第48話 バレスタの攻防⑥

特級聖風竜巻バーストツイスター


 ジョシュアの眼前まで炎が迫った時、突如響いた声に呼応して巨大な竜巻が出現し、ジョシュアに迫っていた炎は竜巻に吸い寄せられた。

 炎を纏い火炎竜巻へと変貌した竜巻を見て、呆気に取られたジョシュアだったがすぐに誰の仕業かは察しがつく。


「ギリ、間に合ったわね……さて、返してあげようか」


 ジョシュアが振り返ると片方の口角を上げ、勝ち誇ったような顔を見せるセシルが巨大なうねりを上げる火柱へと姿を変えた竜巻に手をかざしながら立っていた。

 セシルが手を振ると、熱風を伴い、荒れ狂う炎へと姿を変えた竜巻が轟音を立てながらアナベル達に向かって一気に襲いかかる。

 本来、バーストツイスターだけでも風属性の魔法としては上級の攻撃魔法なのだが、そこに火竜の炎も合わさり攻撃力は更に増していた。


「くっ、人の力上乗せしやがって……」

「これはちょっとまずい……」


 轟音を立てて熱風を伴い向かって来る火炎竜巻に対して、アナベルは飛び退き難を逃れるが、ケスターは己の身の軽さが仇となり吸い寄せられるように火炎竜巻に飲み込まれると、灼熱の炎に身を焼かれながら風の刃にきざまれ遥か上空へと吹き飛ばされて行く。


「そんな簡単には終わらないわよね……あの骸骨は任せて。あんたはあのキザな仮面野郎をきっちり仕留めてよね。頼んだわよ、ジョシュ」


 そう言ってセシルはジョシュアと言葉を交わす事なく一方的に語り掛け、ケスターが飛ばされた方向へと駆け出して行った。


「さぁ決着つけようぜアナベル」

「身の程を分からせてやるよ兵隊」


 ジョシュアは剣を構え、アナベルは傍らに火竜を従え再び対峙する。


 アナベルが掌を上に向け片手を上げると、自らの頭上に数個の火球を出現させた。その火球は今までの物に比べるとやや大きく、火球というよりは光球に近くも見え、若干性質も異なるように思えた。


「爆ぜろ虫けら共!」


 アナベルが振り上げた腕を振り下ろすと光球は散り、ジョシュアとゲルト少佐、それにマーカス達が潜む場所へと一気に向かって行く。


「立ち上がれ氷の壁アイスウォール


 ゲルト少佐が咄嗟に唱えた魔法によって氷の壁が出現し光球を阻んだが、光球は氷の壁に触れた瞬間、爆発を引き起こす。周りにつんざく轟音と共に爆風が砕けた氷を飛散させ、辺りを砂煙が覆った。


 しかしひるむことなく間髪を入れずにジョシュアが大剣を一振りすると、砂埃を切り裂き魔力を纏った斬撃がアナベルへと向かって行く。


「ちっ、そんな物……」


 アナベルはそう言って炎の壁で遮るが斬撃は炎の壁さえ切り裂き、アナベルを襲う。

 なんとか身をひるがえしかわそうとしたアナベルだったが僅かに右肩に斬撃を受けると、着けていた仮面も弾き飛ばされた。


「やっと素顔晒しやがったか」


「貴様……許さん」


 口角を上げてジョシュアが剣を構えると、アナベルは目を釣り上げて怒りを露わにしていた。




――

 激戦続く移動基地ベース周辺から少し離れた荒野に一台の車両が岩陰に隠れるようにポツンと停まっていた。


「あらあら、貴重な戦力を分けちゃうからそれはまずいと思ったんだけど、意外に頑張るのね。まぁ実力あるのはわかるんだけど、ちょっとスタンドプレーが目立つのよね、あの子」


 停めた車両の中で一人の女性が楽しそうに呟く。


「リオさん、楽しそうですね。どうですか? どっちが優勢です? この距離リオさんしかんだからちゃんと実況して下さいよ」


 もう一人の女性が少し拗ねたように語り掛ける。

 車両の中にいるのは女性が二人。二人は同じ黒を基調とした軍服に身を包み、互いの口調からリオと呼ばれた女性が位は上である事が窺えた。


「ふふふ、特別席で最高のバトルを観戦してるような物だしね。音や会話が聴こえないのが残念だけど。もうちょっと近寄ったら音なんかも聴こえそうなんだけどねぇ」


「無理ですよ。これ以上近付いて見つかったら面倒なんですから」


「まぁそうなんだけどね。しかし、いくら上級のウィザード相手とはいえあれだけ人数いたんなら、もうちょっと上手く人数誘導したらもっと楽だったろうに。ねぇ、ユウナもそう思わない?」


「私には見えてないんでなんとも。それにいくら鷹の目ビジョンズでも戦場一帯見えるのなんてリオさんぐらいですよ。しかもこんな離れてるのに」


 黒く長いストレートの髪をかき上げながら、瞑ったような細い目の目尻を下げてリオが呆れたように笑ったがユウナに逆に呆れられてしまう。


 鷹の目ビジョンズ

 それはウィザードの中でもほんの僅かな者にしか使えない力で、戦場での味方の動きや敵の動き等をまるで上空から見ているかのように俯瞰ふかん的に見れる力。

 俯瞰的に戦場の動きを把握出来る為、優れた軍師のように重宝される事が多く、今回のリオのように偵察等に使うのは珍しかった。


「それで、どうなんですか? 例の彼の力」


「まぁ見てる限り十中八九、私達が元いた所の技術使われてそう。アレは使用者への負担がやばいから実験は中止されてたはずなんだけどなぁ……持ち出して情報流した奴がいるって事よね」


「どうします? 介入しますか?」


「ふふ、まさか……私達にそんな責任はないし、何より二人であんな馬鹿げた戦いに割って入るつもりはないわよ。今回は観測者に徹しましょう」


 真剣な眼差しを向けて尋ねるユウナに対してリオがにこやかに答えていた。

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