第41話 ガルフ・シュタット③
バロンと共に人気のない所に場所を移したガルフはまだ少し警戒していた。
「一体何の用だ? てめぇは誰だ?」
「先程も申したでしょう、私はバロン。まぁ話すよりこうした方が早いですかね」
そう言ってバロンは
それを見てガルフは特に驚く訳でもなく、自らも
「はっはっは、なんとなく同族のような気はしていたが虎かよ。それで? 何の用だ?」
「ふっふっふ、噂通り人狼でしたか」
そう言ってバロンはガルフに対する噂を説明し始めた。
どうやらこの前壊滅させたギャング団からガルフが人狼だという噂は広まりつつあるらしい。
「まぁ俺は噂がどう広がろうとも気にしちゃいないがな」
ガルフは両手を広げながらそう言って意に介さずに笑っていた。
「まぁそう言うかとは思ってましたが……我々ライカンスロープの秘密教えましょう」
「秘密だと……?」
先程まで余裕を見せていたガルフだったが一転して怪訝な顔を見せる。
「はい。実は我々ライカンスロープはそもそも──」
「──マジかよ……」
バロンから衝撃の事実を聞かされガルフは困惑に満ちた表情を見せる。
「ええ、だからこれ以上噂が広がれば、中央政府から狙われるかもしれないと思い、同族のよしみで忠告に参ったまでです」
そう言ってバロンが一礼をする。
もしバロンの言う事が真実なら政府から狙われる可能性は十分にあった。
自分一人ならどうとでもなるが、仲間達やミアの事を考えるとやはり巻き込みたくはない。
ガルフは思いを巡らせた。
「……はっはっは、まさかここに来てアイツらが重荷になるか。……一人の方が楽だったか? いや、今更考えても仕方ねぇか」
結局ガルフはミアに産まれたばかりの子を連れて少し離れるよう説得する事にした。
「なんで行かなきゃいけないの? あんたがいたら大丈夫でしょ?」
「まぁあくまで念の為だ。すぐに迎えに行ってやるからよ」
「……ふぅ、じゃあ三人で写真撮ろうよ。あんた写真とか嫌がるけどさ、今回ぐらいいいでしょ? それ御守り代わりにこの子と待っとくからさ」
離れる事を渋るミアにそう提案されてはガルフも了承する他なく、三人で少し離れた町へ行き、そこで親子三人、写真を撮った後潜伏させる事になった。
「ふん。家族写真か……ガラでもねぇな」
町へ戻る車中で撮ったばかりの写真を見てガルフが一人苦笑いを浮かべて呟く。
そんな時、突然ガルフの電話が鳴った。
慌てて着信画面に目をやると、仲間の名前が表示されていた。
「おお、俺だ。どうした!?」
嫌な予感が頭をよぎり慌ててガルフは電話に出る。
「ガルフさん!! 駄目だ。帰って来ちゃ駄目だ!!」
電話の向こうでは仲間が焦りながら必死にそう伝えてきた。そんな仲間の後から聞こえてくる激しい銃声と爆発音。そして誰の物とも言えない悲鳴や叫び声が響いていた。
「どうした!? 何があった!? もうすぐ戻れる! 待ってろ!!」
「駄目だ!! 戻って来たら!! そのままあんたは――」
そこまで言って仲間との通話は突然途切れる。その後、何度もガルフが電話の向こうへ呼び掛けるが再び仲間が応える事はなかった。
ガルフが町へ戻ると、そこには惨状が広がっていた。至る所から炎と煙が上がり、そこらかしこから銃声と爆発音が鳴り響いている。
「ふ、ふざけるなよ……なんだこりゃ」
ガルフは立ち尽くし、震えていた。
何に? 恐怖か? 驚愕か? 怒りか?
恐らくその全ての感情が混ざり合っていたのではないだろうか?
目の前に広がる劣悪な惨状を前に暫く呆けていたガルフだったが、突然思い出したかのように走り出した。
『アイツらはどうなった? 無事か?』
瓦礫に埋もれた町のメインストリートではそこら中に逃げ遅れた町の住人達が横たわっていた。そんな中、炎や煙をかき分けアジトにしていた建物まで駆けて行く。
ガルフが駆けつけた時、そこにアジトは無かった。
あったのは瓦礫の山と横たわり、もう二度と立ち上がる事はない仲間達の遺体であった。
「ふん。ようやく登場か。お前がいないせいで被害がこんなに拡大したぞ。後始末する身にもなれよ。面倒臭いんだから」
そう言って軍の指揮官とおぼしき男がニヤつきながら瓦礫の中に立っていた。
「……てめぇら……俺達でもここまではしねぇぞ」
ガルフの怒りももっともだ。
軍の攻撃はガルフ達のギャング団を対象とした物というより、町全体を対象としていたかのような攻撃だ。
「ふふふ……だからこうなったんだろ? 徹底的にしないから情報が漏れてこんな事になる。敵対勢力は徹底的に潰さなきゃな。こんな風に」
「……はっはっは、そうか。そうだよな……確かに俺がぬるかったようだ。いいぜ、やろうぜ。戦争だ。お前ら全員徹底的に潰してやるよ!!」
そう言ってガルフは人狼へと姿を変え、ゆっくりと軍に向かって一歩踏み出す。
その後軍の総攻撃を受けるも、そんな騒乱の中ガルフは笑いながら全身を血に染め、一人一人血祭りにあげていく。
その後、何処とも知れぬ森の中でガルフは目を覚ます。慌てて起き上がろうとしたが激痛が全身を駆け巡り再び倒れた。
よく見ると全身に傷を負い、一人で起き上がる事すらままならないような状態であった。
「ようやく気が付きましたか」
声がした方に目をやるとバロンが腕を組んでこちらを見ていた。
「……どうなってる?」
「貴方はあの人数相手に大乱戦を繰り広げていた訳ですよ。まぁ最後は力尽きてしまいましたが。ギリギリの所でなんとか助け出したんですけど、それでも敵の目を
「クソっ……まだ足りねえ。暴れ足りねえぞ!!」
「ええ、わかりますよ。奴らは調子に乗り過ぎですね。手伝いましょうか?」
横になり片手で顔を覆いながらもう一方の手で何度も地面を殴るガルフにバロンが手を差し出す。
何も言わずにその手をがっちりと握り返すガルフ。
この日一つの町が消滅し、一つの反抗勢力が産まれた。
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