第46話 バレスタの攻防④
「しかしまぁ、こんな乾燥した砂漠地帯でよくこれだけ辺りを銀世界にしましたね。さすがにこれは寒そうだ」
ケスターが両手で自らの上腕辺りを、わさわさと擦りながらそんな事をほざいてみせる。
「ふん、そんな骨と皮だけになって寒さなんか感じないだろうが」
「いやいや、確かにそうですが視覚から伝わったこの風景を見たら人間だった頃の感覚が少し蘇りましてね、寒く感じるんですよ。そう考えると私は感受性が高いようですね」
アナベルとケスターがそんな事を話しながら笑っているのをゲルト少佐は唖然とした表情で見つめていた。
ケスターと名乗るこの者、実力は未知数ながらもスティーブン隊を軽く葬った事を考えれば相当な実力があるのは誰の目から見ても明らかだ。
そしてアナベル。フリーズブラストの跡を見るとアナベルに到達する前に炸裂しているのがわかる。恐らく何らかの障壁や防御系の魔法が発動したに違いない。直撃出来なかったのであれば、あれぐらいの負傷で済んだのもわかる。
ただ問題はアナベルとケスター、この二人を相手にして勝てる見込みは……一パーセントあるか?
ゲルト少佐は冷静に分析するが、すればする程自らの勝機の無さを痛感していた。
あまりにも絶望的な状況に寧ろ笑いさえ込み上げて来そうになる。
「ふふ、どんな状況であろうと作戦を成功させる為に立ち向かうのが兵士の務め……さぁ来い、二人まとめて氷漬けにでもしてやろう」
意を決したかのようにゲルト少佐は二人に向かい、挑発するかのような言葉を述べる。
「ふっふっふ、こんな乾燥し、空気中の水分も乏しい砂漠地帯でこれだけの水系魔法を使えるとは、別の場所ならアナベルさんとももっといい勝負が出来たかもしれませんね」
そう言ってケスターは丁寧な口調で語り掛ける。
確かに水系魔法はこのような乾燥地帯では普段より集中力を要したり、逆に湿った場所では僅かな魔力で威力の高い魔法を使えたりと、その場の環境を受け易い系統ではあった。
「ふん、この地におびき出した作戦は見事にハマったって訳だな」
そう言ってアナベルは嘲笑うかのようにゲルト少佐を見下しながら構える。
ちょうどその時、遥か後方で火柱が上がるのが確認された。
三人の視線が僅かに其方を向く。
「なんだ?
振り返ったアナベルが怪訝な表情で呟いた。
――
「まずい! 隣の車両が吹き飛ばされた!!」
「クソっ! あっちには結構ウィザードが乗り込んでたのに! 救助は後から来る救護チームに任せて俺達はベースまでなんとか急行するぞ!」
隣を走っていた車両が吹き飛ばされジョシュアが叫ぶとカストロが座席を叩きながら仲間達に呼び掛けていた。
教会を制圧した後、ベースに連絡してみたものの連絡はつかず、教会に最低限の兵を残しジョシュア達はベースへ急行していた。
「まだ罠が張ってあるかもしれません。俺が自分の足で先導します。俺の後をついてきて下さい!」
「おい、ジョシュアちょっと待て……」
カストロが慌てて声を掛けたが、ジョシュアは既に外に飛び出した後だった。
仕方なく運転手に若干速度を緩めるよう伝えると、ジョシュアがすぐに車両の前に回り込んできた。
「頼むから
「しませんよ。もしそうなったら轢いた方もトラウマになるでしょうから」
前を走るジョシュアにカストロが通信機で笑って注意を促すとジョシュアも笑って返していた。
「あ、もし轢いても自分は特に責任は感じないんで気にしないで下さい」
「少しは感じろよ!」
運転手も軽口を挟んでくるが、ジョシュアも即座につっこんでいた。
暫く走ると再びジョシュアがトラップマジックに引っ掛かり火柱が上がる。
しかしジョシュアは難なく躱し、それを見た車両は余裕をもって火柱を回避していた。
そうしてジョシュア達カストロ中隊及び多数のウィザードやソルジャーはベースへと辿り着いた。
「クソっ案の定だ……まずは仲間達の安否を確認する」
ベースに着いたカストロが部下達に命令を下す。部下達は頷き複数のチームを組み戦場となったベースを進んで行く。
ベースのあちらこちらでは銃声が鳴り響き、悲鳴や言語不明な叫び声がこだましていた。
「ひとまずあっちに援護に向かうぞ」
カストロの命令に従い皆、其方に向い走り出した時、逆方向に火竜の姿を確認した。
「……隊長すいません。自分はあっちに向かいます」
そう言うとジョシュアはカストロの返事を待つことなく走り出した。
「あ、おい!……ちっ、仕方ない。マーカス、バスケスお前達はジョシュアの援護に向かえ」
「了解!!」
カストロの命令にマーカス、バスケスの両名が声を合わせると、二人揃って駆け出して行く。
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