第32話 激突!! バレスタ④

 ボーラを抱えながら走っていたバスケスは、ようやく地上に出る階段の所まで辿り着く。


「ボーラ大丈夫か? 俺の身長がもうちょっとあれば、もう少し楽に運べたかもしれないけど」


 バスケスは自虐的な事を言って笑いかけていた。


「ふふ、本当ね。貴方に身長があれば文句は無いんだけどね。まぁ今更身長なんかどうしようもないんだから、無いものねだりしても仕方ないわ」


 そう言ってボーラが力無く微笑む。


 この階段さえ上がり切れば地上に出てボーラの手当が受けられる。

 それはわかっているが追手からの銃撃は激しさを増し、二人は岩陰に身を隠すので必死だった。


「……バスケス、もう貴方だけでも行きなさい。貴方一人ならなんとか地上に出られるでしょ」


「何を言っている!? 置いて行ける訳ないだろ! 今回ばかりは聞けないからな」


「こうして居てくれるのは有り難いけど、このままじゃジリ貧よ。二人共助からないわ」


 実際ボーラの言う通りだった。

 迫る追手の数は増していき、銃撃は激しさを増していく。いくら追手が素人達とはいえ、二人に対して多勢に無勢だ。

 しかも手持ちの残弾も少なくなり、その上ボーラの体力も、恐らくもう限界に近付いていた。


「……ボーラ、最後に俺のバトルスーツに魔力を込めれるか?」


 バスケスが笑顔でボーラに問いかける。


「ええ、いいわよ……ただもうあまり込めれそうにはないけどね……あと笑顔作るの下手すぎ。もうちょっと上手く笑いなさいよ」


 そう言ってバトルスーツのクリスタルに手をかざし魔力を注入するボーラは、優しい笑みを浮かべていた。


「さぁ、満タンとは行かなかったけど火球三、四発は放てる程度には溜まったわよ」


 そう言ってボーラが微笑みかける。

 ボーラの顔色を見ていても色白く、血の気が引いているのがわかる。

 呼吸も荒れ、医療知識が無くても誰が見てもボーラがもう限界である事は明らかだった。


「ありがとうボーラ……とりあえず数秒稼げたらいい」


 そう言ってバスケスは手持ちの爆薬や手投げ弾を迫る追手達に向かって放り投げた。

 

 暫くして爆音が鳴り響く。

 舞い上がる粉塵が辺りの視界を遮る中、バスケスは静かに目を閉じ意識を集中させる。


 ボーラが以前訓練中に

『だいぶ火球も操れるようになってきたし、もうワンランク上のやつも教えとこうかしら』

そう言って教えてくれた魔法を使おうとしていたのだ。


「今ここで訓練の成果出さなきゃいつ出すんだって所だよな」


 そう言ってバスケスが天井に向かって手をかざす。


「出来るはずだ! 爆裂弾バーニングショット


 バスケスの手から放たれた光球は地下の天井部分に着弾した。

 次の瞬間、轟音と共に爆発が起こり、さらなる爆風が辺りを襲う。地下洞窟は瓦礫が崩れる轟音と瓦礫に埋もれる信者達の叫び声が響き渡る。


「後は祈るだけだ!!」


 そう言ってバスケスはボーラを抱き抱え、一気に階段を駆け上がって行く。


 実際バスケスは運が良かった。

 手投げ弾を投げ辺りの視界を遮った後、素人同然の信者達は戸惑い何も出来なかった。

 もし手馴れた兵がいたなら、投げ込まれた手投げ弾の位置からバスケスがいたであろう場所に目星をつけ、銃を乱射していたかもしれない。

 そうなれば目を閉じ魔法に集中していたバスケスは呆気なく凶弾に倒れていただろう。


 そしてもう一つ、追い詰められ逆に開き直れた事で訓練中は一度も成功しなかったバーニングショットが成功した事だ。


 ただ、これはバスケスとボーラが実直に訓練に挑んでいた賜物でもあり、運が良かったの一言で済ますには忍びない。


 バスケスは階段を駆け上がり、隠し階段の出入口を塞ぐようにあった長椅子を蹴破るようにして地上に出る事が出来た。


「救護班! 重傷者だ!! 至急教会内まで来てくれ!!」


 バスケスが声を張り上げ、通信機に向かって必死に叫ぶ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る