第34話 激突!! バレスタ⑥

「いいかバロン!合わせろよ」


 そう言って二人が飛びかかり一気に距離を詰め、前と後から挟むようにガルフとバロンがセシルに迫る。


 身構えるセシルに二人が迫った時、一陣の風が吹きガルフ達の視界を僅かに遮った。


「はっは、今更目眩しかよ姉ちゃん」


 そう言ってガルフは視界を遮る風と砂埃を構う事なく腕を振り抜く。それと同時にバロンも背後から右腕で突きに行く。


 確実に捉えた!

 二人がそう思ったが捉えた手応えは全く無く、二人の腕は空を切っただけであった。


「な!? どういう事だ? 何処行きやがった!?」


 ガルフが叫びながら周りを見渡すが完全にセシルを見失っていた。


 この時既にセシルは風の魔法を自らにかけ、上空へと舞い上がっていた。

 上空へかわした事を悟られないように寸前でガルフ達の視界を砂塵で遮っていたのだ。


「吹き荒れよ暴風、我に代わりて敵を討て『荒れ狂う暴風ウィンドストーム』」


 突如として唱えられた魔法に呼応するように凄まじい風が巻き起こり、周りにある岩で出来た遺跡の欠片も巻き込みながらガルフを包み込む。


「クソ! また風かよ!」


 そう言ってガルフは踏ん張ろうとしたが吹き荒れる風の力に抗えず、再び上空高くに舞い上げられると、十数メートル先まで吹き飛ばされた。


 ウィンドストームを放った理由は二つ。

 まずはガルフを吹き飛ばしバロンとの距離を離す事。

 そしてもう一つはバロンの視界を遮る事だった。


『チャンスは一度。確実にここで仕留める!』


 上空より降り立ったセシルが一気にバロンの懐へ潜り込み、腰にたずさえた剣を抜いた。


 少しでも打撃を受ければ致命傷になりかねない相手の懐に飛び込むのは、並大抵の覚悟で出来る事ではなかった。

 だがここで手をこまねいては勝機を逸するのもまた事実。

 セシルは強気な態度とは裏腹に、決死の覚悟で飛び込んで行く。


「剣よ風をまとえ、風よ、我が剣に力をさずけたまえ!」

 

 セシルがそう唱えると、手にした剣は竜巻のような風を纏っていた。

 ウィンドストームの暴風と、それにより弾丸と化した岩や遺跡の欠片から身を守る為腕をクロスさせていたバロンの胸に向かってセシルは一気に剣を突き刺した。


「がはっ……!?」


 竜巻を纏った剣は一気にバロンの胸を貫く。

 セシルを見失っていたバロンは自らの身に何が起こったのかすぐには理解出来ていないようだ。


「……おのれ」


 自らの身体を貫いている剣を掴もうと手をやるが、バロンを貫いて尚、竜巻を纏ったままの剣を掴む事はおろか、触れる事さえ出来なかった。


「終わりよ。切り裂く風ウィンドカッター


 セシルがそう唱えると剣を包んでいた竜巻が風の刃となり一気にバロンを襲う。

 身体の内側から切り刻まれては、ワータイガーといえども耐えられず、四散する。


「……私とした事がこんな所で……」


 首だけとなっても尚、バロンはセシルを睨みつけていた。


「呆れた生命力ね。そんな状態でもまだ息があるなんて。私しつこい人嫌いなの」


 まだ息があるバロンを見てセシルが目を丸くしていた。


「バロンを殺りやがったのか。さすがにもう許さねえぞ」


 怒りに打ち震えているかのようにガルフが立ち上がる。


「こっちだって散々殺られてんのよ。何被害者ヅラしてんのよ?」


 セシルの目もまた怒りに満ちていた。

 ここまで散々挑発する度に笑みを見せていたセシルだったがこの時は笑ってはいなかった。


「おいセシル! 大丈夫か!?」


 聞き慣れた声に振り返ると、そこにはジョシュアが立っていた。


「ちょっと遅いんじゃない? 初めに招かれたのはアンタでしょ?」


 セシルがジョシュアを一瞥いちべつして呟く。


「いや、あっちでも色々大変だったんだよ。それよりもやっぱりガルフてめぇか」


 セシルへの言い訳もそこそこに、ガルフを見つけたジョシュアが睨み、銃を構える。


「へへへ、なんだ遅かったな兵隊。いいぜ二人まとめてかかって来いよ。第二ラウンドだ」


 ガルフが大きな口から舌を出し、両手を下方に広げて構える。


「いや、貴様とはサシでやらせてもらおうか。セシル、下がっててくれないか?」


「大丈夫なの? まぁ向こうのマーカスが心配だったから丁度良かったけど。あんまり無理しないでねジョシュア。やばくなったら『助けて~』って叫んだら駆け付けてあげるから」


 そう言ってセシルがウィンクしながら悪戯っぽく笑って駆け出して行った。


「はは、そりゃどうも……」


 苦笑いしながら呟き、ガルフの方へ向き直す。


「へへへ、後悔するなよ兵隊」

「俺はお前を後悔させてやるよ、ガルフ」


 二人の間の空気が張り詰めていく。

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