第43話 バレスタの攻防

 通信機で仲間達に呼び掛けたが、妨害されているのかまったく誰とも繋がらず、仕方なく遺跡中を巡り共にここに来た仲間達を集めるジョシュアとマーカス。

 仲間達もまた同じようにリザードマンと戦闘になった者もいたようで戦闘継続は不可能と思われる者も数名いた。

 ただそれでも、常に複数名での行動を心掛けていたおかげか戦死者が出なかったのがせめてもの救いだろう。


「結局獣人三体とリザードマン三体に待ち伏せされてた訳か。教会の方も気がかりだな」


 遺跡入口に再び集結し、ジョシュアが見渡しながらそう呟く。


「獣人タイプ他にもいたのか?」


 マーカスが少し驚き尋ねるとジョシュアが振り返り、やや笑みを浮かべて答える。

 ジョシュアがセシル達の元へ駆け付ける前、シャルザークという人狼と戦う羽目になっていた。ただシャルザークはガルフ達と比べるとそこまで強敵という訳ではなく、ジョシュアと他の隊員二名とで比較的楽に討ち取る事は出来た。

 他の隊員達の話を総合すると、どうやらガルフやバロン、それにサミュエル辺りがボス格としてこの遺跡跡で待ち構えていたようだ。


 結局一度遺跡入口に集合したジョシュア達だったがセシルや他にも負傷した隊員達は一度拠点のモーテルに戻り治療を施し、ジョシュア、マーカスを筆頭に戦闘継続が可能な者達はここまで乗ってきた車両で弾薬等を補充すると、カストロ達がいる教会を目指す事となった。


「ま、治療がある程度出来たらすぐに応援に行ってあげるから」


「ふっ、腕折れてんだろ? 無理せず休んでろよ。すぐに戦果持って帰ってくるから」


 痛む右腕を押さえながら笑みを浮かべ強がるセシルにジョシュアが笑って拳を握り、前に差し出した。差し出された拳にセシルが拳を合わせた後、互いに笑顔を見せ別れる。


「それで? 向こうはいったいどうなってるんだ? 誰か連絡は?」


 街中を高速で駆けながらジョシュアがマーカスに確認する。


「遺跡を出る前に連絡は付いた。どうやら向こうも敵と交戦状態らしい。早いトコ応援に行った方がいいかもな」


 それを聞いたジョシュアは小さく頷き、更に加速する。

 教会に向かっているのは全部で五名。決して多い人数ではないがここまで戦い抜いてきたスキルや、何よりジョシュアのソルジャーとしての高い身体能力を考えれば十分な援軍と言えるのではないだろうか。


 だが教会に着いたジョシュア達は驚愕する事となる。

 まずジョシュア達が目にしたのは圧倒的な自軍の仲間達だった。皆それぞれが魔法を放ち、手にした銃器で教団の者達を蹂躙していく。


「ジョシュア、無事だったか。よく来てくれたが、俺達の出番はここまでのようだ」


 ジョシュアに気付いたカストロが駆け寄り声を掛けてきた。

 どうやらカストロから連絡を受けた本隊がジョシュア達が到着する少し前に到着し戦闘を開始したそうだ。


「やはりこれだけウィザードが来てくれると楽ですね」


「ああ、それに相手も数だけはいるが、結局ほとんどが素人の集まりだ」


 ジョシュアが少しほっとした様子でカストロと言葉を交わしていた。

 確かにカストロの言う通り、相手は素人の集まりだった。初めて見る魔法を前にほとんどの者が戦意を失い降伏していたのだ。


「この様子だとこちらの被害は最小限で済んだんじゃないですか?」


「……いや、実はボーラ伍長がやばくてな。治療部隊が今必死で治療にあたってくれてるんだが、血を失い過ぎてるようだ。なんとか持ちこたえてほしいんだが……」


 そう言ってカストロがたくわえた顎髭を触りながら神妙な面持ちで簡易テントに目をやる。

 ジョシュアも驚き、テントに目をやると、その傍でバスケスが膝をつき、祈るような素振りをみせていた。


「……ところでカストロ中隊長。この様子だとこっちにもアナベルの姿は無かったんですね?」


「ああ、無かったな。アナベルどころか、ろくな戦力なんか無かったな。さっきも言った通りここにいるのは烏合の衆だよ。ボーラとバスケスは今日は運が無かったようだ」


 そう言ってカストロは俯き、かぶりを振る。

 ジョシュアは他に新たな動きはないかと拠点のモーテルに連絡を入れた。


「――そうですね。こちらに他の情報は入ってません」


 無線機の向こうからそう告げられジョシュアは言葉を失い、項垂れる。この街じゃなけばアナベルはいったい何処にいるのか?

 ジョシュアがそんな事を考えていると、突然無線機から呼び掛けられた。


「ちょっと、ジョシュア! そこにいるの!?」


 声の主はセシルだ。声の感じからして、だいぶ元気にはなってるようだ。


「ああ、いるぞ。どうした?」


「いい? この街でガルフ達は私達を待ち構えていたのよ? それに詳しくはわからないけど教会の方も銃火器の装備が整ってたんでしょ? 明らかに私達を迎え撃つ準備出来てたように感じるんだけど」


 確かにセシルの言う通り、敵の動きはジョシュア達の動きをあらかじめ予測していたかのようだった。


「確かにそうだな。でもアナベル本人もいないし、だとしたら一体どういう事だ?」


「ガルフ達は兎も角、素人達に銃器持たしただけで私達を迎え撃つなんてちょっとふざけ過ぎよね……!? ジョシュア! カストロ中隊長でもいい! そっちに本隊からの援軍はどれだけ来てるの!?」


 ジョシュアと少し議論をしていたセシルが突然何かに気付いた様に尋ねた。

 何事か? そうは思ったが慌てて振り返り戦場をみつめた。変わらず到着した援軍が圧倒的な力で戦場を支配している。


「……こっちは完勝って感じだな。ここから何か起きる様な気はしないが……」


「そんな事聞いてないわよ馬鹿!! 敵が私達の動きをここまで予測していたのなら明らかにそこの戦力は足りてないでしょ! 逆にこっちは過剰に戦力を注ぎ込んでる……わからない? 本隊の拠点にしてるベースキャンプの戦力が落ちてるの。争いにおいて相手戦力の分散は兵法の基本よ」


「……!! まさか、ベースキャンプの方が狙われてる!?」


「ゲルト少佐に連絡してみましょ」


 この戦いはジョシュア達の圧勝かと思われたが、暗雲が立ちこめる。

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