第30話 激突!! バレスタ②

 一方教会に向かったカストロ達は周辺に潜伏し教会に出入りする者達をいくつかの箇所に別れてチェックしていた。


「いいか、出入りしている者にアナベルの関係者がいないかよく見張っとけよ。アナベル本人は勿論、例の人狼達や、リバットで解放された政治犯達がいたら即報告するんだ」


 しかしそんな都合よく対象となる者達が現れる訳もなく、ローブに身を包んだ一般人と思われる者達が現れては教会に入って行くのをただ見ているだけだった。


「もうかれこれ三十人以上は入って行っただろうか」


 監視を続けながらカストロが呟く。


「正確には三十八人ね。このままじゃ埒が開かない。私とバスケスで潜入するわ」


 しびれを切らしたボーラが通信を入れ、カストロに提案する。


「いやちょっと待て軍曹! 潜入ってどうやるつもりだ!?」


「さっきローブ着た連中を拉致したのよ。この人達のローブ着て、私とバスケスが教会に入って行くわ」


「おい! 拉致って!? ちょっと待て軍曹!!」


 いきなり一般人を拉致したと聞かされ、焦りをみせるカストロだったが既にボーラからの通信は切られ、返答はなかった。


 暫くすると背の高い女と、若干背の低い男が教会の前に姿を現す。


「おい、あれって……」

「ええ、ボーラ軍曹とバスケス伍長と思われます」


 カストロが双眼鏡を覗きながら尋ねると、横にいた女性隊員が呆れたように頷き答える。


 こうなってしまうと、もうカストロ達は祈るしかなかった。


――

「よし、すぐに入れ」

「ええ、了解」


 教会の前で男と短いやり取りを終え、ボーラとバスケスは教会の中へと入って行く。


 その後、明かりもついていない真っ暗な礼拝堂へとすぐに辿り着いたが誰もおらず、バスケスは戸惑いをみせていたが、そんな中、ボーラは暗闇で長椅子や机を調べていた。


「おい、お前達何している?」


 突然後から男に声をかけられ、バスケスは挙動不審だったがボーラは冷静に答える。


「ああ、私達はセイランさんの紹介で今日初めて来たんだけど、何処から隠し通路に行けばいいのかわからなくて。ちゃんと聞いてから来ればよかったわ」


「……セイラン……確か熱心に来ているあの太ったおばさんだな。そうか、わかった。そこの三列目の長椅子の下に階段があるから早く行け」


 ボーラの道に入った演技に男は疑う事もなく、隠し階段をすぐに教えてくれた。


 男に礼を伝え、ボーラとバスケスは階段を降って先に進んで行く。


「ボーラ、セイランて誰だ? だいたいなんで隠し通路があるって知ってるんだ?」


 階段を降りながらバスケスが小声でボーラに尋ねる。


「セイランはさっき拉致した人よ。実際にここに向かってた人の名前だから怪しまれないでしょ。それにあれだけの人数が入って行ったのに何処にもいないんだから、何処かに隠し通路があって、その先に皆行ったって少し考えたらわかるでしょ?」


 ボーラが一つ一つ、丁寧にバスケスに説明してみせる。


「凄いなボーラ。あの一瞬でそこまで考えてたなんて。それに男に声をかけられても全く怯んでもいなかったし」


「ふふふ、全ては準備よ。前もって色々なパターンを考えておけば、いざとなった時も冷静でいられるものよ。何? 私の事、常識外れの背が高いだけの女だと思ってたの?」


 そう言ってボーラが笑いながら問いかけたが、バスケスは苦笑いを浮かべているだけであった。


 そのまま二人が階段を降りて行くと、そこには自然が作り出した曲がりくねった地下通路が続いている。そのまま二人は地下通路をどんどん進んで行くと、突然広い空間に出た。

 そこは自然に出来た広場のようで、その空間には数十名のローブを着た者達がひざまずき、祈りをささげている。


 ボーラとバスケスはその列に加わる事はなく、岩陰からその様子をそっと見守っていた。


 暫くそのまま監視を続けていると祈りを捧げている、信者と思われる者達の前に、同じくローブに身を包んだ小柄な人物が立つ。


 遠くから見ているのでローブに隠れて顔までははっきりと見えないが、背格好から恐らく女性であると予想出来た。


「さて皆さん。遂にシャリア様が復活なされました。シャリア様の生まれ変わり、その者の名はアナベル。皆さん我々と共に、アナベルと共にこの不浄な世界を浄化しましょう」


 ローブをまとった女がそう言うと、信者達の間から歓声が上がる。


「まさにカルト教団ね」


 そんな光景を目の当たりにし、ボーラが眉根を寄せて呟いた。

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