第60話 リオとの邂逅
「かははは、貴女の負けですお嬢さん。ではいただきましょうか」
「くっ、いや、来るなぁぁ」
じわじわとにじり寄るケスターに対して手を横に振り払うように拒絶しながら叫び、セシルはベッドの上で飛び起きた。
「はぁ、はぁ……へ!? 夢? ここ何処?」
周りを見渡すと一人見知らぬ部屋のベッドで横になっていた事に気付く。まだ
あの夜、魔力を使い果たし立ってる事もままならずに地に伏せ、腕を折られた。
勝てる見込みもないあの状況から一体自分はどうなったのか? ベッドの上で上体を起こし、自らの状態を確認する。
衣服は身に付けておらず、代わりに首から下は丁寧に包帯が巻かれ、折れた右腕は添え木を当てられ固められていた。
ベッドの上で困惑しながらも状況を整理していると部屋のドアをノックされる。
「……はい、どうぞ」
驚き身構えるが、今の自分の状況を知る上で扉の向こうにいる訪問者を迎え入れる方が賢明と思い返事を返した。
「ようやくお目覚め? 悪い夢でも見た? 叫び声、下の部屋まで聞こえてきたけど」
ドアを開け、入ってくるなりにこやかに女性が問い掛けてくる。
「あ、あのすいません、うるさかったですか? 私どうなってました? ここは何処で貴女は誰ですか?」
「私はリオ・フレジャー。隣国のルカニード王国からの旅行者よ。貴女がどこまで覚えてるかはわからないけど、貴女はだだっ広い荒野で一人傷付き倒れてたの。腕はズタボロになって血だらけな上、右腕は折れてるし呼び掛けにも応じない。面倒事に巻き込まれたくないけど、放って置く訳にもねぇ……って訳で連れ帰ったんだけどね」
リオはセシルがいるベッドの横に来ると椅子に腰掛け時折困ったような表情を混じえながら当時の状況を説明してくれた。
「そうだったんですね、ありがとうございます……それで……その、私、どんな状態で倒れてました? あ、あの、服とかちゃんと着てましたよね?」
セシルはベッドの上で座った状態だったが精一杯頭を下げた後、上目遣いで恐る恐るリオに尋ねた。
「ふふ、そっか、そりゃあ気になるよね。大丈夫。怪我は酷かったし意識はなかったけど変な事された形跡はなかったよ」
リオは少し笑った後、当時の状況を説明してくれた。
「ここはセントラルボーデン国境近くの街リッツカルドにあるコテージよ。せっかく良さげな宿予約してたのに、貴女に四日間もベッド占領されちゃったの……」
リオの説明によるとリオ達は旅行でセントラルボーデンを訪れ、バレスタで遺跡等を見た帰りに倒れていたセシルを発見したらしい。
もちろんこれは嘘でありセシルも怪しんではいた。しかし救助され丁寧に手当てしてもらった事は事実であり、突っ込んだ事を聞く事は
「す、すいません。私四日も寝てたなんて……」
「相当無理したんじゃない? 貴女の今の状態、かなりヤバいわよ」
リオは更に続けた。
本来魔力が底を尽きるまで使い果たすと回復には時間が掛かるとされている。だが例え底まで使い果たしても四日もすればある程度は回復するはず。しかし現状セシルの魔力は全くと言っていいほど回復していなかった。
これは魔力が枯渇して尚、セシルが魔力をひねり出し魔法を使った事により魔力が体内で上手く蓄積出来ない状態になってしまっているようだ。
「だから貴女の体内の魔力は今も外に垂れ流しのような状態になっているの。それを少しでもマシな状態にする為に特殊な包帯で身体をぐるぐる巻きにしてるんだけど、効果は薄いみたいね。その証拠に今でも倦怠感が酷いでしょ? たぶん初級の魔法ぐらいしか使えないわよ」
「そんな……魔力が回復しないなんて……」
ケスターとの対決で限界を超えて魔法を使った時、負けたくないという想いが強く、ある程度の事は覚悟していた。だがこの様な後遺症は想定外だった。
幼少期より天才と称され士官学校時代もウィザードの中でも常にトップであり続けた自分が今は初級の魔法しか使えない。その事実にセシルは呆然となる。
「限界を超えて魔法を使った人が稀になるみたいで元通りになったって聞いた事もあるけど、実際いつ戻るかは……う~ん」
リオも眉根を寄せて困ったような笑みを浮かべていた。
「まぁ、軍に戻ったらもう少しマシになるかもしれないし、今悩んでも仕方ないですかね……それとリオさん、ウィザードについて詳しいですね。軍関係者……ですよね?」
眉根を寄せて微笑むリオの顔を覗き込むようにセシルが笑みを浮かべ問い掛ける。
「……ノーコメントじゃ駄目かしら? ひとまず今は貴女の敵じゃないわよ」
「まぁ今は助けていただいた恩の方が遥かに大きいですしそれでいいですよ。それといい加減軍に連絡しないと不味いんで連絡入れていいですか? 今頃それなりの騒ぎになってるかもしれませんし」
「まぁそうね。今頃、戦闘中行方不明者(MIA)にされてるかもしれないしね。ただその前にお願いがあるんだけど……」
そう言って含み笑いを見せるリオがセシルに提案してきた事は、自分達の存在はあまり詳しく伝えないでほしいという事。リオ達の存在が軍に知れれば互いに面倒な事になりそうだとはセシルも感じていた為、何も聞く事なくそれに頷く。
「流石、察しが良くて助かるわ。それともう一つお願いがあってね。寧ろそっちが本題……ある
思いもよらない頼み事をされて目を丸くし困惑の表情を浮かべるセシルを、リオは笑みを浮かべながら真剣な眼差しで見つめていた。
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