第50話 バレスタの攻防⑧
「……はぁ、はぁ、ふざけないで……禁呪なんて……それ以上近寄ったら……自決する……からね」
立っている事もままならず座り込み、虚ろな目をしたセシルは霞む視線の先にケスターを確認し呟いた。
「かはは、自決する力ももう残ってないでしょうに。負けるという事はこういう事ですよ。貴女のように美しいお嬢さんはこの後捕虜となったら辱めを受け、あらゆる手段を用いて情報を聞き出される事になるんです」
「誰があんたなんかに……」
ケスターを睨みつけながらボロボロになり震える手を腰にある銃のホルダーに伸ばす。
しかし次の瞬間、ケスターがセシルに向かって人差し指を伸ばし、ピンっと弾くような素振りを見せるとセシルの周りの地面が隆起しセシルの腕をへし折った。
「ああぁぁ!!……」
声にならない叫びを上げて、目に僅かに涙を滲ませながらもセシルはケスターを睨みつけた。
「かはは、早まってはいけませんよ。残念ながら貴女をひん剥いた所で私にはもうそんな欲も肉体もなくてね」
「はぁ、はぁ……腕が折れた痛みで逆に頭は冴えてきたけど……一日に二回も腕折られたらさすがにキレそうだわ」
「貴女は少し気が強過ぎますね。このままでは何するかわからないんで少し寝ていてもらいましょうか『
「く……絶対……負け……な……」
襲い来る痛みと急激な眠気に抗い、なんとか意識を保とうとするセシルだったがこれまでの連戦の疲れに魔力の限界を超えていた事も手伝って意識は遠ざかっていく。
「さてと、これで大人しくなりましたね。本来なら情報の一つでも聞き出してとどめを刺すんでしょうけど、私の本来の目的とは違いますしね……それに先程からずっと覗いてる方もいますし」
そう言ってケスターは何も無いはずの空を見上げた。
――
「うわっ! ちょ、ちょっと、何なのあの
遠くに停めた車内でリオが両手をばたつかせ驚きの表情を見せた。
「ど、どうしたんですか?」
「
「リオさんの気のせいとかではないんですか?」
「だといいんだけど……あれは多分気づいてる感じよ。あの子負けて死ぬんなら仕方ないけど何か変な事されるなら同じ女として許せないし助けようかとも思ってたけど……う~ん無理ね。迂闊に関わりたくはないわ」
リオは車のシートを倒し、頭の後で手を組み天井を見つめる。
「リオさん? どうしました?」
「ちょっと疲れたし休憩よ。それに……少し整理しましょう」
その後リオは目を閉じ物思いにふける。
そんなリオを見つめながらユウナは深くため息をつき、夜空を見つめた。
「ふぅ……退屈……」
ユウナの呟きが虚しく車内に響いた。
――
「はぁ、はぁ、クソっ、強えなやっぱり」
ベースの外壁を背にしジョシュアが大剣を構えていた。
既にゲルト少佐は倒れ、マーカスとバスケスはクリスタルの魔力が尽きている為、遠方から狙撃するしかなかった。
勿論そんな遠方からの普通の狙撃ではアナベルに通じるはずもなくアナベル一人に対して追い詰められているのはジョシュア達の方であった。
「あいつの魔力は無限かよ……」
物陰に身を潜め、スコープを覗きながらマーカスが呟く。
事実、アナベルはベース襲撃からずっと火竜を操り、火球を放ち、炎の壁を出現させた。
それでも尚、炎の勢いは衰える事なくアナベルの魔力は尽きる様子は見えない。
「はっはっは、どうした兵隊。勢いだけは良かったがもう終いか? だったらもういいか?」
アナベルが笑いながら手をかざすと再び光球を出現させ、ジョシュアに向かって放つ。
これを横に飛び退きかわしたジョシュアだったが光球がベースの外壁に着弾すると爆発音と共に爆風と砂埃が辺りを襲った。
しかしその砂埃を利用し視界が悪い中ジョシュアがアナベルとの距離を詰めるべく一気に飛びかかる。
だがそんなジョシュアに対して火竜が炎を吐いた。灼熱の炎がジョシュアに迫ると、飛びかかったジョシュアはかわす事も出来ずに炎に呑まれた。
「熱っ、クソっ」
炎に包まれたジョシュアが腕を振ると周りに冷気が舞い炎を打ち消す。
「くっくっく、さっきの優男の置き土産だな。いいのか? せっかく託された魔力、そんな使い方して」
「うるせー! そう思うんなら一撃ぐらい受けてみろよ」
余裕の笑みを見せるアナベルに対してジョシュアが大剣を握り締める。
「ふん、お前の戦い方が下手なせいで基地にも大穴が空いたぞ」
「その大穴空けた張本人が何言ってやがる」
そう言ってベースの外壁に空いた穴に目をやる。
その時ジョシュアが何かに気付いた。
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