第53話 バレスタの攻防⑪

「今まで『我こそはシャリアの生まれ変わりだ』なんてほざくウィザードはごまんと見てきました。だが火竜を従え意のままに操っていたのはアナベル、貴方ぐらいでしたよ。だから少し貴方に興味が湧いたのです。ああ、でも勘違いしないで下さいよ。貴方がシャリアの生まれ変わりだなんて思った事なんか一度もないんで……シャリアの生まれ変わり? その程度の力で何をほざく。シャリアの、!! 大体……」


 いつもの落ち着いた口調からいつの間にか激しい口調へと変わりまくし立てるように叫ぶケスターを一発の弾丸が襲う。

 銃の引き金を引いたのはジョシュアだった。

 足元が沈み、身動きが取れないジョシュアが出来る事といえば銃撃する事ぐらいしかなかった。例えそれが無駄であったとしても。


「骸骨のくせに饒舌だな。語ってるうちにテンションが上がってんのか知らねえけど俺達の事忘れんなよ」


「かはは、忘れてなんかいませんよ。ただ目に入ってないだけです。まぁそちらの死にかけの色男さんがせっかく動きを止めてくれてるんで今のうちにいただきますかね」


 そう言うとケスターはアナベルの胸に埋め込まれているクリスタルに手を伸ばす。


「なっ!?貴様……やめろ!!」


「貴方より私の方が有意義に使ってあげますよ」


 抵抗しようとするがゲルト少佐の氷縛結界で身動きが封じられているアナベルの左胸に、無情にもケスターの指が食い込んでいく。

 アナベルの絶叫が辺りに響き渡る。

 それは埋め込まれたクリスタルを剥ぎ取られる痛みからなのか、それとも力の根源を奪われる絶望からなのか……。


「かはは、これでまた私の研究が進む。アナベル、貴方には感謝してますよ」


 剥ぎ取ったクリスタルを握り締め語り掛けるケスターをアナベルは虚ろな目をしながら睨みつけていた。


「アナベル、貴方本来はウィザードの素質なんか無かったのでしょう? その証拠に貴方は火竜を操り、火球を放ったりしていましたが火炎系の魔法は何一つ使っていなかった。初級である火炎弾バレット系の魔法でさえも」


 確かにこれまでアナベルは火球を操り触れれば爆発を起こす光球を放ったりはしていたが詠唱を必要とする精霊魔法等は一切使っていなかった。


クリスタルこれを身体に埋め込み力を引き出していたのは素晴らしいですが負担も凄まじかったでしょう? どの道貴方の寿命はそれ程残されてはいませんね。貴方のようにウィザードの素質も無い者は私のように生き長らえるのも無理ですしね」


「……誰が貴様のようになってまで生き長らえるかよ……返せ」


 何時しかゲルト少佐の氷縛結界も解かれたアナベルが力なく呟くと残された左腕でケスターに殴りかかる。

 しかし既に瀕死のようなアナベルの拳がケスターに届く訳もなく、簡単に左腕を掴まれてしまう。


「そんな弱々しい拳で何が出来ますか? 左腕まで失いますよ」


 ケスターがそう言うと掴んだアナベルの左腕が一気に枯れていく。


「ぐああぁぁ」


 まるで精気を吸われたかのように枯れた左腕を見てアナベルが叫んでいた。


 ジョシュア達はそんな二人のやり取りを離れた位置からただ見ているしかなかった。

 目の前で行われている内輪もめを見てジョシュアは困惑していた。シャリアーズグラスとはなんなのか? そして敵は一体誰なのか?


「さてと、目的の物も手に入りましたし私は忙しいんでそろそろ行きますかね」


「おい待て骸骨野郎!! シャリアーズグラスって何なんだよ? 大体お前は何者だ!?」


 何事もなかったように去ろうとするケスターに対して、自分達は蚊帳の外で身動きも取れず、謎ばかりが残りフラストレーションが溜まったジョシュアがそれをぶつけるように叫んだ。


「かはは、ああ忘れてましたよ。私はケスター、偉大な探求者ですよ。シャリアーズグラスとはあの最強の魔道士と言われたシャリアが最後、最強魔法を使い自らの命を散らした時にシャリアの魔力を吸収し、その力を宿したクリスタルの事です。シャリアーズグラスはこの数百年の間に数個確認されてましてね。貴方達が使ってるしょぼいクリスタルとは訳が違うんですよ。今私は非常に機嫌が良い。貴方達は見逃してあげます。では」


「おい待て!」


 叫ぶジョシュアを尻目にケスターは夜の闇へと消えて行った。

 いまだ煙が立ち込める荒野に、両腕を失い胸に空いた穴から血を流し既に意識が朦朧としているアナベル。魔力を使い果たし、既に意識を失って倒れているゲルト少佐。そして膝下まで地中に埋まり身動きの取れないジョシュアが虚しく残された。

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