第37話 激突!! バレスタ⑨
──
「ジョシュア! 大丈夫か!?」
マーカスが到着するとジョシュアとガルフが互いに息を切らしながら対峙していた。
「マーカスか、セシルは?」
肩で息をしガルフと対峙したまま、マーカスを一瞥してジョシュアが尋ねる。
「セシルちゃんはちょいと休憩中だ。代わりに俺が援護してやるから安心しな」
「……それはなんとも心強い」
マーカスが親指を立てて爽やかな笑顔を見せると、ジョシュアが苦笑いを浮かべていた。
「なんだ、嬢ちゃんはリタイアか? まぁ楽しむのはこの後でいいか」
ガルフがそう言って笑っていると、ジョシュアが一気に距離を詰めた。
「お前に『この後』はねぇよ!」
ガルフが向かって来るジョシュアに対して爪を立てて右腕を振る。
身をかがめて躱したジョシュアが、手にしたダガーを突き立てた。
これを左手でいなしたガルフだったが、その勢いのまま回転し、回し蹴りを放つジョシュア。
これはガルフもさすがに右手でガードする。
目まぐるしく代わる攻防。ここまでずっと、こんな超接近戦が繰り広げられていた。
しかしここまで互いに決定打を決めきれずにいた。
自分の眼前に迫る相手の爪や刃物の切っ先。これをギリギリの所で躱す両者の口元は、笑っているようにも見えた。
「おい、ジョシュアだったか? この俺と肉弾戦で互角とはやるじゃねぇか」
少し距離を取ったガルフが語りかけた。
「へへ、そりゃどうも」
苦笑いを浮かべるジョシュアの頬を汗が一筋流れる。
再び静かな緊張が訪れていた。
『やべぇ。入る隙がねぇぞ』
マーカスは離れた所から二人の戦いを見つめ、参戦するタイミングを見計らっていた。
しかしあれ程の接近戦では迂闊に銃を撃つ事も魔法を放つ事も出来なかった。
『アイツよくあんな化け物と接近戦繰り広げられるよな。あんなに接近されたらジョシュアに当たりそうで援護なんて出来ねぇよ……なら、今だよな』
マーカスが空を見上げた後、一人何かに納得したように頷き一気にガルフに向かって駆け出し、銃を乱射する。
「なんだ? サブキャラはサブキャラらしく大人しくしとけよ」
そう言ってガルフもガードを固めながらマーカスに向かって突進して行く。
マーカスの放った弾丸はガルフを捉えるが、ガードを固めたガルフにダメージを与える事は出来なかった。
一気にマーカスの眼前に迫るガルフ。
その勢いのまま右手の爪を鋭利な刃のようにして手刀で突きに行く。
これをギリギリ、身をよじるようにして躱したがマーカスの頬を僅かにかすめたようで、血が滴る。
更にガルフは追撃の手を緩める事なく、左手をなぎ払うように振り回した。
これをバランスを崩しながらも後方に跳び、なんとか躱す事が出来た。
「なんだ? 飛び込んで来たかと思ったら逃げまわりやがって」
ガルフが怒気を孕んだ口調で問いかける。
『ははは……ジョシュアもセシルちゃんもよくこんな奴ら相手に懐に飛び込むよな。許されるならおらぁ逃げ出したい気分だ』
「……だが許されないよな。『風の刃に刻まれよ
マーカスが右手を振り上げると、三筋のカマイタチが土埃を上げガルフに向かって行く。
しかしカマイタチがガルフに迫った時、ガルフは右腕を力いっぱい振り下ろし、あろう事かマーカスが放ったカマイタチを腕力で叩き潰した。
「……!! ま、まじかよ……」
驚愕の表情を見せ、マーカスはその場で固まっていた。
「この魔法はもう何度も見てんだよ。もうお前らが魔法使うのも慣れてきたしな」
ガルフがそう言って笑みを浮かべていた。
しかし次の瞬間、ガルフの背後に迫っていたジョシュアが手にしたダガーを頭上に振りかざした。
即、気配を察知し振り返ったガルフに対してジョシュアがダガーを振り下ろす。
振り返ると同時に迎撃したガルフだったが一瞬早く、ジョシュアのダガーがガルフの顔面を襲った。
「ぐおぉぉぉ」
顔面を押さえ、ガルフが悶絶する。
「俺の事も忘れないでくれよ」
そう言ってマーカスはマグナムを手にする。
象さえも一撃で倒せる。そんなマグナムを至近距離でガルフに向かって引き金を引いた。
凄まじい銃声が鳴り響き、ガルフの背中から血飛沫が舞った。
マグナムの反動は凄まじく、撃ったマーカスも腕を大きく後に持っていかれていた。
すぐに体勢を整え、次弾を撃とうとした時ガルフと目が合う。
次の瞬間凄まじい衝撃と共にマーカスの身体が宙を舞った。
そのまま十数メートル先まで吹き飛ばされ、地面を転がった時、ガルフが足を踏み出しているのを見て、自らが蹴りを喰らったのだとマーカスは気付いた。
「マーカス!!」
ジョシュアが慌てて駆け寄る。
「はっはっは、ちょいとムカついたぜ兵隊ども」
ガルフは血が流れ落ちる左目を押さえながら笑っていた。
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