第44話 バレスタの攻防②
「ゆっくり休んでる場合じゃなくなったわ。救護班、私の右腕すぐにでも動くように出来ない?」
にわかに騒がしくなった拠点としているモーテル内でセシルが捲し立てるように救護班に尋ねていた。
セシルの少し高圧的な物言いにも嫌な顔をせずに救護を担当している女性隊員が満面の笑みでセシルの元へ歩み寄って来る。
「セシル少尉、もし望まれるのであれば折れた腕をくっつける事も出来ます。ただ私の治癒魔法はその方が持ってる治癒能力を促進させる事で治癒する魔法です。わかり易く言うとセシル少尉の折れた右腕の代謝や細胞分裂等を促す為、その部分だけ老化が進むような感じですがよろしいですか?」
ニコニコと穏やかな笑みを浮かべ、落ち着いた口調で尋ねる女性隊員に対してセシルは少し引きつった笑顔を見せていた。
人類、特に女性にとって老化というキーワードは好ましくない言葉ではある。
「そ、そうね。少し動かせるぐらいで、完璧に治さなくてもいいかな」
そう言ってセシルは眉根を寄せてひくつかせていた。
──
時は少し遡る。
バレスタから数キロ離れた位置に設営された二階建ての
すると突然、外に配置した守備兵から通信が入る。
「少佐。こちらに近付く人影を確認。数は十から十五。徒歩でゆっくりこちらに近付いて――」
守備兵がそこまで報告した所で突然途切れ、それと同時に外では火柱が上がる。
ベースの中でも緊張が走り、残った守備兵達が慌ただしく走り回っていた。
ゲルト少佐は基地内二階部分から外の戦局を冷静に見定めていた。
仮面を着けた男が炎を操り、兵達は次々に炎に包まれていく。
そこから少し離れた所ではボロボロのローブに身を包んだドクロの仮面を着けた者が兵達を退けていた。
その者はゆったりとしたローブを羽織っている為遠目からでは男か女か判別はつきにくかったがその者のゆったりした動きや兵達の対応から、恐らくウィザードである事はうかがい知れた。
他にも雷系を操るウィザードや手練と思われるソルジャー等も散見されたが、その二人の実力が抜きん出ている事は明らかだ。
「ふん、仕方ない。あっちのドクロにはスティーブンの部隊を当てるか。こっちの炎のウィザードには俺が行こう」
そう言ってゲルト少佐は静かに部屋を後にし、外へと向かう。
スティーブン中隊。ウィザードとソルジャーが混合で組まれた部隊。この作戦の為に組まれた即席の部隊ではあるが隊員全てが歴戦の猛者達であり、隊長であるスティーブンは先のラフィン共和国との戦いで、一人で相手小隊を全滅させる程の実力を持つソルジャーであった。
尚、各作戦毎に即席の混合部隊が結成される事はよくある事ではあるが、ソルジャーが隊長としてウィザードを率いるのは珍しかった。
「ではスティーブン頼みましたよ。こっちは私が対処しておきますので」
「ええ、お任せを。奴を本物のドクロに変えてやりますよ」
敬礼し笑顔を見せた後、スティーブンは兵を率いて駆け出して行く。
そうしてゲルト少佐は戦場へと降り立った。
『いつぶりだろうか、こうして戦場の前線に立つのは』そんな事を思いながらゲルト少佐は銃弾や火花が散る戦場の中、歩を進める。
「おい、そこの仮面の男! いくつか質問があるんだがお前がアナベルか?」
火球を操り火の海の中心で笑みを浮かべ立ち尽くすアナベルに対してゲルト少佐が声を張りあげた。
「なんだ、やっとまともそうなのが出て来たかと思ったら
そう言った後、アナベルは露わになっている口元の口角を上げる。
「おや? 俺はお前がアナベルか? と問い掛けたんだが言葉が理解出来ないのか? まぁ誰であろうと結果は一緒だがな」
「はっはっは、そうか答えが欲しかったのか。普通の頭なら俺がアナベルってわかりそうなものなんだがな。まぁいいだろう、教えといてやるよ。俺がアナベルだ。他に質問があるなら今のうちだぞ?」
「ふふふ、じゃあもう一つだけ質問だ。ちゃんと死ぬ準備してきたか? 後からあれがしたかった、とか思ってもお前に明日は来ないんだからな」
「はっはっは、残念ながら明日以降もお前達を血祭りにあげる予定で埋まっててな。残念ながら死ぬのはお前の方だろう」
互いが互いを見下し舌戦を繰り広げる。
そして次第に目つきは鋭さを増し互いの魔力が高まり、一帯を殺気に満ちた緊張感が支配していく。
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