第33話 激突!! バレスタ⑤

――

 遺跡跡ではセシルが人狼ワーウルフのガルフと人虎ワータイガーのバロンと対峙し、少し離れた場所でマーカスとリザードマンが対峙していた。


「ねぇ、ガルフだったっけ? 貴方達何が目的なの? 人の所乗り込んで暴れ回ったかと思うと、こんな所で待ち伏せしてみたり」


「はっはっは、大して目的なんかねぇよ。あえて言うなら……やっぱり勝てたら教えてやるよ」


 セシルが笑みを浮かべながらガルフに問いかけたがガルフも笑ってまともに答えようとはしない。


「じゃあ殺さないように気を付けなきゃ。アナベルが何処にいるのかも答えてもらわなきゃいけないし」


「はっはっは、もし今降伏するなら後でベッドの中でなら教えてやってもいいぜ」


「ははは、本当ストレス溜まるわ」


 互いに相手を見下したようにふざけた問答を続けていたが、セシルの目つきが鋭くなる。


『風の刃に切り刻まれよ切り裂く風ウィンドカッター


 セシルがそう唱えると突風がガルフとバロンを襲った。

 即防御した二人だったがその身体を風の刃が切り刻む。


 その隙にセシルは二人から僅かに距離を取った。


「はっはっは、この前兵隊が使った同じ魔法なのに姉ちゃんの方が鋭いな」


 ガルフが防御した腕から血を流しながらも、笑ってセシルを目で追う。


「ふん、そりゃこっちが本家なんだからね」


 そう言ってセシルは移動しながらハンドガンを手にし、ガルフに向かって幾度も引き金を引いた。


 放たれた弾丸は確実にガルフを捉えるが、その強靭な肉体を傷付ける事は出来なかった。


ハンドガンそんな物で俺様とやり合おうってか? そりゃ無謀だろ」


 ガルフが鋭く伸びた爪を大きく振りかぶり、一気にセシルとの距離を詰めに行く。


「やだ、近寄らないでよ変態」


 セシルがそう言って右腕を下から上に一気に振り上げる。

 すると竜巻が巻き起こり飛びかかって来たガルフを一気に包み込んだ。


 竜巻に飲み込まれたガルフはそのまま空高くに舞い上がり十数メートル先まで吹き飛ばされた。


 直後、音も無くセシルの背後に忍び寄ったバロンが右腕を振り抜く。


 不意をつかれたかと思われたセシルだったがしゃがんで難なくこの攻撃を躱し、迎撃体勢を整える。

 確実に捉えたと思ったバロンは逆に一瞬動きが止まっていた。


「近寄らないでって言ってるでしょ!!」


 そう言って振りかぶったセシルの右の掌には風がどんどん集まっては凝縮されていく。


「バーストショット!!」


 セシルがバロンに向かって、圧縮した風の塊をぶつけるように右腕を振り抜くとバロンは一気に吹き飛ばされ、遺跡の壁に突っ込んだ。


「強えな姉ちゃん。俺とバロン、二人を相手にしても全く引けを取らねえとはな」


 ガルフが立ち上がりセシルを睨む。

 その顔からは先程まで浮かべていた余裕の笑みは消えていた。

 そして真逆のセシルの後方では埋もれた瓦礫からバロンが立ち上がり胸を押さえている。

 バロンは先程のバーストショットでそれなりのダメージは受けたようだ。


「ふふふ、今頃気付いたの? 謝ったらもう少し優しく躾てあげるけど?」


 セシルは強気な姿勢は崩さず、不敵な笑みを浮かべていた。


 しかし、いくらセシルがウィザードとして突出した能力を有していたとしても、生身の身体で獣人二人を相手にして平気なはずはなかった。


『なめてくれてたのか、本気のコンビネーションで仕掛けられる前に、片方だけでもダメージを与えられて正直助かったわ。あのスピードで二人同時に来られたら上手くいなせたかどうか……』


 実際今はセシルが戦いを有利に進め、相手に幾つも攻撃を当ててはいるが、ガルフやバロンの攻撃をまともに一撃でももらえば華奢なセシルはひとたまりもなく、たちまち形勢は逆転してしまうだろう。


『ふん、一撃すら許されないなんて、何なのこの不公平なハンディキャップは』


 心でそう呟きながらも強い心で作った強気な仮面を取る事はなかった。

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