第51話 バレスタの攻防⑨
ジョシュアがアナベルを睨みながら、腰を落とし大剣の柄を握り締める。
「でやあぁぁぁ」
次の瞬間、ジョシュアは大剣を構えながら地面を蹴りアナベルへ向かって一直線に飛びかかった。
「ふん、猪かよ」
アナベルが呆れたような笑みを見せ、片手を振るとジョシュアの前に一瞬で炎の壁が立ち塞がる。
「毎度毎度、これで止まるかよ!」
ジョシュアが炎の壁を切り裂くように水の魔力を纏った大剣を振るい炎の壁を突破した。
その勢いのまま一気にアナベルとの距離を詰めに行こうと前を向くと、ジョシュアの眼前には光球が迫っていた。
「な!?まずい!」
ジョシュアが叫んだ瞬間に光球は轟音を立てて爆発を起こす。ジョシュアは先程穴が空いた外壁まで一気に吹き飛ばされた。
咄嗟に間に剣を立てて直撃を防ぎはしたが、再びアナベルとの距離は離れてしまった。
「どうした、そんなに離れて。お前達ソルジャーは近寄らなきゃ話にならないだろ? それともその借り物の魔力で俺と魔法合戦でもするか?」
再び距離が離れ、膝をつき肩で息をするジョシュアを見下すようにアナベルが挑発めいた言葉を口にする。
「ちっ!クソがっ」
ジョシュアが吐き捨てるように言うと空いた外壁の穴からベース内へと駆け出して行った。
「……? なんだ? 自暴自棄になって逃げ出したか?」
一瞬戸惑ったアナベルだったがすぐに勝ち誇ったような笑みを見せ、ベース内に消えたジョシュアの後をゆるりと追った。
ジョシュアを追ってベース内へと侵入したアナベルは長く伸びた廊下の先に、走るジョシュアを確認する。
「おい兵隊、逃げるなよ。俺は仇なんだろ?」
そう言って片方の口角を上げると火球を一つジョシュアに向かって放つ。
迫る火球に反応するようにジョシュアが振り返りつつ飛び退き、火球を躱すと転がるように脇にあった部屋へと逃げ込んだ。
『よし、案の定あいつは余裕を持って追ってきてやがる。そのまま来い。追って来い』
逃げ込んだ部屋で身を潜めながらアナベルを待つジョシュア。
ここまではなんとか作戦通りに持ってこれた。いや寧ろ作戦と呼べるような代物でもなく、ただの思い付きと言った方がまだしっくり来るかもしれない。
だが、この思い付きにでも賭けなければ勝機は見いだせなかった。
「一か八か……後は運を天に任せるか」
そう呟き、乱れていた呼吸を整え、暗がりの部屋で息を潜めてアナベルを待つ。
「おい兵隊! この部屋に逃げ込んだよな? 次はかくれんぼかよ?」
勢いよくアナベルが部屋に入って来ると周りを見渡しながら叫んだ。その叫びからは若干の苛立ちも含まれているように感じられる。
「そろそろ出て来いよ。俺は忙しいんだ。お前とばっかり遊んでられねぇんだよ」
そう言ってアナベルは一歩、また一歩と暗がりの部屋へと歩を進める。
そうしてアナベルが慎重に歩きながら部屋の入口から二、三メートル進むと、潜んでいたジョシュアがいきなり大剣を振り下ろすように飛びかかった。
アナベルはこれを既の所で躱すと空を切ったジョシュアの剣は背後にあった袋を両断する。アナベルはカウンター気味にジョシュアに火球を放つと、ジョシュアも体勢を崩しながらもなんとか火球を躱した。
アナベルの放った火球が壁にぶつかると火は飛び散り部屋に僅かな灯りをともすと、先程ジョシュアが両断した袋から飛び散った粉がキラキラと宙を舞っていた。
「ふん、残念ながら不意討ちは失敗したぞ。もうこんなせこい手しか残ってなかったようだな」
「ははは、せこい手か。まぁ確かにそうかもしれないが、ここなら自慢の火竜もいない状態でサシでやれるだろ?」
「なんだ貴様……火竜がいなければなんとかなるとでも思ってるのか?」
「さっきだってそうだろ。砂埃が覆って視界が効かない中、飛びかかった俺に横から火竜が火を吹いてきやがった。あの時思ったんだよ『こいつ操られてるというより独立した思考で動いてんじゃねえか?』ってな。だったら別々に離せば個別に対応出来るんじゃねえかとも思ってよ。二対一でやるよりかはこっちの方がやり易いだろ?」
「訳の分からん解釈をベラベラと述べやがって」
再びアナベルが右腕を横に広げるとその腕に炎を灯した。
しかしジョシュアは剣を構えず、横に積み上がった袋を手にする。
「そんなに焦んなよ」
そう言ってジョシュアはニヤリと笑うと、手にした袋の口を開けアナベルに向かって放り投げた。
「こんな物……ふざけるな!!」
苛立ちを隠せずに飛んで来る袋に対して右腕に灯した炎を放つと袋は燃え尽き内容物の小麦粉が舞い、アナベルの視界を遮る。
「くっ、ここにきて目くらましとはな!!」
アナベルが吐き捨てるように言うと手を横に振り視界を遮る小麦粉を払おうとする。
しかしジョシュアは移動しながら次々と小麦の入った袋を投げつけていた。すると異常な量の小麦粉が部屋中に充満する。
「しつこいぞ貴様……」
そう言って苛立ったアナベルが右腕に炎を灯したその時、アナベルを中心に凄まじい爆発が起こった。
耳をつんざく轟音と共にベースはおろか、周辺を揺るがす程の衝撃が一帯を襲う。
ベースの右側面を吹き飛ばす程の粉塵爆発が起こり、辺りには瓦礫が散乱し焼け焦げた匂いが漂っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます