還しました。この度はご迷惑かけて申し訳ありませんでした」


 先程までとは打って変わり、片膝を着き頭を下げ、セシルは平静な振る舞いを見せていた。

 セシルがこれ程まで平身低頭で接する相手こそ魔法兵団、特別遊撃隊も含めて束ねるアイリーン・テイラー大佐。更にはセントラルボーデン最高戦力のナンバーズの一人でもありナンバー3の称号を持つ人物である。

 歳は三十代半ば、自慢の黒のロングヘアーは腰まで伸びており、キリッとした鋭い目つきは彼女のきつい性格を表しているようだ。


「セシル、面を上げなさい。今回の任務大変でしたね。ゲルトがどうしてもと言うから派遣を許可したのに……こんな事なら許可すべきではなかった。もうには貴女は就かなくてもいいですらね」


 労いの言葉を掛けるアイリーンだったがその言葉を聞きながらセシルの握り締める拳にも自然と力が入る。


「あ、あの、今回の任務についてですが……」

「セシル。体の調子はどうですか? 治療の準備は整えているので下がって暫くは治療に専念しなさい。今後、貴女の力は必要になります。だから今はゆっくり休むのです」


 セシルの言葉を遮り微笑みかけるアイリーンに対して、それ以上声を上げる事は出来なかった。


 ギリっと歯を噛み締めながら部屋を後にしたセシルはその足で治療室へと向かう。

 セシルの現状は既に伝わっているようで治療室に入るとカプセル状になったベッドで横になるよう促され、それに従うと全身が暖かな空気に包まれ、心地好い気分になる。


『はぁ、この後はアデルの所でジョシュアの状況を説明してもらわなきゃ、面会出来るのかな? リオさんとの約束もあるし、あっ、それにあれと……』


 治療を受けながら今後の予定を考えていたが、セシルはあまりの心地好さにいつの間にか夢の中へと入って行ってしまう。




――

 セントラルボーデン基地最上階にある一室で三人の将軍達が集まっていた。


「これで西地区にある保護地区から端を発した一連のテロ事件は幕を閉じた訳だな」


 ルーシェル・ハイトマン将軍が他の二人に目をやりながらそう言うとウー・フェイウォン将軍は目を瞑り静かに頷き、ジョン・ハワード将軍は顎髭に手をやりながら得意げな笑みを見せていた。


「まぁ今回は魔法兵団と共にクリスタル装備の新型バトルスーツを装備したウチの部隊が活躍したそうだし、私が有事を見越して開発させた甲斐があったようだな」


「まぁ確かにそのような報告も上がって来ているが、その部隊の一人が今拘束されているそうだが?」


 得意げに笑うジョン将軍に対してウー将軍が苦言を呈するように眉根を寄せて質問を投げ掛ける。


「まぁ確かに一隊員に嫌疑が掛かっているようだが何かあれば部隊長のカストロにでも責任は取らせよう」


「……ここで我々が言い合っても仕方ないだろう。長老達が今後について話があると言っているんだ、まずはそちらに向かおう」


 ジョン将軍とウー将軍の間に若干険悪な空気が流れたがルーシェル将軍が入りなんとか間を取り持つ。


「確かに、あまり待たすとうるさそうだしな」


 そう言ってジョン将軍は立ち上がり颯爽と先陣を切って歩き出す。

 もう既に自分がトップに立っている。そう思っているかのようにも感じられた。


『ふん、既に後ろ盾も支援者も失っているウーが何を言おうが取るに足らん。それに今回のロストバーサーカー討伐には私が推し進めた新型バトルスーツが大いに活躍したそうだし、私の実績も確固たる物になった。遂にトップに立つ時が来たのだ。まずは、そうだな……』


 先頭を歩いている為、誰もジョン将軍の表情かおを窺う事は出来ないが、なんとも醜い醜悪な笑みをずっと浮かべていた。


 まもなくセントラルボーデン軍という巨大な力を一人の男が握ろうとしていた。

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