第31話 激突!! バレスタ③

「ボーラ、まずい……ここ地下だからか、隊長達に連絡が繋がらない」


 バスケスが持っていた通信機器の電源を幾度となく押すが、何度やっても外部と繋がる事はなく、焦りの表情を見せる。


「え?……ちょっと、冗談でしょ? どうすんのよ、こんな所で」


 ボーラがバスケスを捲し立てるが、だからといって外部と繋がる訳もなく時間だけが過ぎていく。


「……!! おい、あそこ! 誰かいるぞ!!」


 バスケスとボーラが通信に手間取り、静かな討論を繰り広げていると、信者の一人に気付かれてしまった。


「あの者達を捕らえるのです!!」


 ローブを纏った女が焦りながら叫ぶと、その声を合図かのように信者達が一斉に振り返り二人の方へ走り出す。


「まずい!……バスケス!! 貴方だけでも走って地上に出なさい!」


 咄嗟に振り返りながらボーラがバスケスに叫んだ。


「な、なんで俺一人なんだよ!? ボーラも一緒に……」

「遠足に来てるんじゃないのよ! 私が一緒より貴方一人で走った方が断然速いに決まってるでしょ! こんな所で二人モタモタして閉じ込められでもしたら、それこそ目も当てられないのよ」


 バスケスは最初戸惑ったが、ボーラに一喝されて考えを改め、力強く頷く。


「了解した。すぐに戻るから無理はしないように」


「ふふ、誰に言ってんのよ? いい? これは作戦よ。必ず成功させるの」


 そう言ってボーラが差し出した手に軽くタッチしバスケスは走り出した。

 ジョシュア程の脚力は無くとも、バスケスも立派なソルジャー。本気で走り出せばすぐに姿は見えなくなった。


「頼んだわよバスケス」


 そう呟き、迫る信者達に目をやる。


「さすがに一般人を手にかけたくはないわね。上手く加減出来るかしら?」


 そう言うとボーラは信者達の方へ手をかざした。


『立ち上がれ炎の壁フレイムウォール


 ボーラがそう唱えると、たちまち炎の壁が出現し信者達の行く手を阻んだ。

 突然目の前に炎の壁が立ちはだかっては、一般人の信者達はさすがに怯んでる。


「さて、時間稼ぎさせてもらうわよ」


 そう言ってボーラも出口の方へと走り出す。


「油断したなウィザード」


 突然背後からした声に、慌ててボーラが振り向くと、ローブを纏い無精髭を生やした男がすぐ背後に迫っていた。


「な、いつの間に!?」


 ボーラが慌てて体勢を整えたが、一瞬早く男の銃口がボーラに向く。


 次の瞬間、洞窟内に銃声が鳴り響いた。


 咄嗟に身をひるがえし、代わりに火球を男に放つボーラ。

 

 火球は男を捉え、僅かに怯ませたが詠唱を唱えた攻撃魔法等ではなく、ただの火球ではそれ程の威力を発揮する訳ではなかった。


「くっ、おい女! 出てこい! 何処行きやがった!?」


 男が火球に包まれた隙にボーラは岩陰へと身を潜める。

 男はボーラを見失い激高して叫んでいた。


『出てこいって言われて誰が出ていくもんですか。しかしあの動き、間違いなく訓練されたソルジャータイプね』


 思考を巡らせながらボーラは息を殺して自らの脇腹に手をやる。


 手にはべったりと自らの血が付いていた。


 先程の銃撃で身を翻しはしたが、脇腹に命中していたのだ。

 手で押さえてみても出血は止まりそうもなかった。


「……はぁ、はぁ」


 俯き、目を閉じて身を潜めているが呼吸が荒くなってしまう。


「なんだ、辛そうじゃねぇか」


 ボーラが僅かに顔を上げると、男が前に立ち、勝ち誇ったように笑っていた。


「ええ……ほっといても私死にそうだから、そっとしといてくれないかしら」


 力ない笑顔でボーラが呟く。


「なんだよ、背の高ぇ女は好きだから楽しませてもらおうかと思ったのに無理そうかな」


 男は卑下た笑いを浮かべ、ボーラににじり寄った。


 そして一歩を踏み出した次の瞬間、男の足元に魔法陣が出現し、瞬く間に男を炎が包んだ。


「ぎゃあああ」


 男は火だるまになりながら悲鳴を上げて地面を転がっている。聞くに絶えない男の叫び声が辺りに響き渡った。


「ふん。くだらない事考えるからそういう目に会うのよ……私ね、罠魔法トラップマジックの方が得意なのよね」


 そう言ってボーラは笑みを浮かべていたが、その額からは大量の汗が吹き出している。


「はぁ、はぁ……私こんな所で何やってんだろ?地下を這いずり回ってさ……こんなんだから階級も上がらないのかな……」


 そう呟き力を振り絞ってなんとか立ち上がったボーラだったが、その足元はふらつき立つのもやっと、といった様子だ。


「おい、いたぞ。あそこだ、侵入者だ」


 遠のいていく意識の中で信者達の声が聞こえてきた。


「こんな最後って……せめてもう一回旅行とか行きたかったな……」


 そう呟き、岩に身体を預けて慣れない銃を構える。だがその足元は揺らめいていた。


「じゃあこの作戦が終わったら旅行に行こう。俺行きたい所あるんだよ」


 ふらふらになりながら銃を構えるボーラを、すかさず支えるようにバスケスが横から抱きかかえた。


「……!! はは、ひとの独り言勝手に聞かないでくれる?」


「仕方ないだろ聞こえたんだから。もうちょっとだけ我慢してくれよ」


 そう言ってバスケスはボーラを抱き上げ、迫る追手達を振り切るように駆け出して行く。

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